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彼らは確かに強かった。
魔法使いらしき男と、剣士が二人。あっという間に、魔物を仕留めていく。
そして、魔法使いの手から出した何かから、微かな音が発せられる。
「凄い……」
「危ないから、そこで待機しててね?すぐ休憩に入るから」
町の近くの森は、確か最近は立ち入り禁止エリアに指定されていた。
原因不明の魔物の増殖により、危険と判断されたからだ。
繁殖にすぐれた種が、時折増えすぎて人里を攻撃するのは良くある事だ。
だから冒険者がこうやって間引きするのだが、どうも違和感を感じて仕方ない。
「さっきから、どうしてウェアキャットばかり?」
哺乳類が進化したウェアキャットは、確かに一度に五匹程度の子を産むが、その種だけ増えるのはシャーリーの知識ではありえなかった。
まあ、私の知らない生態系の何かが影響してるのかもだけど……でも、猫に似ているあの子達が討伐されていくのは辛い――
繁殖期でもない限りは、警戒心の強いウェアキャットが、自ら人に襲いかかるのは稀だ。
でも今は、仕留め放題の狩り場と化し、新たな仲間達が殺戮していく。
血にまみれ、転がる肉を踏みつけて、彼らは残忍に笑いあっていた。
「あはははっ、痺れ煙が良く効いてるな!どこを切っても獲物がいるぜ!」
「そりゃあ、ここが穴場スポットだからな」
魔法使いの手から出す煙が一面に広がり、それが魔物の動きを封じていた。
森に入って一時間は歩いて来たこの場所には、確かにそれまで気配のなかったウェアキャットの巣窟となっている。
やはりおかしい。
ダンジョンから迷いでた魔物が、森に住み着く事は確かにある。
「この子達は、群れる習性なんかないのに、どうして次から次へ現れるのかしら?」
木の陰で立ち尽くすシャーリーの声が聞こえたのか、耳のいい剣士が笑う。
胸元から笛を出して、吹いて見せた。
……だが音はしない。
なのに、空気が震えた気がした。
「聞こえたか?」
「いえ、それって笛ですよね?何かしたんですか?」
「残念、エルフには効果がないそうだ」
何が愉快なのか、ゲラゲラと笑って剣を振るう。
ギャンと悲鳴をあげたウェアキャット達は、逃げるでも攻撃するでもなく切り裂かれていく。
ガクガクと震えるシャーリーを見て、彼らはより残酷な笑みを浮かべた。
「ほーら、何十匹目だ?血の匂いが臭くてたまらんな」
「楽に稼げてるんだから、文句いうなよ」
「あっちから寄ってくる上に、麻痺で身動きできんとか最高だろ?」
魔法使いがシャーリーを見つめた。
「煙がエルフにも、効果があったらいいのにね?」
ゾクリと悪寒が走り、シャーリーは本能で逃げ出した。
彼らはおかしい、そして何かがおかしい。
どうしてウェアキャットが自分から殺されに集まるの?あの笛のせい?
あげくに麻痺して、もう十分に殺したじゃない。
何より、どうして彼らは……私をそんな目で見るの?
「おっと、追いかけっこかよ?」
「まってエルフちゃん。この後のお楽しみに逃げられたら困るんだけど?」
「仕方ないなぁ、ほら止まれ」
最後の魔法使いの声と共に、土から生えた蔦に足をからめとられた。
「きゃあ!」
柔らかな土の上に、体が倒れ込む。
万事休すだ。
相手は自分より確実に強く、しかも三人……油断した、自業自得だ。
なんとか逃げようともがいても、片足の蔦は小型ナイフでは切れそうにない。
子供用ナイフであがくシャーリーの側に来た彼らは、笑ってナイフを取り上げた。
「あっ!」
「こういうナイフはさ、こう使うんだぜ」
シャーリーの首元のボタンの隙間に刃先を押し込み、力任せに下に引く。
軽装どころか普段着のシャーリーの服は胸元まで引き裂かれ、下着が丸見えになった。
急いで両手を交差させ、悲鳴を殺して胸元を隠す。
それがより嗜虐心をそそったのか、彼らの笑いが静かな森に木霊した。
周囲の木々は光を遮り、薄暗い森には虫の羽音、魔物の息遣いと、血の香り。
ザクリと足元の土を踏みしめて、男が一歩前に出た。
ガクガクと震えるシャーリーを見て、舌なめずりをして手を伸ばす。
「触るな!」
キンと冷え込む声に、男たちの動きが停止する。
シャーリーは目を瞑り、固まっていたその顔をあげた。
足音すら立てず静かに現れたのは、間違いなくウェダーだ。
颯爽と現れた途端、放つ存在感。
銀色の髪は一際彼を輝かせ、その鋭い金の目は男たちを睨みつける。
……金色?
