真贋鑑定士 鹿目和哉

千代原口 桂

文字の大きさ
30 / 30
八章

八章 五分の五

しおりを挟む
「もう俺だけの問題やないんです! 俺は姉ちゃんの結婚までブチ壊した!」

 原因は罪悪感、珍しい話では無かった。

「妊娠してたんですよ! 知らんかったで済まされん、最悪や。生まれる前に子供まで片親にしてしもた!」

 身内に対する負い目が、晋吾の決意を強固にしていた。

(嗚呼、面倒臭いし、腹も立つ……)

 和哉の悪い癖が顔を出す。

「それは贖罪しょくざいのつもりですか?」

「贖罪?」

「罪滅ぼしです。それで、犯した罪をつぐなってるつもりなのかとたずねたんです!」

「何や? お前喧嘩売っとるんか!」

「こっちのセリフですよ。中途半端に反省して罪を償う? 貴方にそんな権利ある筈ないでしょう」

「判っとるわ! そやし刑期務め上げるまで勝手は出来ん言うとるんじゃ!」

「それが中途半端だと言ってるんです! その手は犯罪を犯す為だけに使うのですか? 不幸をばらく時だけ使うのですか?」

「ち、違うわ!」

「何が違うのです? 貴方は刑期を終えるまで、絵は描かないと言ったんですよ。傲慢ごうまんにも自分から……」

 才能に対して、和哉は一切の妥協を許さない。

「……」

「その手が生み出す、人を豊かにする可能性を放棄して贖罪? もう一度うかがいますよ。貴方はそれで犯した罪を償ってるつもりですか?」

「……」

ほとんどの人は反省するしか贖罪の道がありません。でも、貴方は違うでしょう! 手段がある!」

「手段?」

「その手を動かせと言ってるんです! 何でも良いので動かせと! 少なくとも、そうすれば経済面からはサポート出来ます。お姉さんを代理人にすれば……」

「代理人?」

「そうです。代理人です。代理人になって貰って経済面で支えることくらいです、今の貴方に出来ることは……。それも放棄して贖罪しょくざいはありえない!」

「無理です、あんたらは、知らんから……姉ちゃんは、そんな簡単にかつげるタマやないんです!」

「そうでしょうか? 少なくとも現状の、橘花さんの立場では代理人を欠かすことが出来ません。それを理由にお願いしたら……お姉さんは断らないんじゃないですか? 貴方のチャンスでもあるんですから!」

「だいたい、行方が判りません。七年近く絶縁状態で、居場所もつかめんのですよ」

「捜しますよ。簡単には見つけられないかも知れませんが……」

「どうやって?」

「何かヒントを下さい。例えば、二人の思い出の場所とか……、思い入れのある品とか……」

「思い入れのある……昔、姉ちゃんにペンダントを贈りましたけど、もう売ってる思いますよ」

「それって、オリジナルの作品ですか?」

「まぁ、そうですけど……」

「デザインを下さい。見つかれば大発見になります!」

 その後、ペンダントは質屋のネットワークを使って直ぐに見つかり、困難に思われた姉探しも鶴太郎の一件で事なきを得た。

(問題は瑞稀さん……でも、稔侍翁ねんじおうが京都に残れば、ワンチャン怒られないで済むかも……)

 和哉はこっそりと右手の手袋を外した。

「稔侍翁、これから人と会う約束があるんですけど、ご一緒にいかがですか?」

 その手に宿る能力の話は、また別の機会に……。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...