この恋が叶わなければいいのに

ぶた猫

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『貴方のことなんて、ずっと、大嫌いでした』








 この恋が叶わなければいいのに。何度願ったか、願いすぎて神様も聞き飽きただろう。叶ってしまえば彼を苦しませることになってしまう。
 それは何としても避けたいのだ。
 だからどうか私の想いに気づかないでいて──






 春の木漏れ日。桜の香りが鼻腔をくすぐる。
「もう、春なんだ……早いなあ」
 私、〈櫻庭 柚子香〉は高校二年生になる。
 見た目も、性格も、平々凡々。
 大した特技もなく、物語の登場人物で例えるならモブ。誰の目にも留まることはないそんな人間。

 だが、そんな私でも夢くらいは見るのだ。
 それは、一生に一度の恋。

 馬鹿馬鹿しいと思われても仕方ないだろう。たかが恋なのだ。そんなこと考えなくとも人生で何度か訪れるかもしれないこと。

 だが私には、訪れるかどうか分からないのだ。



 ────なんせ、来年には、死を迎えねばならないからだ。



 最初はとても驚いた。
 私が? どうして!?
 やりたいことも見つかってないのに!!



 何度泣いただろう。
 何度怒っただろう。
 何度、夢であってくれと祈ったことだろう。




 最初は怒りに任せて、親にも当たったりもした。『なんで私はこんな結末迎えなきゃ行けないの!!』なんて。
 そうやって当たってもどうにもならないことは分かっていた。でも当たらないとどうにかなりそうだった。そうしてすぐに、虚無感に襲われた。

 私なんて、もともと価値のない存在だから悲しむ必要ないかって割り切ってそれから半年流れた。






「良かった…今年の桜、見ることできて…………来年は見れないだろうけどさ」
 誰に聞かせるでもない、ただの独り言。自分に言い聞かせて、舞い散る花びらを眺めていると、ふと人の気配を感じて後ろを振り向いた。

「ぁ、……」

 いつから人がいたのか、全く気付かなかった。

 振り向いた先にいたのは、新入生の音の子。何故わかったのかと言うと、制服の胸ポケットに『入学おめでとう』と書かれた飾りをつけていたからだ。

 彼は、少しあどけなさが残る顔立ちだが凛々しい涼やかな顔をした子だった。一番印象的だったのはアーモンド色をした色素の薄い切れ長の瞳。
 何故か全てを見透かされているような、不思議な感覚になる、そんな目だった。

 彼の目を見つめ続けていると、気まずそうに目をそらされてしまった。
 どうしたものかと立ちすくんでいると「…今のどういう意味なんですか」と、聞かれてしまった。

「……………………え、何が?」
 まさかあの独り言が聞かれていたなんて。必死になんと答えようかと考えた結果、微妙な間を作った上にどう考えてもすっとぼけているような返答をしてしまった。

 新入生の彼は切れ長の目をすっと細めるとくすりと笑みをこぼした。
「うーん、録音しておけば良かったですね? こうやってすっとぼけられてしまうので」
「いや、別に、すっとぼけてないし…」

 ものの見事に見透かされていることに、動揺を必死に隠しながら言葉を重ねてみるも、挙動不審な言い方しかできない自分に腹が立ってしまいそうだ。

 彼はすらりとしたしなやかな長い指を顎に当てて、考える素振りを見せるとにこりと微笑んだ。

「でしたら、さっきの大きな独り言、聞いていなかったことにするので俺のおねがい、聞いてくれますよね?」
 見蕩れてしまいそうになる笑顔に、思わず心臓が跳ねてしまう。
 恋に落ちる、そんなものではなく、嫌な予感で、だが。





 思わず渋面を作りながらも「聞いてあげましょう」なんて言ってしまっている私を見た彼は、とても満足そうにしていた────


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