やっとここでシャーリーは気づく。
光の加減かと思ったがそうではない。
彼の瞳は、人ならざる者が持つ色彩、普段は鳶色の平凡な色合いが今は間違いなく別の色に変化していた。
こちらをチラリと見て、白い歯を見せるウェダーに、ついドキリとしてしまう。
そして不覚にも思い出す……記憶の彼方で抱かれたあの夜、彼の目は確かに黄金の光を放っていた。
いや、目だけじゃなく、まざまざと自分の痴態を思い出し、シャーリーは恥ずかしくて顔を手で覆った。
この状況下で、視線を塞ぐシャーリーの迂闊さと無知さは自殺行為だが、それすらウェダーには愛しいのだ。
――彼女という存在を愛してしまったから仕方ない――
「シャーリー。そのまま顔を伏せて十秒待ってくれ」
「なんで?」
「守れなかったら、今度はどこを舐めようかな?」
なんて事を思い出させるのだ!
下半身がカッとなり、あの夜の熱を思い出し、顔を隠したまま硬直した。
停止したシャーリーに見せた微笑みとはガラリと変わり、男たちを見つめる目は殺意に満ちている。
ウェダーの動きは素早かった。
人の目ではろくに捉えられないほどのスピードで、ロングソードを振りかざす。
ザシュという風を切る音が三度続いただけだ。
きっと目を開けていても、シャーリーでは何が起こったか把握するのも難しかったかもしれない。
「おいっ」
「うがぁ」
「ひっ」
各自の呻きと苦痛の悲鳴をあげる暇すらなく、何かが倒れていく音だけが森に響く。
恐る恐る、両手を外して顔をあげたシャーリーが見たものは、先程まで自分を襲おうとした男たちの倒れている姿だった。
「惜しい……あと一秒だった」
「ちゃんと十秒数えました」
そこじゃないと思いつつ、倒れた元仲間達を見つめるシャーリー。
そんなシャーリーに自らのマントで身体を包んでやった。
「殺したんですか?」
「まさか……」
消えそうな声で、そうしたかったと聞こえたが、気のせいだと思いたい。
少なくとも、生きている事にホッとした。
近づいたウェダーが絡まった蔦に手をかけ、簡単に引きちぎってくれた。
握力もあるのは、流石は騎士団隊長だと感心する。
「大丈夫かい?シャーリー。ああ、宿に帰ってケガがないか丹念に確認しないと」
「いえ、大丈夫です」
手を引いて立たせて貰い、シャーリーは再度状況を確認する。
今度こそ大きくため息をついて、尋ねてみた。
「騎士様が冒険者に手出しするのは、事件性があったからですよね?」
本来は冒険者の権利と、騎士の権利はそれぞれに確保されている。
冒険に関する事に意味なく騎士は立ち入れないし、クエストの参加・及び妨害も禁止だ。
対して騎士は治安維持や事件性に必要と判断された時に、無条件で執行できる役目がある。
今回は後者なのだと思うのだが……。
「あっ、あの子は!」
シャーリーが見つけたのは、木々の陰に隠れて震えていた幼体のウェアキャットだった。
背中の模様の特徴から、町で餌付けに失敗した個体に間違いない。
「もしかして、お母さんが殺された?」
悲し気に落ち込むシャーリーの肩を、ウェダーが後ろからソッと抱きしめる。
包みこまれるように背中に体温を感じつつも、シャーリーは悲しみの心が抑えきれない。
「帰れ、森の向こうにお前たちのダンジョンがあるだろう」
淡々と子供を諭すようにウェダーが伝えると、ウェアキャットはくるりと背を向けて走っていく。
「凄い、言葉がわかったみたい」
「言葉というより、まあ言いたい事は理解してくれたのだと思うよ」
珍しく歯切れの悪い口調でウェダーは答えつつも、後ろから抱きしめたシャーリーの温もりと香りを堪能していた。
なぜか逃げ出せないまま、二人は抱き合ったまま静寂に包まれる。
「無事でしたかウェールズ卿……っと、何してるんですかっ!」
突然現れた鎧を装備した騎士に、慌ててシャーリーはウェダーから離れた。
小さな舌打ちと共に、ウェダーの緩んだ顔が引き締まる。
「こいつらが例の犯人だ」
「この三人が?ああでも、確かに手配書の顔に似ていますが」
ガサガサと倒れた一人の胸元を鎧の兵士が漁り、彼らの登録カードを確認する。
「偽装の疑いありという事ですね」
「それと、笛があるはずだ。魔物の呼び寄せのな」
「あっ!」
驚き、つい口に手を当てたシャーリーは、急いで証言した。
「吹いてました!確かその後、魔物が必ず現れてました!」
「まあ、問題は別でな」
「別?」
ウェダーはフイッとシャーリーから視線を外して、兵士の耳元で何か話をしていた。
けっしてシャーリーには聞こえないようにしている時点で、機密内容なのだろう。
騎士隊長ともなると、何かしらの犯罪の捜査の為に、ここにいるのかも知れない。
だからこの町にいたの?
