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【番外編4】バルカ家の冬の宴 - una vacanza invernale della Casa Barca -
アルテミシアは広く明るい寝室に入るなり、大きな寝台をめがけてフラフラ進み、マットレスの弾みで身体が浮くほど強く倒れ込んだ。
疲れた。
これほど疲れる宴会は、他に類を見ない。
疲れたと言っても、大勢の親類や親しい知人が集まる宴会に気疲れしたわけではない。単に遊び疲れたのだ。
サゲンの家族とその親族は、みな気のいい人たちだ。
ママ・ミクラはロベルタの倍くらい世話焼きで、アルテミシアをまるで末っ子のように扱い、サゲンが止めるまで料理やデザートをあれこれと勧めてきたし、パパ・エンジは概ね無表情のままだが男社会で仕事をするアルテミシアを気遣って、仕事はどうかとか、陛下は優しいかとか、ミシナにいじめられていないかとか、いろいろと聞いてきた。まるで初めて学校に行く末娘を案じる父親のようだった。
そしてアルテミシアはこの日、初めてサゲンの妹に会った。
バルカ三兄弟の末妹ミウミ・テレサはアルテミシアをひと目見るなり嬉しそうに破顔して力いっぱい抱擁してきた。甥っ子たちもそれに倣ってアルテミシアに抱きつき、或いは飛びついて、新しい伯母をもみくちゃにした。
最初はバルカ家当主に嫁いできたどこの家の出身かもよく分からない新妻を品定めするように接していた多くの親族も、アルテミシアが女王付きの通詞であり海賊団掃討に一役買ったことを知ると、みな態度を改め、寡黙なサゲンにはよく喋るこの嫁が似合いだと言って喜んだ。
そういうわけで、アルテミシアはこの宴でサゲンよりも注目を集め、船乗り時代に培ったカードの腕を親類のおじさん連中相手に発揮して小銭を稼いだり、造船業を営む夫妻と最新式の船の造船を見学させてもらう約束を取り付けたり、ミウミを始めとする婦人たちや親戚の女の子たちからはサゲンとの馴れ初めをあれこれ聞かれたり――これは当たり障りのない返答で何とか躱したが――、甥っ子たち相手に夜会用の煌びやかなドレス姿のまま木刀で剣術指南をさせられたりと、とにかく忙しい夜を過ごした。
「風邪をひくぞ」
いつの間にか寝室に入って来ていたサゲンがベッドに腰掛け、アルテミシアの方に身を乗り出して、するりと髪を撫でた。
アルテミシアはサゲンの大きな手を両手で包み、頬を擦り寄せた。温かいサゲンの熱が頬に染み込んでゆく。
「楽しかったね」
「どちらかというと、君がみんなを楽しませていたな。疲れたんじゃないか」
サゲンは苦笑した。
「すっごく疲れた。でも、みんないい人で楽しかった。サゲンがこういうところで、優しい人たちに囲まれて育ったんだなってわかったから、嬉しかったよ」
「そうか」
サゲンの唇が優しく弧を描き、曇り空の下の海のような瞳が暗く翳る。
「…俺はあまり楽しくなかった」
アルテミシアがハシバミ色の目を開き、サゲンの顔を見つめた。少女のように小首を傾げる仕草が、いつもの凜とした姿に対比していっそうしどけなく、情欲を煽る。それも、本人は無自覚だ。
「なんで?」
「君を他の連中に取られていたから」
サゲンの指が唇をなぞると、アルテミシアは身体の奥に火が灯ったように顔が熱くなった。
「まっ、またそういう…」
サゲンは最後まで言わせずに、アルテミシアの唇を自分の口で塞いだ。アルテミシアの呼吸が甘やかなものに変化するのが、肌で分かる。
「だから、今からは俺だけのものだ」
「ふふ。もう――」
子供じみた言い草だ。思わず笑い出してしまったアルテミシアに、サゲンはもう一度キスをした。今度はもっと深く、淫らなキスだ。
