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16 しるし - une cicatrice ou la fierté -
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カーテンの隙間から漏れる早朝の柔らかい陽光が寝室を仄かに明るく照らし、オルフィニナの髪を朝陽の色に輝かせ、その間から覗く白い肩を艶めかせている。
ルキウスは自分の腕の中で静かな寝息を立てるオルフィニナの赤い髪をくるくると指で弄んだ。
これほど高揚した気分で迎える朝は知らない。
彼女の無垢な身体を強引に開き、否応なしに歓喜に震える彼女の官能的な唇から溢れる甘い声に耳をくすぐられながら、一度ならずその甘美な身体の奥を自分のもので満たした。
こういう行為は、かつて火遊び程度に何度も経験してきたことだ。それなのに、オルフィニナとのことはまるで違う。肉体の核から際限なく熱が生まれるような感覚だ。その肌に触れるだけで、自分では制御できない昂りが生まれ、このぬくもりから離れられなくなる。
このまま永遠に自分のものになればいい。
彼女は一時的なものと考えているかも知れないが、政敵を一掃し王権を掌握した後も手放すつもりはない。オルフィニナ・ディートリケ・ドレクセンには、その価値がある。身体の相性の良さがその根拠の一つだ。この甘美な身体に飽きる日が来るとは思えない。そして、その闘争心にも。
何の用意もせずに事に及んだのが意図的だったと知ったら、オルフィニナはひどく腹を立てるのではないか。その時の顔を想像すると、愉悦が胸を打つ。
ルキウスは吸い込まれるように首の窪みに口を付け、柔らかい皮膚に吸い付いた。彼女の肌からジャスミンに似た香りが立つ。
「ぅん…」
オルフィニナが甘い声で唸ってごろりと寝返りを打ち、ルキウスの方を向いた。血管が青く透けるほど白い目蓋が小さく震え、赤い睫毛が目元を煙らせるようにその影を長く伸ばしている。
オルフィニナは眉を寄せて寝苦しそうに頭をもぞもぞさせ、ルキウスの腕がちょうどよく首の窪みに挟まると、穏やかな顔に戻り、再び規則的な寝息を立て始めた。
「ふ」
ルキウスは思わず笑い声を漏らした。
心を許していないはずの相手の腕の中で、これほど呑気に眠っていられるとは、いったいどういう精神構造をしているのだろう。
「君の脳と心臓を開いて中を覗いてみたいな…」
ルキウスが呟いて、左胸で咆哮する狼に触れたとき、オルフィニナが突然目を開いた。今まで深く寝入っていたのが嘘のように、はっきりと開いた琥珀色の目でルキウスの顔を凝視している。
朝に目を覚まして初めて見せる顔がこれほど完璧に美しいとは、どういうことなのか。オルフィニナはますます不思議な女性だ。
一発や二発は殴られるかと思って多少身構えたが、オルフィニナの反応は予想とは違っていた。
「なぜわたしの部屋で寝ている?」
声が掠れている。咎め立てするような調子はなく、本当に心底不思議に思っているような言い方だ。
「君と朝まで一緒にいたかったから」
ルキウスが自分でも意外に思った真実を告げると、オルフィニナはますます理解ができないというような顔で訝った。
「別に、見張らなくても逃げたりしない。不本意だがこうなってしまったものは仕方がない。やると決めたことは最後までやるよ」
「そういうことじゃない」
口に出した瞬間、ルキウスは自分で驚いた。オルフィニナの勘の悪さを不満に思っている自分がいる。だが、何故そんな必要がある。彼女が最後までやり抜く覚悟を決めたのなら、満足するべきではないか。
(それにしても、‘仕方がない’とは何だ)
昨夜自分の腕の中であれほど快楽に溺れて嬌声を上げ、今は腕の中で目を覚ましたばかりの女が、初めて会った日に自分を雪の上に蹴り倒したときとまるで同じような顔で、白々としている。
この苛立ちの正体も分からないまま、ルキウスはちょっとした意趣返しをしてやろうと思った。
「身体は大丈夫?」
びく、とオルフィニナの身体が震えた。ルキウスが柔らかい臀部へ手のひらを滑らせ、その中心へ指を這わせているからだ。