でも、だからって酔った私を抱いたのは、同意の上ってのは通じないから!
思い出して、ムカムカしつつも、かといって三人の男たちに襲われた恐怖は消え去らない。
助けられた事は事実なのだ。そこは素直に感謝はするが帳消しにはならないと、胸のうちで呟いた。
すぐに十名近い鎧の兵士たちが現れる。
胸元に紋章をつけた者が現れて、やっと彼らが警備兵だと理解した。
小さな町を幾つも周回して警備しており、常駐がなくて顔も知らなかったのだ。
なんにせよ警備兵が多数現れた事で、そんな大事なのかとシャーリーは少し怯む。
てきぱきと警備兵が男たちを気絶したまま連行して行く中で、シャーリーもそのままウェダーと共に森を出た。
色々と聞きたい事もあったが、物々しい雰囲気の中で黙ってギルドまで戻る事となる。
応接室の一室を借りて、軽い事情聴取を受ける事になったシャーリーは、カチコチと両手を膝に乗せてソファーに浅く座る。
兵士の一人が紙とペンを持ちながら、質問をしていく。
「それで、ギルド前で声をかけられて参加したのか?」
「はい……ちゃんとクエスト受注の紙にも、途中参加もいけるって記載してましたから」
「エルフとはいえ、低レベルの女の子が見知らぬ男たちと?」
「ええっと……私はパーティー自体を複数経験しているので、いつも初対面の人たちと組む事ばかりなんです」
「それだって、ギルド内で職員がちゃんといる場での話だろう?」
厳しい兵士の声に、ウェダーが手でストップをかけた。
椅子に座り、惨めさに涙を堪えるシャーリーに優しくウェダーは声をかけ慰めた。
「君はたまたま運が悪かったんだ。変な奴らに絡まれて大変だったね」
「私も、何かの罪に問われますか?」
ならば仕方ない……ちゃんと罰は受けなくてはと覚悟を決めたシャーリー。
ウェダーは小さくほくそ笑み、口元に指をあて、あえて思案する顔を見せた。
「そうだね……とりあえず俺と一緒に、首都に来て貰おうか?」
「首都!そんな都会にまで行かないと、ダメなんですか?」
「ああ、残念ながら、首都でしか手続きが出来ないんだ。心配しないでシャーリー、全て俺に任せてくれればいい」
ガックリとその場で頭を垂れたシャーリーは、聞き取りしていた兵士が呆れた顔でウェダーを見つめた事すら気付かなかった。
どうしよう、都会に行く羽目になるなんて……それで本当は凄く重い罪だったとしたら、故郷だけでなく種族全体からの追放確定だ。
促されるままにギルドを出る時も、いつも以上に厳しい目を向ける受付嬢に気が付かない。
宿に戻り少ない荷物をまとめると、手早いウェダーが用意した馬車に乗り込んだ。
魔法使いらしき男と、剣士が二人。あっという間に、魔物を仕留めていく。
そして、魔法使いの手から出した何かから、微かな音が発せられる。
「凄い……」
「危ないから、そこで待機しててね?すぐ休憩に入るから」
町の近くの森は、確か最近は立ち入り禁止エリアに指定されていた。
原因不明の魔物の増殖により、危険と判断されたからだ。
繁殖にすぐれた種が、時折増えすぎて人里を攻撃するのは良くある事だ。
だから冒険者がこうやって間引きするのだが、どうも違和感を感じて仕方ない。
「さっきから、どうしてウェアキャットばかり?」
哺乳類が進化したウェアキャットは、確かに一度に五匹程度の子を産むが、その種だけ増えるのはシャーリーの知識ではありえなかった。
まあ、私の知らない生態系の何かが影響してるのかもだけど……でも、猫に似ているあの子達が討伐されていくのは辛い――
繁殖期でもない限りは、警戒心の強いウェアキャットが、自ら人に襲いかかるのは稀だ。
でも今は、仕留め放題の狩り場と化し、新たな仲間達が殺戮していく。
血にまみれ、転がる肉を踏みつけて、彼らは残忍に笑いあっていた。
「あはははっ、痺れ煙が良く効いてるな!どこを切っても獲物がいるぜ!」