「ん、は…。サゲン…」
アルテミシアの息が上がり始めた頃、サゲンはアルテミシアの頭の両脇に手をついて覆いかぶさり、上からまじまじとアルテミシアを眺めた。
「…なに?」
甘い蜜色の混じったハシバミ色の瞳が熱に溶け始めている。
「綺麗だ。脱がせるのが惜しい」
アルテミシアは耳まで焼けた鉄のように赤くした。
この日、バルカ一族の冬の宴のためにアルテミシアが着ているのは、宴の主役に相応しく、収穫時期のトマトやヒナゲシの花を思わせる鮮やかな赤のドレスで、アルテミシアの肌や赤みがかった金色の髪によく映え、襟は肩まで大きく開いて金と真珠のネックレスに飾られた細い首を長く見せ、軽やかに広がるケープ状の袖から長くしなやかな腕が覗いている。せいぜい鎖骨の下ぐらいまでの長さしかない髪を流行の髪型にふんわり結って美しく仕上げたのは、バルカ家に長年従っている軍門の家の息女で、器用な手先でいつもエラやケイナが宴の時に苦労している髪をあっという間に結い上げた。見事な手腕だ。
サゲンはアルテミシアのうなじにつ、と指を滑らせた。ざわざわとアルテミシアの肌の上を快感が走り始める。
「髪も似合っている。宴の間、俺がどれだけここに――」
と、サゲンはアルテミシアの首筋をくすぐるように撫でて言った。
「――噛みつきたいと思ったか、知らないだろう」
「…!」
アルテミシアは喉の奥で小さく呻いた。
サゲンの唇が、舌が首を這い、肌の柔らかいところに吸い付いてくる。
「んん…、ずるいよ。サゲンも見せて」
アルテミシアはサゲンの肩を掴んで引き剥がし、眉を上げてちょっとおかしそうに目を細めたサゲンを見上げた。
「かっこいい」
きちんと後ろに撫でつけられて整えられたサゲンの栗色の髪に指を挿し入れ、アルテミシアはその端正な貌をじっと眺めた。鳩尾の中から胃のあたりを何かがパタパタと飛び回ってひどく落ち着かないのに、触れ合っているとここが世界で一番安心する場所だと感じる。
アルテミシアはサゲンの輪郭を手のひらでそっとなぞり、唇に触れ、しっかりした顎を撫でて、ざらりと触れる微かな髭の感触を指の腹に受け、喉仏を通って、サゲンのワインレッドのクラバットに手を掛けた。
クラバットをスルスルと解き、シャツのボタンを外していくアルテミシアの指が時折肌に触れて、サゲンの身体に新たな熱を走らせる。
サゲンは堪らず唸ってアルテミシアの手首を掴んでベッドに押し付けると、息もつかせず唇を塞いで舌を挿し入れた。
「んん!」
アルテミシアは唇の下でまだ途中だと抗議しているようだが、最早構わない。
「はっ…、君が煽るからだ」
もう笑う余裕もない。サゲンは反論を許さずに唇をもう一度塞ぎ、スカートの裾から手のひらを滑り込ませて膝から腿に触れ、下着の紐を解いて奥に触れた。
「ふっ、うぅ!」
唇が離れた瞬間、アルテミシアは空気を求めるように口を開いて息を吐き、下唇を噛んだ。そうでもしなければ、中に入ってくるサゲンの指のせいで大きな声をあげてしまいそうだ。
「ああ、こら」
サゲンは顎をつまんで口を開かせた。
「あっ…!」
「声を出してもいい。閉め切ってあるから外には漏れない」
「で、でも…」
親族が大勢滞在している屋敷で淫欲に溺れるなど、なんだかいけないことをしている気分だ。
「やめるか?」
まったくやめる気などない調子だ。アルテミシアが顔を赤く染めてふるふると小さく首を振ると、サゲンは唇を淫靡に吊り上げた。
サゲンの指が既に熱く濡れている場所を優しくなぞり、入り口の突起に触れた。びりびりと快感が全身に広がり、身体の奥が溶け出して、このもどかしい快楽のもっと先を求めている。
