過信・軽率・怠惰なアホ男が色んな女の子に変身して無双する話

TARO

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プロローグ

アホ男と初めての変身

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自分と同じ黄色の髪、意志の強さを感じさせる眉、女性の柔らかさと兵士の逞しさを
併せ持った体つき。
目の前に座る女性は自慢の姉、シオン以外の何者でも無かった。
その締まりのない表情と、自分の胸を下品に揉みしだく様子を除けば。
呆然とするレオを尻目に、目の前の姉の姿をした何かは口を開く。
「変身出来た!」
変身。そう言えばさっき兄貴分のアホがアホみたいな事をほざいてたような気がする。
頭の脇に押しのけていた妄言をもう一回拾う。
他人に変身できる能力。消えたアホ。そしてアホみたいな表情で笑う姉…
それらが頭の中で一つになった瞬間、思わず叫んでいた。
「う、嘘でしょっ!?え、本当に、いや、何で!?」
「お前の事で俺に感謝したからじゃね?それとアレだ、無意識下のヨッキューとやら。
俺がこの娘になりたいって思ったんからだな。お前に変身できない訳だ」
この御年25になる男は一回り下の人の姉を一目見るなり
「変身したい」と思ったのか。死ねばいいのに。
「ドウリはどうりでもいい…どうでもいいよ!ちょ、本当に嫌なんだけど」
「何で。尊敬する姉ちゃんと兄貴分が一緒になったんだ。
足して倍々。むしろ喜べ」
しっかり者の姉の口から決して聞けないアホみたいな戯言をほざきつつ、
へっへっへ、とアホみたいに笑う。足を大きく開いてスカートの裾を
ひらひらとさせているのでこちらからは下着が丸見えになってしまっているが
このアホは意識している様子はない。
「「尊敬する姉ちゃん」と「兄貴」だから。
兄貴の成分がおっそろしく邪魔だよ」
務めてまともな評価だが、フォーゼはそれを聞くと両手を握り、一見
ファイティング・ポーズのように顔の前に揃える。さては怒ったか、と思う間もなく
その両手は何かを探るように少し動いた後、あごの辺りで揃えられる。
「もーこんな事言うとお姉ちゃん怒っちゃうぞ☆
メッ☆」
いわゆる「ぶりっ子」のポーズである。顔と声がシオンの物である以上、
何とも可愛らしいが、中身は一介のアホ男、下半身は相変わらず
がに股開きなので物凄いギャップである。
そもそも何で人の姉の姿でぶりっ子してるんだこのアホは。
「兄貴の成分がバグった…
…いや、まさか……
もしかして姉ちゃんに成り切ってるつもりじゃ…」
まさかそんな事は無いだろう。
「お姉ちゃんだよ☆」
そんな事あった!
「全然似てない!
兄貴には姉ちゃんがどういう風に見えてたのさ!?」
あのシオンの姿を見てそのキャラを連想するのなら、世の中の女性すべてが
自分に媚びているように見えるのではないだろうか。
「全く、文句ばっかりだな。
こんなにも凄い魔術を目の当たりにしておいて
何て贅沢なヤツ
…あっ、「ぜーたくだゾ、ぷんっ☆」
今度は片方のほっぺたを膨らまし、そこに人差し指を当てて首をかしげている。
ここまでシオンの顔で頭の悪そうな雰囲気を出せるのは逆にすごい。
「もう似せる気があるかどうかも怪しいよ。
凄い魔術は分かったから、早く戻って欲しい」
そう言うとフォーゼは素直に表情を戻した。もちろん、中身がアホな分
締まりの無さは相変わらずだが、さっきまでのぶりっ子顔からのギャップで、
急にシオンが目の前に現れたかのような錯覚に陥る。
「あー、本気で怒ってるな?
お姉ちゃんがぎゅってしてあげよっか?」
急に優し気な声色を使いながら、フォーゼは両手を広げる。
姿勢上その豊満な胸が強調され、思わず意識を向けてしまう。
「中身」はどれほど再現されているのだろう、などと
姉の体を見ながら考えてしまう。
自分の顔が熱くなるのを感じて正気に戻り、慌てて突っ込む。
「だ、だからその真似全然似てないから!
早く戻ってったらっ!」
そんなレオの様子をどう解釈したのか、フォーゼは打って変わって
引きつったような表情になる。
辛い。アホのアホ面なら何も感じない物を、姉の顔でそんな表情をされると
悲しい気持ちになる。
「…自分から仕向けといて何だが、リアルに姉に
欲情する姿は見ててクるものが……」
睨む。
「わ、悪かったって。そう睨むな、戻るから。」
誠意が通じたようで、フォーゼはようやく元の姿に戻ろうとするようだ。
しかし、そんな簡単に戻れるものなのだろうか?
「確かこの結晶とやらをもう一度使うと…」
フォーゼの体が光り、またたく間に醜くなる…ではなく、元の姿に戻る。
そんな簡単に戻れるものらしい。何と都合のいい能力だろう。
「ふぃー。
流石先生、説明通りの完璧な仕上がりだぜ」
「完璧すぎてぞっとするよ。
いくらでも悪用出来ちゃうんじゃ無い?」
元々が過信軽率怠惰の俗物である。こんなチート能力が天から
降って湧いて出たら、この男はそれを世のため人の為では無く間違いなく
自分の為に使うだろう。
と、フォーゼの方を伺うと存外まともな顔をしている。
「ふっ。先生も社会秩序がどーこうだとかその辺りの
心配はしてたぜ。
それでもあえて俺にこの力をくれたのは、
ひとえに俺の人格を信用してくれていればこそ。
その期待に答えるためにも、俺はこの力を
人助けの為に使うぜ」
「兄貴…」
恐らくその言葉は嘘ではない。
この兄貴分は案外人が好く、師のテリオン先生を尊敬しているのだから。
もっとも、人の好さと師への尊敬だけで行動するような人間なら
今現在こんな有様にはなっていない。フォーゼの思考を推察するに

