ルビアーナの恋

素亭子

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「やっぱり、これは領主様のとこにいくしかないよ。」ゴーゴーと音をたてて、いつもよ
り水かさが増している川を見降ろしながらロンがつぶやく。「そうかもしれないけど、
誰が行くんだよ、お前行って頼めるのか?」リュウがロンをにらんで答えた。
リュウのいうことは分かる、いくら問題があるからって領地の民、それも何の地位もない平
民がいきなり領主を訪ねたって会ってくれるはずもないし、下手をしたら捕まってしまう
可能性だってある。「そうよねぇ・・・これはやっぱり、私が行くしかないのよね」しゃが
みこんでちょっとしびれてしまった足を延ばして立ち上がり、スカートについてしまった
土をパタパタと叩きながら2人のほうを見ながら話した。二人はちょっと不安そうに私の
方を見る。ハゴエワンの国で北に位置するここカナン州の領主様は最近代替わりしたば
かり。とても領民思いで、有能、思慮深いと有名らしい(私は会ったこともないし、噂だか
ら本当のところは分からないけど)

カナンの地は南北に川が流れていて、それによって恩恵も受けているけれど、その川のせい
で災害をこうむることも少なくない。特に今年はこれまで雨が多かったせいで何度か川の
一部が氾濫して大小の被害が出ていた。

 私ルビアーナはカナンの最北で代官を代々務める家の娘で、両親が既に亡くなっている
我が家で、弟が成人するまでは代官代理を務めることになっている。なので、大雨が降るた
びに川のほうを眺めては(今回は氾濫しませんように!!)と祈る日々なのだ。大きな災害
となる前にしっかりとした堤防を築く工事が必要なのはわかっているが、代官の力だけで
解決できるようなはずもなく、かといってカナンの中で最北のこの地はあまり重要視され
ていないらしく、領主様の巡視も数年に一度という悲しい状況にあった。「冬には凍るとは
いっても最近は違う港だってあるんだし、大事な土地だと思うんだけどなぁ・・・はぁ・・」
と、愚痴ってみても始まらない。今年は雨が続く梅雨入りが早いといわれているから、それ
迄になんとかする必要があるのだ。「何度か陳情のお手紙は送っているんだけど、やっぱ
りそれじゃあダメってことよね・・・ハンスに相談してなるべく早く州都にいる領主様の所
を訪ねることにするわ」私達(私だけ?)はため息をつきながら三人で川が眺められる
高台を後にした。

「はぁ?州都にいく?本気ですか?」案の定家令を務めるハンスには反対された。「仕方な
いじゃない!手紙を送っても一向に返事はないし、領主様の巡視なんて待ってたら何時に
なるか・・・災害はまってくれないのよ、うちの蓄えだけじゃ堤防の完成なんて到底無理な
んだから!」「会ってくれるかもわかりませんよ、王都のほうで事業もされておられるよう
だし、州都にいない可能性だってあります。」「それなら王都まで行くまでよ!」ポンポンし
た私たちのやり取りを、弟のイアンと女中頭で私たち姉弟の乳母でもあるマーサが首を左
右に揺らしながら心配そうに見ている。「どっちみち、ここにいたってできることはないん
だから行くしかないわよ」これ以上言い合いにならないうちに2階の自室に向かって逃げ
るように階段を駆け上がると、後ろから悲鳴に近いような声が聞こえた。「どうやって堤防
の建造費を出すことを説得するつもりなんですか?!貴女に色仕掛けなんて無理なんです
よ!!」「失礼ね!やってみなくちゃわからないでしょ!!」振り返ってハンスを睨んでか
らドアをバタン!と閉めた。
鏡の前に座って自分の顔を覗き込む。まぁ,造りは悪くはないと思うのよね、美人で、母
になっても父様に「君ほど綺麗な人はいない!」と言われ続けた母様ゆずりの金髪と小顔
ではあるし、ちょっとたれ目だけど、父様ゆずりの青みがかったグリーンのパッチリの目
と、いくら外でやんちゃなことをしても大して日にも焼けない白い肌ではあるし・・・。
でもね・・・柄じゃぁないのよね・・色仕掛けって何よ?ピンクの布でも掛けるわけ?イ
ヤイヤ無理でしょ、胸だって普通サイズだし、どうやっていいかなんてわかんないわよ。
「はぁ・・ま、なるようにしかならないわよ、とりあえず行くしかないでしょ」寝る支度
を整えながら、色仕掛けのシュミレーションではなく、川の氾濫と堤防の重要性について、
我が領の発展性と最北の港の利用についてを如何にして伝えるか考えていた。



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