アルテミシアがサゲンの胸に縋り付き、熱くなった身体を持て余している間、サゲンはドレスの小さな留め金を右脇に見つけてさっさと外してしまった。アルテミシアはいとも簡単に脱がされて下着姿になってしまったのに、サゲンは乱れたシャツに解かれたクラバットをぶら下げ、ベストも前を開いたまま身に付けている。
なんとなく、不公平だ。
アルテミシアはサゲンの襟を掴んで自分の方へ引き寄せ、ちょっとおかしそうに目を細めたサゲンにキスをした。
「けだもの」
「褒め言葉と取っておく」
ぐ、とサゲンが指を奥に挿し入れてきたので、アルテミシアは甘い息を吐いて叫んだ。同時にアンダードレスを引き下ろされて胸に吸い付かれ、先端を舌でつつかれると、もう力が入らなくなってしまう。
「ああ…」
開かれた白い襟から覗く首筋と鎖骨が逞しい骨格を肌に描き、普段は心に仕舞ってあるサゲンへの激しい欲望を溢れさせた。
「サゲン…」
「まだだ」
サゲンは鳩尾へ、臍の下へと滑らかな肌を唇で辿り、アルテミシアの中心を広げてそこに舌を這わせた。頭上でアルテミシアが甘い声で叫ぶのが聞こえる。顔が見えないのが勿体ないが、まあ仕方ない。
「ひゃっ、あ…!」
アルテミシアの腰が跳ねた。自分でも制御できない感覚に、思考も蕩かされていく。
指を中に埋められたまま上部を舌でつつかれ、吸い付かれて、アルテミシアは迫り来る絶頂に身を委ねた。脱力する間もなく、サゲンが強く抱き締めてきて、深く口付けてくる。
ひどく淫らな口付けの間にサゲンは邪魔になったベルトを外し、服を脱ぐこともままならず、アルテミシアの腿を抱えて、熱く潤った内部に押し入った。
「んぁっ…!サゲン…!」
「いいのか。こんなにして」
サゲンは意地悪く唇を吊り上げて言ったが、サゲンにもそれほど余裕がないことは、アルテミシアには分かっている。青灰色の目の奥に炎が燃えて、もっと深くまでアルテミシアを欲している。自分も多分そうだ。サゲンの目に映る自分はきっと燃えるように熱く、淫らな姿に違いない。
「あっ、あ、いい。…気持ちいい」
繋がったまま入り口を撫でられ、奥を強く突かれ続け、やがて目の前が真っ白になるほどの快楽が全身を包んだ。
サゲンは気が遠くなるような快楽に満たされながら、自分の身体の下で乱れるアルテミシアの顔を目に焼き付けた。
この瞬間が堪らなく好きだ。
いつも夏空のように快活で人に囲まれているミーシャが、自分だけのアルテミシアになる瞬間が。
「可愛い。俺のアルテミシア・ジュディット」
愛おしくて堪らないという表情で、サゲンはアルテミシアの頬に触れた。
アルテミシアはこれ以上ないと思っていた鼓動がもっと速くなって身体中に火を点けていくのを感じた。もっと貪欲にサゲンが欲しくなる。
サゲンは急激な収縮に耐えかねて一度身体を離し、アルテミシアの身体をひっくり返して腰を掴み、狂おしいほどに熱くなった部分で彼女の中心に触れた。
「ぅあっ…、ちょっと、待って。まだ――」
「だめだ」
「ああ――!」
自分の最奥部の形が分かるほど深く突き入れられ、アルテミシアはあまりの快感に悲鳴を上げた。繰り返される律動がより激しい快楽を身体の奥に刻み、背中から感じるサゲンの苦しそうな息遣いが、時折背中に落ちてくるサゲンの唇が、アルテミシアの衝動を更に大きくしていく。
再び襲ってきた絶頂に浸る暇もなく、アルテミシアは仰向けに転がされて脚を肩に抱えられ、一番深いところまでサゲンに抉られた。
身体が意思を無視して再び絶頂を迎え、内部がびくびくと震えて硬く熱いサゲンの一部を締め付けている。
アルテミシアは荒い呼吸を繰り返して、今にも泣き出しそうな目でサゲンを見上げた。
「もう、だめ。おかしくなる…」
「それは困るな」
サゲンの目が獣性を露わにしてギラリと光った。