「…問題ない」
そう返答するオルフィニナの声が、小さく震えている。
「じゃあ――」
指が中心へ入り込む前に、オルフィニナは身体をよじってルキウスの手から離れ、毅然と言った。
「問題ないが、さすがに休ませて欲しい」
「ハハ。だめ」
ルキウスは魅力的な笑顔で悪魔のようにオルフィニナの要求を拒絶し、その身体をやすやすと抱き寄せた。
「ちょっと、待っ――う…」
抗議の声を上げる前に、ルキウスが胸の先端に吸い付き、ルキウスを押し返そうとしたオルフィニナの腕から力を奪う。
「…ねえ、ニナ。これ――」
ルキウスは狼の刺青に触れた。横を向いて咆哮する狼の頭部には、複雑で緻密な文様が彫られている。ここに、ルキウスは昨晩何度も吸い付いて赤く痕を残した。朝陽が射す寝室の中では、白い肌に付けられた痣が尚更鮮明に見える。まるで狼が血を流しているようだ。
「――いつ?」
「…十五。王家の名を与えられる直前だ」
「彫り師は誰?」
「ヘルガという娘だ。見ての通り特別な文様だから、これを彫れる彫り師は限られている。ルッツに内緒で彫ってくれと二、三人の彫り師に当たったら、みな命に関わると嫌がった。唯一修行中の娘だけがわたしの願いを聞いてくれた。境遇がわたしと似ていたからかも知れないな。彼らの世界も女は肩身が狭い」
「幸運だったな。君も彼女も」
ルキウスは柔らかいオルフィニナの胸に触れるだけのキスをして言った。
男ならそいつを探し出して殺していた。とは、言わなかった。冗談めかしたとしても、多分本心が見え透いただろう。
「狼の中の文様、文字に見える」
奇妙な感じだ。まじまじと乳房を観察されるのは、なんとも居心地が悪い。ジリジリと火で炙られているような気分だったが、声だけは平静を保ってオルフィニナは続けた。
「伝統文様の中に、‘金の星を呑む狼の子’を意味する古代の言葉が含まれている。クインの狼も同じだ。ベルンシュタインはみな同じ言葉を持つ狼を身体のどこかに刻む」
「金の星を呑む狼って?」
ルキウスはオルフィニナの狼の輪郭を指でなぞった。彼女は気づいているだろうか。指で胸に触れるたび、そこが熱を持ち、色づくことに。
「…っ、ん…」
「続けろよ」
意地悪く笑うルキウスを恨めしげに睨め付け、オルフィニナは続けた。
「アミラの古い神話だ。この世に夜しか存在しなかった古い時代、天を走る真っ黒の狼が夜空に浮かぶ金色の星を全て呑み込んで、金色の眼と太陽のように輝く体を得、地上に降り立って、世界に朝をもたらした。その狼が降りたのが、ツークリエンの山なのだそうだ」
「じゃあこれは、君の信仰か」
「信仰とは違う」
「心の中で大切にしているものを、他に何て呼ぶんだ?」
ルキウスは昨晩何度もしたように、狼の印に強く吸い付いて赤い痕を残した。何をここにしまっていたとしても、オルフィニナはもう自分のものだ。
「気にならないのか。仮初めとは言え妃になる女が疵物というのは」
「俺は疵と思わない」
オルフィニナは顎を引いて胸にキスするルキウスの顔を見た。
不思議だ。自分の身体を好き勝手に扱われているのに、今の言葉だけで大切にされているように錯覚してしまう。
この刺青の存在を知っているのは、当時まだアドラー家に身を寄せていた姉のエミリアとクインだけだ。二人ともオルフィニナの選択を、「大事な身体に疵を付けた」と言って非難した。
王家の名を与えられてなお侍女を付けなかったのにも、そういう理由がある。王家の娘の身体に‘疵’があるなどという重大な秘密を、誰かに負わせるわけにはいかないと思っていたからだ。
が、ルキウスは違うことを言っている。
「君みたいに自分の価値を知ってるクソ真面目な人間が、自分の身体に生涯消えない印を残すと決めたんだから、疵のはずがない。君が刻んだのは誇りだろ。違うのか?」
「違わない」
この時ルキウスは、初めてオルフィニナ・ドレクセンの素顔を見た気がした。目が柔らかく緩み、唇は力が抜けたように綻んでいる。
こんなふうに胸に迫る感覚を、ルキウスは知らない。ただ、もっと深くへ触れたくなった。