悪用して金稼ぎというのも考えん事も
無かったが……リスクばっかりでかくて
その実得られる物は然程ねえ。
…それより可愛い子を助けまくって感謝される
方が実益にも精神衛生にもいいに決まってら!
楽して感謝されて愉しみも一杯でオッパイたぁ
溜まらねえぜグエッヘッヘッヘ…

とまあ、おおよそその程度の事を考えているのだろう。
案の定元々締まりの無い顔が更に締まりが無くなり、含み笑いまでしている。
さっきまではシオンの顔だったので、アホ面にも愛嬌があったが
そうなってはアホはただのアホである。
輪をかけたアホ面がただのアホ面に戻るのを待つことしばらく、フォーゼが口を開く。
「…て訳で。俺も25にもなってその日暮らしの
プータローじゃいけねえ。
人助けの旅に出るぜ」
世の中には「冒険者」という、倒した魔物からはぎ取る素材を
主な収入源にして生きる狩人根無し草版の様な職業がある。
もちろん魔物に負けない強さが最低条件なのだが、この「変身」の
力を使い、強い体に変身すれば問題は無いのだろう。
フォーゼが旅に出る。それが現実味を帯びていくにつれ、
レオは思いがけない事を口に出していた。
「…兄貴、俺も連れて行ってくれよ」
「お前を?
馬鹿言っちゃいけねえ。最近は魔物は多いわ
災害は多いわで外はとっても危険なんだ。
俺はこれでも魔術の心得があるが、お前は…」
顔こそアホ面のままだが、声色は明らかに心配の色を帯びていた。
2年前、初めて会った時の事が頭をよぎる。
一緒に遊ぼうぜ、と一回り以上年下の子供にかけるには
明らかに不適切な第一声から付き合いが始まったこの男は、
その言葉通りの遊び仲間であり、そしてそれ以上に
本当の兄の様な存在だった。
「頼むよ、兄貴。
兄貴までこの村を出て行ったら、俺は本当に
一人っきりじゃないかよ」
「レオ…」
人の好さの数百倍軽率な兄貴分が、何かとんでもない事をやらかさないか
見張っとかないと。
後から考えた名目だが案外それも的を射ているな、と
また良からぬことを考えてそうな兄貴分の顔を見てレオは思った。
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