「もっとおかしくなってもらわないと」
「えっ、あ――!」
この後、何度昇り詰めさせられたか分からないほど激しく攻め立てられた。
アルテミシアがサゲンの背に爪を立てて甘美な悲鳴を上げ、サゲンを強烈に締め付けた時、サゲンもようやく彼女の中に激しい熱を解放した。
「けだもの…」
散々に抱き潰されたアルテミシアが掠れ声で詰った。きれいに結われた髪は乱れ、情交の余韻で瞳は潤み、外は雪が降るほど寒いのに、身体中を火照らせ、汗を浮かせている。
「君に言われるとぞくぞくする」
サゲンは乱れた自分の髪をかき上げてにやりと笑い、アルテミシアの身体を腕の中に収めた。
「…そういうところも、好き」
言っていて恥ずかしくなったのか、アルテミシアは頭をサゲンの胸に押し付けて顔を隠した。
「わたしだけが知ってるサゲンだから」
サゲンはアルテミシアの頬を両手で挟んでこちらを向かせ、誘惑するように甘い笑みを浮かべて、優しい口付けをした。
「もっと独り占めしていいんだぞ」
「じゃあ、もっとぎゅってして」
アルテミシアの目が幸せな弧を描いてサゲンを見つめ、柔らかく温かい身体がぴったりとくっついた。
「エラたちも休暇を楽しんでるかな。イグリがエラを故郷に連れてくって挨拶に来たけど、あの二人――…ねえ、なんで脱いでるの?」
サゲンは布団の中で身体にまとわりついていたベストやシャツを脱いでベッドの外に放り出し、アルテミシアにのしかかって首にキスした。
「まだ足りない」
不埒な手がまたしても乳房を覆い、甘く低い声が肌に触れる。
「えっ」
「あんなふうに誘われたら我慢できない」
「ん…ちょっと、待って。少し休ませて――」
「だめだ」
サゲンが吐息で笑い、アルテミシアの口を塞いだ。
アルテミシアは抗議する余裕もなく陥落し、サゲンの熱に溺れた。明日はまた宴があるし、休暇が終わればまた仕事に追われる日々が始まる。二人がお互いだけのものでいられる時間はじゅうぶんではない。
だが今は、触れ合う熱だけが世界のすべてだ。
疲れた。
これほど疲れる宴会は、他に類を見ない。
疲れたと言っても、大勢の親類や親しい知人が集まる宴会に気疲れしたわけではない。単に遊び疲れたのだ。
サゲンの家族とその親族は、みな気のいい人たちだ。
ママ・ミクラはロベルタの倍くらい世話焼きで、アルテミシアをまるで末っ子のように扱い、サゲンが止めるまで料理やデザートをあれこれと勧めてきたし、パパ・エンジは概ね無表情のままだが男社会で仕事をするアルテミシアを気遣って、仕事はどうかとか、陛下は優しいかとか、ミシナにいじめられていないかとか、いろいろと聞いてきた。まるで初めて学校に行く末娘を案じる父親のようだった。
そしてアルテミシアはこの日、初めてサゲンの妹に会った。
バルカ三兄弟の末妹ミウミ・テレサはアルテミシアをひと目見るなり嬉しそうに破顔して力いっぱい抱擁してきた。甥っ子たちもそれに倣ってアルテミシアに抱きつき、或いは飛びついて、新しい伯母をもみくちゃにした。
最初はバルカ家当主に嫁いできたどこの家の出身かもよく分からない新妻を品定めするように接していた多くの親族も、アルテミシアが女王付きの通詞であり海賊団掃討に一役買ったことを知ると、みな態度を改め、寡黙なサゲンにはよく喋るこの嫁が似合いだと言って喜んだ。
そういうわけで、アルテミシアはこの宴でサゲンよりも注目を集め、船乗り時代に培ったカードの腕を親類のおじさん連中相手に発揮して小銭を稼いだり、造船業を営む夫妻と最新式の船の造船を見学させてもらう約束を取り付けたり、ミウミを始めとする婦人たちや親戚の女の子たちからはサゲンとの馴れ初めをあれこれ聞かれたり――これは当たり障りのない返答で何とか躱したが――、甥っ子たち相手に夜会用の煌びやかなドレス姿のまま木刀で剣術指南をさせられたりと、とにかく忙しい夜を過ごした。