ルキウスはオルフィニナを腕の檻の中に閉じ込め、その目をじっと覗き込んだ。
「それからもう一つ、君の言葉を否定する」
オルフィニナは孔雀色の目を見返した。まだ胸にルキウスの唇が触れたぬくもりが残っている。
「俺は、君を仮初めの妃にはしない。俺たちの関係は未来永劫、本物だ。破棄はさせない」
「…正気じゃない」
「君だってそうだろ」
ルキウスの指が身体の中へ入って来た時、オルフィニナは既に自分の身体が造り変えられたことを知った。
確かに、そうだ。
自分も正気ではない。もしそうなら、この屈辱的な行為をこれほど簡単に受け入れるはずがない。
「いつか正気に返ったときに、後悔することになる。国王になるのなら――」
ルキウスはオルフィニナに最後まで言わせず、唇を塞いだ。
「もう黙れよ」
ルキウスの指が中心に触れ、胸の先端を撫でたとき、オルフィニナはそれ以上言葉を続けることを諦めた。
自分でも情けなくなるほど、一晩でこの行為に慣らされてしまった。
容易く昇り詰めたオルフィニナの甘い吐息に耳を浸し、ルキウスはその中を貫いた。
気の遠くなるほどの快楽に思考を奪われながら、抱いた女のベッドで夜を越したのは今日が初めてだと気がついた。そもそも、そんな気分になったのもオルフィニナが初めてだ。普段の自分なら女の血で汚れたシーツの上で寝ることにさえ嫌悪感を覚えるだろうに、これに関してもオルフィニナは例外であるらしい。寧ろ、征服欲とも支配欲とも違うがそれに類する何かが満たされる気がした。奇妙で、新しい発見だ。
「君は不思議な人だ、ニナ」
甘美な悲鳴をあげてびくびくと収縮するオルフィニナの中で果てた後、ルキウスはなんだか不満そうに目を眇めたオルフィニナの唇に深いキスをした。
昼も間近になってようやく起き上がれるようになったオルフィニナは、再び怠惰にまどろみ始めたルキウスをベッドに残し、床に足をつけた。腰と脚の付け根がひどく怠い。腹の奥も、何だか変な感じがする。
(ああ。ルキウスが起きたらシーツを替えてもらわなければいけないな…)
と、つい癖で目先の事務的なことを考えた後、オルフィニナは昨夜のことを思い、小さく息をついた。
不覚だ。いつ寝入ってしまったかも覚えていないほどに乱された上、まさかその腕に頭を預けて夜通し眠りこけていた自分が信じられない。
やってしまった。とは思うが、不思議と後悔はない。ルキウスとの婚姻が終生続くものであるかどうかは別として、当初の誓約が違う形で実を結んだと言える。
まずは弟のイゾルフ王太子とミリセント王妃をギエリから救い出す算段をつけなければならない。ルキウスが協力するというのなら、最大限に有効活用するべきだ。
裸足のまま柔らかい絨毯を踏みしめると、数メートル離れた床に額縁の木片がバラバラに散らばっているのが見えた。中に入っていた絵は、裏板と一緒に書き物机にきちんと置かれている。
オルフィニナは右手の人差し指に嵌まったままの琥珀の指輪に視線を落とした。歴代のアミラ王がその指にしてきた指輪は、アミラ人にしてはどちらかというと小柄なオルフィニナの指には大きすぎる。重圧と犠牲がその隙間からこぼれ落ちていくようだ。
オルフィニナは指輪をするりと外し、書き物机の引き出しに仕舞った。
七年間、誰にも見つかることがなかったのに、ルキウス・アストルは容易くそれを見つけてしまった。
何か探られていた気配はなかったが、――いや、例え探られていたにしても、恐るべき嗅覚だ。
壁際に落ちたままのガウンを拾って続き部屋の浴室の戸を開けると、既に湯気が濛々と立ち昇っていた。二人がまだ寝室に篭っている間に、廊下側の扉から使用人たちが用意してくれていたのだろう。
まさか声が聞こえていたのではないかとひどく気まずくなったが、もはや後の祭りだ。
寝室の中にある扉から隣の浴室へ足を踏み入れた時、突然扉の向こうから現れた影に腕を引かれ、浴室に閉じ込められた。狼藉の主は、クインだった。内側の壁に身を隠していたらしい。
「い、いつからいた?」
間抜けなことに、開口一番出てきた言葉はそれだ。他にも色々言うべきことがあるはずだが、今はこれしか頭に浮かばない。
