ルビアーナの恋

素亭子

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 「ルビアーナ、そこにあるクーパー(外科用ハサミ)取って!」

「はい、これね」

「うん、…よし、これで終わり、後は包帯を巻いておいてくれ」

「わかりました」

涙目になって腕を差し出していた若い男性に笑いかけてテキパキと包帯を巻いていく。
「大丈夫ですよ、先生、口は悪いけど腕は良いから。明日また見せに来てくださいね」
ありがとうございます、と言って患者さんは出て行った。後にはここの診療所の医師であるベンと治療後のかたづけをしている私が残る。

「口が悪いかな・・・俺」頭をポリポリと搔きながらうらめしそうにベンがこちらを見る。

「そうですね・・・男性は平気かもしれませんけど、女性や子供達にはもう少し優しく言ってあげないと・・・。」

「あんなになるまで、ほっとくからいけないんだ、もう少しで腕を切り落とさなきゃいけなくなるかもしれなかったじゃないか!」

手を動かしながら答える。
「だから、そういうところです。怖がりますよ、普通そんなこと言われたら。大変なことになるところでした、次はもっと早く来てくださいね。これくらいでいいんです。」

「そんなんじゃわかんないだろ」
ベンは診察用の処置ベッドに腰かけてこちらを見た。「昼はどうする?いつもの湖亭に行くか?」

「昼休みにちょっと銀行に行きたいので一旦うちに帰ります。今日は家で食べることにします。」処置のかたづけが終わったので、自分の帰り支度をしながら彼の方を振り返った。
「じゃ、午後の診療には間に合うように戻りますますので」

「わかった、またあとでな」

診療所から借りているアパートまでは歩いて10分くらい、町のメイン通りを行くので途中この町で唯一の銀行もある。カナンの北東である隣の州の州都から馬車で1時間のこの町に来てから5か月がたった。ようやく少しだけまとまったお金ができたので、リンデルに少しお金を返すことができる。堤防造成にどれくらいのお金がかかったのか、本当に全て返せるのか自信がないけど、取り合えずは自分の出来ることをするしかない。
季節は秋から冬に向かっていて、カナンより北東にあるこの州の冬はどれくらい寒いのだろう。内陸で海はないが、大きな湖があるこのテンバーというこの町が私は気に入っていた。
銀行で、わずかばかりのお金をリンデルの商会宛に送金してからアパートに帰る。キッチンの他にはベッドがやっとおける1部屋だけ。一人暮らしも、ここまで狭い家も初めてだけれど、住めば都とはよくいったもので、ちょっと手を伸ばせばすべての物がとれるこの小さな家が私は気に入っていた。お湯を沸かしてお茶を飲む。朝のパンとスープが残っていたはずなので、パンはそのままで、スープを温め直して食べた。

料理はまだあまりできない、未だ務めだして数日の時に、診療が長引いて遅くなった時があった。ベンに遅くなったので送ると言われた時は少し警戒してしまったけれど、彼は薬指の指輪を見せて、何もするわけがないと笑った。何よりその黒い瞳をやさしく感じていたし、好ましかった。送ってもらったときに、私がお湯を沸かそうとするのを見て、例の調子で「火事にするつもりか?!」と怒り出して、お湯の沸かし方、火の取り扱い方を教えてくれたのだ。後になって気が付いた。あの優しい黒い瞳はリンデルに似ている。顔は全く違うけれど。澄んでいて、光の加減で紫色にも見える素敵な瞳を見ると、嬉しくなって、ちょっと胸がキュンとするのだ。
今頃リンデルはどうしているんだろう・・・。
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