「風邪をひくぞ」
いつの間にか寝室に入って来ていたサゲンがベッドに腰掛け、アルテミシアの方に身を乗り出して、するりと髪を撫でた。
アルテミシアはサゲンの大きな手を両手で包み、頬を擦り寄せた。温かいサゲンの熱が頬に染み込んでゆく。
「楽しかったね」
「どちらかというと、君がみんなを楽しませていたな。疲れたんじゃないか」
サゲンは苦笑した。
「すっごく疲れた。でも、みんないい人で楽しかった。サゲンがこういうところで、優しい人たちに囲まれて育ったんだなってわかったから、嬉しかったよ」
「そうか」
サゲンの唇が優しく弧を描き、曇り空の下の海のような瞳が暗く翳る。
「…俺はあまり楽しくなかった」
アルテミシアがハシバミ色の目を開き、サゲンの顔を見つめた。少女のように小首を傾げる仕草が、いつもの凜とした姿に対比していっそうしどけなく、情欲を煽る。それも、本人は無自覚だ。
「なんで?」
「君を他の連中に取られていたから」
サゲンの指が唇をなぞると、アルテミシアは身体の奥に火が灯ったように顔が熱くなった。
「まっ、またそういう…」
サゲンは最後まで言わせずに、アルテミシアの唇を自分の口で塞いだ。アルテミシアの呼吸が甘やかなものに変化するのが、肌で分かる。
「だから、今からは俺だけのものだ」
「ふふ。もう――」
子供じみた言い草だ。思わず笑い出してしまったアルテミシアに、サゲンはもう一度キスをした。今度はもっと深く、淫らなキスだ。
「ん、は…。サゲン…」
アルテミシアの息が上がり始めた頃、サゲンはアルテミシアの頭の両脇に手をついて覆いかぶさり、上からまじまじとアルテミシアを眺めた。
「…なに?」
甘い蜜色の混じったハシバミ色の瞳が熱に溶け始めている。
「綺麗だ。脱がせるのが惜しい」
アルテミシアは耳まで焼けた鉄のように赤くした。
この日、バルカ一族の冬の宴のためにアルテミシアが着ているのは、宴の主役に相応しく、収穫時期のトマトやヒナゲシの花を思わせる鮮やかな赤のドレスで、アルテミシアの肌や赤みがかった金色の髪によく映え、襟は肩まで大きく開いて金と真珠のネックレスに飾られた細い首を長く見せ、軽やかに広がるケープ状の袖から長くしなやかな腕が覗いている。せいぜい鎖骨の下ぐらいまでの長さしかない髪を流行の髪型にふんわり結って美しく仕上げたのは、バルカ家に長年従っている軍門の家の息女で、器用な手先でいつもエラやケイナが宴の時に苦労している髪をあっという間に結い上げた。見事な手腕だ。
サゲンはアルテミシアのうなじにつ、と指を滑らせた。ざわざわとアルテミシアの肌の上を快感が走り始める。
「髪も似合っている。宴の間、俺がどれだけここに――」
と、サゲンはアルテミシアの首筋をくすぐるように撫でて言った。
「――噛みつきたいと思ったか、知らないだろう」
「…!」
アルテミシアは喉の奥で小さく呻いた。
サゲンの唇が、舌が首を這い、肌の柔らかいところに吸い付いてくる。
「んん…、ずるいよ。サゲンも見せて」
アルテミシアはサゲンの肩を掴んで引き剥がし、眉を上げてちょっとおかしそうに目を細めたサゲンを見上げた。
「かっこいい」
きちんと後ろに撫でつけられて整えられたサゲンの栗色の髪に指を挿し入れ、アルテミシアはその端正な貌をじっと眺めた。鳩尾の中から胃のあたりを何かがパタパタと飛び回ってひどく落ち着かないのに、触れ合っているとここが世界で一番安心する場所だと感じる。
アルテミシアはサゲンの輪郭を手のひらでそっとなぞり、唇に触れ、しっかりした顎を撫でて、ざらりと触れる微かな髭の感触を指の腹に受け、喉仏を通って、サゲンのワインレッドのクラバットに手を掛けた。