兄も同然のクインに情事の声を聞かれるなど、堪ったものではない。
クインは壁のようにオルフィニナに立ちはだかり、腕を組んで薄い唇を真一文字に結んでいる。怒りというよりも、激怒だ。それに、同じくらいひどく傷ついているようにも見えた。
「いましがた」
女中が湯殿を整えるためにここへ来るまで、二階より上の階段は檻のように厳重な扉で封鎖され、上がってくることもできなかった。扉を壊すか外の壁を伝って窓から侵入することもできたが、そうなれば確実に命を取られる。そしてもっと悪いことに、民と家族の安全のためにその身を差し出したオルフィニナの自己犠牲的な行動を、無駄にすることになる。だから、誇り高き女公の忠実な騎士として分別を付けたのだ。
「ひどい顔だ」
オルフィニナが言った。
当然だ。クインは一睡もしていない。己の不甲斐なさとオルフィニナの身を思い、血を吐く思いで一晩を過ごした。
そして、今、目の前にいるのは、忌々しいルキウス・アストルに身体を弄ばれた主君だ。腕に持ったガウンで身体を隠しているが、首や腕の至る所に血のような所有印を刻まれている。
これほど自分を殺したくなった日はない。
「俺にあいつを殺すよう命じろ、ニナ」
クインが食いしばった歯の間から、唸るように言った。目が血走り、ハシバミ色の瞳が暗殺者の翳りを見せている。
「クイン…」
オルフィニナは今にも泣き出しそうなクインの頬に触れた。こんな顔は、初めて見る。
「…できないなら、いっそ俺を殺せ」
クインは大きくごつごつした手で頬に触れるオルフィニナの手を握り、自分の口元へ持ってきてそこに口付けをした。
「想定よりも事態は悪くないよ」
オルフィニナが静かに言うと、クインの顎関節がよく日に焼けた皮膚の下で動いた。奥歯を噛み締めているのだろう。
「ルキウスもお前も死なせない。わたしは、お前たちの命を天秤にかけるような真似はしない。それに、お前が思っているのとは――」
違う。と言いかけて、オルフィニナは口を閉じた。
なんと言ったらよいのだろう。
利害が一致したので便宜上夫婦になることにした。などと言ったら、火に油を注ぐのではないか。
(ちょっと考えよう)
「――とにかく、事態は悪くない」
それだけ言って手を引っ込めようとした瞬間、クインに強く手を引かれ、よろけた拍子に前を隠していたガウンが落ちた。
子供の頃は風呂にも一緒に入ったし、長じて訓練中に怪我でもすれば互いに服を脱いで介抱してきた間柄だ。裸を見られるのは気まずさこそあれ、別段激怒するほどのものではない。が、今日は違う。クインが平然と着替えを手伝っていた昨日の朝とも、もはや状況は変わってしまっている。
「離せ、クイン」
オルフィニナは静かに怒りを滲ませた。
が、怒っているのはオルフィニナだけではない。隠すものを失ったオルフィニナの裸体を見たクインの顔は、あまりの怒りで蒼白だった。
首や腕だけではない。全身に赤い花びらを散らしたように、ルキウスの狼藉の痕跡が残されている。痛々しいほどだ。それに――気付くべきではなかった。白い腿の内側に僅かに残された何かが擦れたような痕は、血を拭った痕跡だ。
「事態は悪くないだと!なぜそんなに平然としていられる!」
まるで怒号だった。
オルフィニナは目を丸くしてクインの顔を見た。これほど感情を爆発させるクインは、初めて見た。
「頼むから…」
クインがうなだれ、オルフィニナの肩に頭を乗せた。
「自分を大切にしてくれ。ドレクセンには、あんたが身を削ってまで守る価値はない。あんたはもう充分やった。ドレクセンが終わりだって言うなら、あんたも見切りをつけて自分の人生を歩めよ」
オルフィニナは泣きたくなった。クインがこれほど自分のことを思っているとは、考えたことがなかった。が、答えは決まっている。騎士の初めての嘆願を聞いてやることができないことに、胸が痛んだ。
「お前を愛してる、クイン。お前ほどの兄はいない」
オルフィニナは肩に落ちたクインの頭をくしゃくしゃと撫で、もう片方の手で子をあやすように背をさすった。
この時、オルフィニナの背後の扉が開いた。
