魔法猩々ゴリラ☆ゴリラ 〜童貞と死の国〜

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第二話 僧正は モンクじゃなくて プリースト

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 東大の構内は、朝の柔らかな光に包まれていた。正門から伸びる並木道を、庄司誠治は鞄を肩にかけながら歩いている。昨日の夜を思い出すと、まだ頭が混乱する。猿の国、犬の国、魔法猩々ゴリラ☆ゴリラ……そんな言葉を軽々しく受け入れられるはずがない。けれど、この朝は特別だ。彼の隣には、まるでゆるキャラめいた小さな猿──サルルート君がいる。杖を肩に担ぎ、軽やかに跳ねるような足取りで誠治を先導していた。

「で、猿の国と犬の国が戦ってるってのは本当なのか」
 誠治が問いかけると、サルルート君はチラリとこちらを振り返る。
「うん、本当だよ。猿の国は資源が少なくてね、ずっと苦戦してるんだ。魔法の国って言うと夢みたいに聞こえるかもしれないけど、こっちも現実は厳しいのさ」
「魔法の国にしちゃ随分生々しい話だな……」
「確かにそう思うかもね。でも猿の国には、人間の精神を強化する魔法資源だけは豊富にある。だから僕たちリクルーターは、人間界から優秀な人材をスカウトしてるんだ。君みたいに腕力と知力の可能性を秘めた人をね」
「なるほど。つまり、お前が俺を選んだのはそういう理由か」
「そのとおり。僕はサルルート君、猿の国の正式なリクルーターなんだ」

 キャンパスの道端には、他の学生たちが行き交っている。みんなスマホを覗き込んだり、友人と談笑したり、ごく普通の日常の中にいる。昨夜、狂犬が空から降ってきたなんて、誰が信じるだろうか。

「犬の国も黙ってないってわけか」
「うん。彼らは僕たちが人材を確保しようとすると、それを邪魔するために狂犬を派遣してくるんだ。昨日、君を襲った連中がまさにそうだよ」
「……変身すればひと噛みされても大丈夫とはいえ、あんな連中にしょっちゅう襲われるのは勘弁だな」
「大丈夫だって。慣れれば平気だよ。時給6000円でどう?そこそこ悪くないでしょ?しかも犬の国を倒せば人間力が強化されて、就活でボコボコにされなくなるかもよ」
 サルルート君が軽い調子で言うと、誠治は思わず肩をすくめる。
「時給6000円ね……それに、人間力が手に入るってのはかなり魅力的だな。昨日までどこ行ってもお祈りメールばっかりだったんだぜ」
「だからこそ、君にとってはチャンスだと思うんだ。バイト感覚でやっていいからさ」

 誠治は少し笑う。バイト感覚で異世界紛争に参加だなんて、常識じゃ考えられない。けれど、この奇妙な状況下で自分が「選ばれた」らしいことが、ちょっとだけ嬉しい。人材不足とはいえ、誰も自分を必要としてくれなかった現実世界と違って、ここでは需要があるのだ。

「わかった、とりあえず手伝ってやるよ。ただ……やっぱり危険は付き物なんだろ?噛まれたら廃人になるとか勘弁してくれよ」
「変身中は平気だって言ってるじゃないか。君、フィジカル強いし判断力もある。敵の親玉を狙えばいいんだよ」

 そのとき、遠くの講義棟裏から聞き慣れた唸り声が響いた。誠治は眉をひそめる。
「またかよ……」
「そうみたいだね。犬の国の邪魔が早くも入ったらしい。さて、どうする?」
「何度聞くんだよ。噛まれたくねえし、正面から戦うのは怖いからな……とりあえず変身して逃げ回りながら親玉探しだ」
「対応早いね。じゃあ、変身お願いね」

 誠治は人気のない脇道へと足早に向かう。念じると、体が熱を帯び、筋肉が膨張していく。魔法猩々ゴリラ☆ゴリラ──このトンチキな名前の変身が今では頼みの綱だ。
「よっしゃ、行くか……」

 変身した誠治は、驚くべき脚力でキャンパスを駆け抜ける。裏庭に回り込むと、やはり狂犬たちが木々の間をうごめいていた。歯を剥き出し、咥内から糸を引く唾液が見るからに危険そうだ。
「親玉、どこだ……見当たらねえ」
 仕方なく一匹ずつ蹴散らす。タックルで叩き伏せるたび、犬どもは低い悲鳴をあげて吹き飛ぶが、それでも次から次へと襲いかかる。
「くっ、キリがないな。こんな調子じゃ、そのうち噛まれる……!」
 焦りが募る。少し油断すれば、牙がすぐそこまで迫っている。背後からカサリと音がして、誠治はハッとする。このままじゃ本当に追いつめられる。

「……あんた、バカっぽいわね。こういうときはまとめて倒すのよ」
 聞き慣れぬ女子の声が背後から響く。振り返ると、そこには奇妙な風体の少女が立っていた。和尚のような衣装、しかし髪型はツインテール。可愛らしい顔立ちをしているが、なんともミスマッチな格好だ。
「誰だお前」
「名乗る必要ないわ。見てなさい、私のソニック木魚で一網打尽にしてあげる」
 少女は木魚らしき得体の知れないアイテムを掲げると、そこから衝撃波のようなものが放たれた。すると数匹いた狂犬たちがまとめて吹き飛び、地面に転がる。

「す、すげえ……!」
 広範囲攻撃で狂犬は一瞬で沈黙。誠治が感心していると、少女はジロリとこちらを睨む。
「ところであんた、さっき天下の東大生様だとか言ってなかった?いかにも気取った感じでキモいんだけど」
「なっ、言ってない……っけ?」
 動揺する誠治。そういえば、焦って口を滑らせた気もする。
「いかにも東大生って感じよね、プライドばっかり高くて」
「お、お前にそんなこと言われる筋合いない!」
 口が立たない誠治は、不利な状況だ。少女は鼻で笑うように「へぇ」という視線を送ってくる。そのツンと尖った態度が、やたらとイラつく。

「くっ……だいたいお前だって、その……貧乳のくせに偉そうにするなよ」
 自分でも意味不明な捨て台詞だが、口から出てしまったものは仕方ない。少女は一瞬きょとんとした後、目に涙を浮かべて顔を真っ赤にし、わなわなと震え始める。
「な、なんだとー!覚えてなさいよ、絶対許さないんだから!」
 怒りにまかせた叫びとともに、彼女は踵を返して走り去った。

 誠治は狐につままれた思いで、その背中を見送る。あの奇妙な和尚スタイルのツインテ少女はいったい何者だったのか。ソニック木魚であれほどの力を発揮するなんて。
「結局なんだったんだ、あいつ……」
 変身を解き、サルルート君が陰からひょっこり顔を出す。
「多分、あの子も僕たちみたいに猿の国と契約した戦士だろうね。リクルーターはたくさんいるって言ったでしょ?」
「他にもいるのかよ……ややこしいな」
 誠治はため息をついた。友好的どころか、ケンカ別れに近い形で去った少女。猿の国と犬の国の戦いには、彼の知らない人間たちが次々絡んでくるらしい。

 朝の日差しは相変わらず穏やかで、周囲の学生は特に何事もなかったかのように通り過ぎていく。今起きた出来事は本当に現実なのか──誠治の心には、謎と不安と奇妙な期待が渦巻いていた。
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