クラバットをスルスルと解き、シャツのボタンを外していくアルテミシアの指が時折肌に触れて、サゲンの身体に新たな熱を走らせる。
サゲンは堪らず唸ってアルテミシアの手首を掴んでベッドに押し付けると、息もつかせず唇を塞いで舌を挿し入れた。
「んん!」
アルテミシアは唇の下でまだ途中だと抗議しているようだが、最早構わない。
「はっ…、君が煽るからだ」
もう笑う余裕もない。サゲンは反論を許さずに唇をもう一度塞ぎ、スカートの裾から手のひらを滑り込ませて膝から腿に触れ、下着の紐を解いて奥に触れた。
「ふっ、うぅ!」
唇が離れた瞬間、アルテミシアは空気を求めるように口を開いて息を吐き、下唇を噛んだ。そうでもしなければ、中に入ってくるサゲンの指のせいで大きな声をあげてしまいそうだ。
「ああ、こら」
サゲンは顎をつまんで口を開かせた。
「あっ…!」
「声を出してもいい。閉め切ってあるから外には漏れない」
「で、でも…」
親族が大勢滞在している屋敷で淫欲に溺れるなど、なんだかいけないことをしている気分だ。
「やめるか?」
まったくやめる気などない調子だ。アルテミシアが顔を赤く染めてふるふると小さく首を振ると、サゲンは唇を淫靡に吊り上げた。
サゲンの指が既に熱く濡れている場所を優しくなぞり、入り口の突起に触れた。びりびりと快感が全身に広がり、身体の奥が溶け出して、このもどかしい快楽のもっと先を求めている。
アルテミシアがサゲンの胸に縋り付き、熱くなった身体を持て余している間、サゲンはドレスの小さな留め金を右脇に見つけてさっさと外してしまった。アルテミシアはいとも簡単に脱がされて下着姿になってしまったのに、サゲンは乱れたシャツに解かれたクラバットをぶら下げ、ベストも前を開いたまま身に付けている。
なんとなく、不公平だ。
アルテミシアはサゲンの襟を掴んで自分の方へ引き寄せ、ちょっとおかしそうに目を細めたサゲンにキスをした。
「けだもの」
「褒め言葉と取っておく」
ぐ、とサゲンが指を奥に挿し入れてきたので、アルテミシアは甘い息を吐いて叫んだ。同時にアンダードレスを引き下ろされて胸に吸い付かれ、先端を舌でつつかれると、もう力が入らなくなってしまう。
「ああ…」
開かれた白い襟から覗く首筋と鎖骨が逞しい骨格を肌に描き、普段は心に仕舞ってあるサゲンへの激しい欲望を溢れさせた。
「サゲン…」
「まだだ」
サゲンは鳩尾へ、臍の下へと滑らかな肌を唇で辿り、アルテミシアの中心を広げてそこに舌を這わせた。頭上でアルテミシアが甘い声で叫ぶのが聞こえる。顔が見えないのが勿体ないが、まあ仕方ない。
「ひゃっ、あ…!」
アルテミシアの腰が跳ねた。自分でも制御できない感覚に、思考も蕩かされていく。
指を中に埋められたまま上部を舌でつつかれ、吸い付かれて、アルテミシアは迫り来る絶頂に身を委ねた。脱力する間もなく、サゲンが強く抱き締めてきて、深く口付けてくる。
ひどく淫らな口付けの間にサゲンは邪魔になったベルトを外し、服を脱ぐこともままならず、アルテミシアの腿を抱えて、熱く潤った内部に押し入った。
「んぁっ…!サゲン…!」
「いいのか。こんなにして」
サゲンは意地悪く唇を吊り上げて言ったが、サゲンにもそれほど余裕がないことは、アルテミシアには分かっている。青灰色の目の奥に炎が燃えて、もっと深くまでアルテミシアを欲している。自分も多分そうだ。サゲンの目に映る自分はきっと燃えるように熱く、淫らな姿に違いない。
「あっ、あ、いい。…気持ちいい」
繋がったまま入り口を撫でられ、奥を強く突かれ続け、やがて目の前が真っ白になるほどの快楽が全身を包んだ。