その向こうで、精悍な胸を露わにし、ズボンだけを身につけたルキウスが、怒りを微笑に隠しながら立っている。
(ああ…)
間が悪い。最悪だ。
オルフィニナは天を仰いだ。
ルキウスは自分の腕の中で静かな寝息を立てるオルフィニナの赤い髪をくるくると指で弄んだ。
これほど高揚した気分で迎える朝は知らない。
彼女の無垢な身体を強引に開き、否応なしに歓喜に震える彼女の官能的な唇から溢れる甘い声に耳をくすぐられながら、一度ならずその甘美な身体の奥を自分のもので満たした。
こういう行為は、かつて火遊び程度に何度も経験してきたことだ。それなのに、オルフィニナとのことはまるで違う。肉体の核から際限なく熱が生まれるような感覚だ。その肌に触れるだけで、自分では制御できない昂りが生まれ、このぬくもりから離れられなくなる。
このまま永遠に自分のものになればいい。
彼女は一時的なものと考えているかも知れないが、政敵を一掃し王権を掌握した後も手放すつもりはない。オルフィニナ・ディートリケ・ドレクセンには、その価値がある。身体の相性の良さがその根拠の一つだ。この甘美な身体に飽きる日が来るとは思えない。そして、その闘争心にも。
何の用意もせずに事に及んだのが意図的だったと知ったら、オルフィニナはひどく腹を立てるのではないか。その時の顔を想像すると、愉悦が胸を打つ。
ルキウスは吸い込まれるように首の窪みに口を付け、柔らかい皮膚に吸い付いた。彼女の肌からジャスミンに似た香りが立つ。
「ぅん…」
オルフィニナが甘い声で唸ってごろりと寝返りを打ち、ルキウスの方を向いた。血管が青く透けるほど白い目蓋が小さく震え、赤い睫毛が目元を煙らせるようにその影を長く伸ばしている。
オルフィニナは眉を寄せて寝苦しそうに頭をもぞもぞさせ、ルキウスの腕がちょうどよく首の窪みに挟まると、穏やかな顔に戻り、再び規則的な寝息を立て始めた。
「ふ」
ルキウスは思わず笑い声を漏らした。
心を許していないはずの相手の腕の中で、これほど呑気に眠っていられるとは、いったいどういう精神構造をしているのだろう。
「君の脳と心臓を開いて中を覗いてみたいな…」
ルキウスが呟いて、左胸で咆哮する狼に触れたとき、オルフィニナが突然目を開いた。今まで深く寝入っていたのが嘘のように、はっきりと開いた琥珀色の目でルキウスの顔を凝視している。
朝に目を覚まして初めて見せる顔がこれほど完璧に美しいとは、どういうことなのか。オルフィニナはますます不思議な女性だ。
一発や二発は殴られるかと思って多少身構えたが、オルフィニナの反応は予想とは違っていた。
「なぜわたしの部屋で寝ている?」
声が掠れている。咎め立てするような調子はなく、本当に心底不思議に思っているような言い方だ。
「君と朝まで一緒にいたかったから」
ルキウスが自分でも意外に思った真実を告げると、オルフィニナはますます理解ができないというような顔で訝った。
「別に、見張らなくても逃げたりしない。不本意だがこうなってしまったものは仕方がない。やると決めたことは最後までやるよ」
「そういうことじゃない」
口に出した瞬間、ルキウスは自分で驚いた。オルフィニナの勘の悪さを不満に思っている自分がいる。だが、何故そんな必要がある。彼女が最後までやり抜く覚悟を決めたのなら、満足するべきではないか。
(それにしても、‘仕方がない’とは何だ)
昨夜自分の腕の中であれほど快楽に溺れて嬌声を上げ、今は腕の中で目を覚ましたばかりの女が、初めて会った日に自分を雪の上に蹴り倒したときとまるで同じような顔で、白々としている。
この苛立ちの正体も分からないまま、ルキウスはちょっとした意趣返しをしてやろうと思った。
「身体は大丈夫?」
びく、とオルフィニナの身体が震えた。ルキウスが柔らかい臀部へ手のひらを滑らせ、その中心へ指を這わせているからだ。
「…問題ない」
そう返答するオルフィニナの声が、小さく震えている。
「じゃあ――」
指が中心へ入り込む前に、オルフィニナは身体をよじってルキウスの手から離れ、毅然と言った。
「問題ないが、さすがに休ませて欲しい」