サゲンは気が遠くなるような快楽に満たされながら、自分の身体の下で乱れるアルテミシアの顔を目に焼き付けた。
この瞬間が堪らなく好きだ。
いつも夏空のように快活で人に囲まれているミーシャが、自分だけのアルテミシアになる瞬間が。
「可愛い。俺のアルテミシア・ジュディット」
愛おしくて堪らないという表情で、サゲンはアルテミシアの頬に触れた。
アルテミシアはこれ以上ないと思っていた鼓動がもっと速くなって身体中に火を点けていくのを感じた。もっと貪欲にサゲンが欲しくなる。
サゲンは急激な収縮に耐えかねて一度身体を離し、アルテミシアの身体をひっくり返して腰を掴み、狂おしいほどに熱くなった部分で彼女の中心に触れた。
「ぅあっ…、ちょっと、待って。まだ――」
「だめだ」
「ああ――!」
自分の最奥部の形が分かるほど深く突き入れられ、アルテミシアはあまりの快感に悲鳴を上げた。繰り返される律動がより激しい快楽を身体の奥に刻み、背中から感じるサゲンの苦しそうな息遣いが、時折背中に落ちてくるサゲンの唇が、アルテミシアの衝動を更に大きくしていく。
再び襲ってきた絶頂に浸る暇もなく、アルテミシアは仰向けに転がされて脚を肩に抱えられ、一番深いところまでサゲンに抉られた。
身体が意思を無視して再び絶頂を迎え、内部がびくびくと震えて硬く熱いサゲンの一部を締め付けている。
アルテミシアは荒い呼吸を繰り返して、今にも泣き出しそうな目でサゲンを見上げた。
「もう、だめ。おかしくなる…」
「それは困るな」
サゲンの目が獣性を露わにしてギラリと光った。
「もっとおかしくなってもらわないと」
「えっ、あ――!」
この後、何度昇り詰めさせられたか分からないほど激しく攻め立てられた。
アルテミシアがサゲンの背に爪を立てて甘美な悲鳴を上げ、サゲンを強烈に締め付けた時、サゲンもようやく彼女の中に激しい熱を解放した。
「けだもの…」
散々に抱き潰されたアルテミシアが掠れ声で詰った。きれいに結われた髪は乱れ、情交の余韻で瞳は潤み、外は雪が降るほど寒いのに、身体中を火照らせ、汗を浮かせている。
「君に言われるとぞくぞくする」
サゲンは乱れた自分の髪をかき上げてにやりと笑い、アルテミシアの身体を腕の中に収めた。
「…そういうところも、好き」
言っていて恥ずかしくなったのか、アルテミシアは頭をサゲンの胸に押し付けて顔を隠した。
「わたしだけが知ってるサゲンだから」
サゲンはアルテミシアの頬を両手で挟んでこちらを向かせ、誘惑するように甘い笑みを浮かべて、優しい口付けをした。
「もっと独り占めしていいんだぞ」
「じゃあ、もっとぎゅってして」
アルテミシアの目が幸せな弧を描いてサゲンを見つめ、柔らかく温かい身体がぴったりとくっついた。
「エラたちも休暇を楽しんでるかな。イグリがエラを故郷に連れてくって挨拶に来たけど、あの二人――…ねえ、なんで脱いでるの?」
サゲンは布団の中で身体にまとわりついていたベストやシャツを脱いでベッドの外に放り出し、アルテミシアにのしかかって首にキスした。
「まだ足りない」
不埒な手がまたしても乳房を覆い、甘く低い声が肌に触れる。
「えっ」
「あんなふうに誘われたら我慢できない」
「ん…ちょっと、待って。少し休ませて――」
「だめだ」
サゲンが吐息で笑い、アルテミシアの口を塞いだ。
アルテミシアは抗議する余裕もなく陥落し、サゲンの熱に溺れた。明日はまた宴があるし、休暇が終わればまた仕事に追われる日々が始まる。二人がお互いだけのものでいられる時間はじゅうぶんではない。
だが今は、触れ合う熱だけが世界のすべてだ。
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