「ハハ。だめ」
ルキウスは魅力的な笑顔で悪魔のようにオルフィニナの要求を拒絶し、その身体をやすやすと抱き寄せた。
「ちょっと、待っ――う…」
抗議の声を上げる前に、ルキウスが胸の先端に吸い付き、ルキウスを押し返そうとしたオルフィニナの腕から力を奪う。
「…ねえ、ニナ。これ――」
ルキウスは狼の刺青に触れた。横を向いて咆哮する狼の頭部には、複雑で緻密な文様が彫られている。ここに、ルキウスは昨晩何度も吸い付いて赤く痕を残した。朝陽が射す寝室の中では、白い肌に付けられた痣が尚更鮮明に見える。まるで狼が血を流しているようだ。
「――いつ?」
「…十五。王家の名を与えられる直前だ」
「彫り師は誰?」
「ヘルガという娘だ。見ての通り特別な文様だから、これを彫れる彫り師は限られている。ルッツに内緒で彫ってくれと二、三人の彫り師に当たったら、みな命に関わると嫌がった。唯一修行中の娘だけがわたしの願いを聞いてくれた。境遇がわたしと似ていたからかも知れないな。彼らの世界も女は肩身が狭い」
「幸運だったな。君も彼女も」
ルキウスは柔らかいオルフィニナの胸に触れるだけのキスをして言った。
男ならそいつを探し出して殺していた。とは、言わなかった。冗談めかしたとしても、多分本心が見え透いただろう。
「狼の中の文様、文字に見える」
奇妙な感じだ。まじまじと乳房を観察されるのは、なんとも居心地が悪い。ジリジリと火で炙られているような気分だったが、声だけは平静を保ってオルフィニナは続けた。
「伝統文様の中に、‘金の星を呑む狼の子’を意味する古代の言葉が含まれている。クインの狼も同じだ。ベルンシュタインはみな同じ言葉を持つ狼を身体のどこかに刻む」
「金の星を呑む狼って?」
ルキウスはオルフィニナの狼の輪郭を指でなぞった。彼女は気づいているだろうか。指で胸に触れるたび、そこが熱を持ち、色づくことに。
「…っ、ん…」
「続けろよ」
意地悪く笑うルキウスを恨めしげに睨め付け、オルフィニナは続けた。
「アミラの古い神話だ。この世に夜しか存在しなかった古い時代、天を走る真っ黒の狼が夜空に浮かぶ金色の星を全て呑み込んで、金色の眼と太陽のように輝く体を得、地上に降り立って、世界に朝をもたらした。その狼が降りたのが、ツークリエンの山なのだそうだ」
「じゃあこれは、君の信仰か」
「信仰とは違う」
「心の中で大切にしているものを、他に何て呼ぶんだ?」
ルキウスは昨晩何度もしたように、狼の印に強く吸い付いて赤い痕を残した。何をここにしまっていたとしても、オルフィニナはもう自分のものだ。
「気にならないのか。仮初めとは言え妃になる女が疵物というのは」
「俺は疵と思わない」
オルフィニナは顎を引いて胸にキスするルキウスの顔を見た。
不思議だ。自分の身体を好き勝手に扱われているのに、今の言葉だけで大切にされているように錯覚してしまう。
この刺青の存在を知っているのは、当時まだアドラー家に身を寄せていた姉のエミリアとクインだけだ。二人ともオルフィニナの選択を、「大事な身体に疵を付けた」と言って非難した。
王家の名を与えられてなお侍女を付けなかったのにも、そういう理由がある。王家の娘の身体に‘疵’があるなどという重大な秘密を、誰かに負わせるわけにはいかないと思っていたからだ。
が、ルキウスは違うことを言っている。
「君みたいに自分の価値を知ってるクソ真面目な人間が、自分の身体に生涯消えない印を残すと決めたんだから、疵のはずがない。君が刻んだのは誇りだろ。違うのか?」
「違わない」
この時ルキウスは、初めてオルフィニナ・ドレクセンの素顔を見た気がした。目が柔らかく緩み、唇は力が抜けたように綻んでいる。
こんなふうに胸に迫る感覚を、ルキウスは知らない。ただ、もっと深くへ触れたくなった。
ルキウスはオルフィニナを腕の檻の中に閉じ込め、その目をじっと覗き込んだ。
「それからもう一つ、君の言葉を否定する」
オルフィニナは孔雀色の目を見返した。まだ胸にルキウスの唇が触れたぬくもりが残っている。
「俺は、君を仮初めの妃にはしない。俺たちの関係は未来永劫、本物だ。破棄はさせない」
「…正気じゃない」
「君だってそうだろ」
ルキウスの指が身体の中へ入って来た時、オルフィニナは既に自分の身体が造り変えられたことを知った。
確かに、そうだ。
自分も正気ではない。もしそうなら、この屈辱的な行為をこれほど簡単に受け入れるはずがない。
「いつか正気に返ったときに、後悔することになる。国王になるのなら――」
ルキウスはオルフィニナに最後まで言わせず、唇を塞いだ。
「もう黙れよ」
ルキウスの指が中心に触れ、胸の先端を撫でたとき、オルフィニナはそれ以上言葉を続けることを諦めた。
自分でも情けなくなるほど、一晩でこの行為に慣らされてしまった。
容易く昇り詰めたオルフィニナの甘い吐息に耳を浸し、ルキウスはその中を貫いた。
気の遠くなるほどの快楽に思考を奪われながら、抱いた女のベッドで夜を越したのは今日が初めてだと気がついた。そもそも、そんな気分になったのもオルフィニナが初めてだ。普段の自分なら女の血で汚れたシーツの上で寝ることにさえ嫌悪感を覚えるだろうに、これに関してもオルフィニナは例外であるらしい。寧ろ、征服欲とも支配欲とも違うがそれに類する何かが満たされる気がした。奇妙で、新しい発見だ。
「君は不思議な人だ、ニナ」
甘美な悲鳴をあげてびくびくと収縮するオルフィニナの中で果てた後、ルキウスはなんだか不満そうに目を眇めたオルフィニナの唇に深いキスをした。
昼も間近になってようやく起き上がれるようになったオルフィニナは、再び怠惰にまどろみ始めたルキウスをベッドに残し、床に足をつけた。腰と脚の付け根がひどく怠い。腹の奥も、何だか変な感じがする。
(ああ。ルキウスが起きたらシーツを替えてもらわなければいけないな…)
と、つい癖で目先の事務的なことを考えた後、オルフィニナは昨夜のことを思い、小さく息をついた。
不覚だ。いつ寝入ってしまったかも覚えていないほどに乱された上、まさかその腕に頭を預けて夜通し眠りこけていた自分が信じられない。
やってしまった。とは思うが、不思議と後悔はない。ルキウスとの婚姻が終生続くものであるかどうかは別として、当初の誓約が違う形で実を結んだと言える。
まずは弟のイゾルフ王太子とミリセント王妃をギエリから救い出す算段をつけなければならない。ルキウスが協力するというのなら、最大限に有効活用するべきだ。
裸足のまま柔らかい絨毯を踏みしめると、数メートル離れた床に額縁の木片がバラバラに散らばっているのが見えた。中に入っていた絵は、裏板と一緒に書き物机にきちんと置かれている。
オルフィニナは右手の人差し指に嵌まったままの琥珀の指輪に視線を落とした。歴代のアミラ王がその指にしてきた指輪は、アミラ人にしてはどちらかというと小柄なオルフィニナの指には大きすぎる。重圧と犠牲がその隙間からこぼれ落ちていくようだ。
オルフィニナは指輪をするりと外し、書き物机の引き出しに仕舞った。
七年間、誰にも見つかることがなかったのに、ルキウス・アストルは容易くそれを見つけてしまった。
何か探られていた気配はなかったが、――いや、例え探られていたにしても、恐るべき嗅覚だ。
壁際に落ちたままのガウンを拾って続き部屋の浴室の戸を開けると、既に湯気が濛々と立ち昇っていた。二人がまだ寝室に篭っている間に、廊下側の扉から使用人たちが用意してくれていたのだろう。
まさか声が聞こえていたのではないかとひどく気まずくなったが、もはや後の祭りだ。
寝室の中にある扉から隣の浴室へ足を踏み入れた時、突然扉の向こうから現れた影に腕を引かれ、浴室に閉じ込められた。狼藉の主は、クインだった。内側の壁に身を隠していたらしい。
「い、いつからいた?」
間抜けなことに、開口一番出てきた言葉はそれだ。他にも色々言うべきことがあるはずだが、今はこれしか頭に浮かばない。
兄も同然のクインに情事の声を聞かれるなど、堪ったものではない。
クインは壁のようにオルフィニナに立ちはだかり、腕を組んで薄い唇を真一文字に結んでいる。怒りというよりも、激怒だ。それに、同じくらいひどく傷ついているようにも見えた。
「いましがた」
女中が湯殿を整えるためにここへ来るまで、二階より上の階段は檻のように厳重な扉で封鎖され、上がってくることもできなかった。扉を壊すか外の壁を伝って窓から侵入することもできたが、そうなれば確実に命を取られる。そしてもっと悪いことに、民と家族の安全のためにその身を差し出したオルフィニナの自己犠牲的な行動を、無駄にすることになる。だから、誇り高き女公の忠実な騎士として分別を付けたのだ。
「ひどい顔だ」
オルフィニナが言った。
当然だ。クインは一睡もしていない。己の不甲斐なさとオルフィニナの身を思い、血を吐く思いで一晩を過ごした。
そして、今、目の前にいるのは、忌々しいルキウス・アストルに身体を弄ばれた主君だ。腕に持ったガウンで身体を隠しているが、首や腕の至る所に血のような所有印を刻まれている。
これほど自分を殺したくなった日はない。
「俺にあいつを殺すよう命じろ、ニナ」
クインが食いしばった歯の間から、唸るように言った。目が血走り、ハシバミ色の瞳が暗殺者の翳りを見せている。
「クイン…」
オルフィニナは今にも泣き出しそうなクインの頬に触れた。こんな顔は、初めて見る。
「…できないなら、いっそ俺を殺せ」
クインは大きくごつごつした手で頬に触れるオルフィニナの手を握り、自分の口元へ持ってきてそこに口付けをした。
「想定よりも事態は悪くないよ」
オルフィニナが静かに言うと、クインの顎関節がよく日に焼けた皮膚の下で動いた。奥歯を噛み締めているのだろう。
「ルキウスもお前も死なせない。わたしは、お前たちの命を天秤にかけるような真似はしない。それに、お前が思っているのとは――」
違う。と言いかけて、オルフィニナは口を閉じた。
なんと言ったらよいのだろう。
利害が一致したので便宜上夫婦になることにした。などと言ったら、火に油を注ぐのではないか。
(ちょっと考えよう)
「――とにかく、事態は悪くない」
それだけ言って手を引っ込めようとした瞬間、クインに強く手を引かれ、よろけた拍子に前を隠していたガウンが落ちた。
子供の頃は風呂にも一緒に入ったし、長じて訓練中に怪我でもすれば互いに服を脱いで介抱してきた間柄だ。裸を見られるのは気まずさこそあれ、別段激怒するほどのものではない。が、今日は違う。クインが平然と着替えを手伝っていた昨日の朝とも、もはや状況は変わってしまっている。
「離せ、クイン」
オルフィニナは静かに怒りを滲ませた。
が、怒っているのはオルフィニナだけではない。隠すものを失ったオルフィニナの裸体を見たクインの顔は、あまりの怒りで蒼白だった。
首や腕だけではない。全身に赤い花びらを散らしたように、ルキウスの狼藉の痕跡が残されている。痛々しいほどだ。それに――気付くべきではなかった。白い腿の内側に僅かに残された何かが擦れたような痕は、血を拭った痕跡だ。
「事態は悪くないだと!なぜそんなに平然としていられる!」
まるで怒号だった。
オルフィニナは目を丸くしてクインの顔を見た。これほど感情を爆発させるクインは、初めて見た。
「頼むから…」
クインがうなだれ、オルフィニナの肩に頭を乗せた。
「自分を大切にしてくれ。ドレクセンには、あんたが身を削ってまで守る価値はない。あんたはもう充分やった。ドレクセンが終わりだって言うなら、あんたも見切りをつけて自分の人生を歩めよ」
オルフィニナは泣きたくなった。クインがこれほど自分のことを思っているとは、考えたことがなかった。が、答えは決まっている。騎士の初めての嘆願を聞いてやることができないことに、胸が痛んだ。
「お前を愛してる、クイン。お前ほどの兄はいない」
オルフィニナは肩に落ちたクインの頭をくしゃくしゃと撫で、もう片方の手で子をあやすように背をさすった。
この時、オルフィニナの背後の扉が開いた。
その向こうで、精悍な胸を露わにし、ズボンだけを身につけたルキウスが、怒りを微笑に隠しながら立っている。
(ああ…)
間が悪い。最悪だ。
オルフィニナは天を仰いだ。
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