「そりゃあ、ここが穴場スポットだからな」
魔法使いの手から出す煙が一面に広がり、それが魔物の動きを封じていた。
森に入って一時間は歩いて来たこの場所には、確かにそれまで気配のなかったウェアキャットの巣窟となっている。
やはりおかしい。
ダンジョンから迷いでた魔物が、森に住み着く事は確かにある。
「この子達は、群れる習性なんかないのに、どうして次から次へ現れるのかしら?」
木の陰で立ち尽くすシャーリーの声が聞こえたのか、耳のいい剣士が笑う。
胸元から笛を出して、吹いて見せた。
……だが音はしない。
なのに、空気が震えた気がした。
「聞こえたか?」
「いえ、それって笛ですよね?何かしたんですか?」
「残念、エルフには効果がないそうだ」
何が愉快なのか、ゲラゲラと笑って剣を振るう。
ギャンと悲鳴をあげたウェアキャット達は、逃げるでも攻撃するでもなく切り裂かれていく。
ガクガクと震えるシャーリーを見て、彼らはより残酷な笑みを浮かべた。
「ほーら、何十匹目だ?血の匂いが臭くてたまらんな」
「楽に稼げてるんだから、文句いうなよ」
「あっちから寄ってくる上に、麻痺で身動きできんとか最高だろ?」
魔法使いがシャーリーを見つめた。
「煙がエルフにも、効果があったらいいのにね?」
ゾクリと悪寒が走り、シャーリーは本能で逃げ出した。
彼らはおかしい、そして何かがおかしい。
どうしてウェアキャットが自分から殺されに集まるの?あの笛のせい?
あげくに麻痺して、もう十分に殺したじゃない。
何より、どうして彼らは……私をそんな目で見るの?
「おっと、追いかけっこかよ?」
「まってエルフちゃん。この後のお楽しみに逃げられたら困るんだけど?」
「仕方ないなぁ、ほら止まれ」
最後の魔法使いの声と共に、土から生えた蔦に足をからめとられた。
「きゃあ!」
柔らかな土の上に、体が倒れ込む。
万事休すだ。
相手は自分より確実に強く、しかも三人……油断した、自業自得だ。
なんとか逃げようともがいても、片足の蔦は小型ナイフでは切れそうにない。
子供用ナイフであがくシャーリーの側に来た彼らは、笑ってナイフを取り上げた。
「あっ!」
「こういうナイフはさ、こう使うんだぜ」
シャーリーの首元のボタンの隙間に刃先を押し込み、力任せに下に引く。
軽装どころか普段着のシャーリーの服は胸元まで引き裂かれ、下着が丸見えになった。
急いで両手を交差させ、悲鳴を殺して胸元を隠す。
それがより嗜虐心をそそったのか、彼らの笑いが静かな森に木霊した。
周囲の木々は光を遮り、薄暗い森には虫の羽音、魔物の息遣いと、血の香り。
ザクリと足元の土を踏みしめて、男が一歩前に出た。
ガクガクと震えるシャーリーを見て、舌なめずりをして手を伸ばす。
「触るな!」
キンと冷え込む声に、男たちの動きが停止する。
シャーリーは目を瞑り、固まっていたその顔をあげた。
足音すら立てず静かに現れたのは、間違いなくウェダーだ。
颯爽と現れた途端、放つ存在感。
銀色の髪は一際彼を輝かせ、その鋭い金の目は男たちを睨みつける。
……金色?
やっとここでシャーリーは気づく。
光の加減かと思ったがそうではない。
彼の瞳は、人ならざる者が持つ色彩、普段は鳶色の平凡な色合いが今は間違いなく別の色に変化していた。
こちらをチラリと見て、白い歯を見せるウェダーに、ついドキリとしてしまう。
そして不覚にも思い出す……記憶の彼方で抱かれたあの夜、彼の目は確かに黄金の光を放っていた。
いや、目だけじゃなく、まざまざと自分の痴態を思い出し、シャーリーは恥ずかしくて顔を手で覆った。
この状況下で、視線を塞ぐシャーリーの迂闊さと無知さは自殺行為だが、それすらウェダーには愛しいのだ。
――彼女という存在を愛してしまったから仕方ない――
「シャーリー。そのまま顔を伏せて十秒待ってくれ」
「なんで?」
「守れなかったら、今度はどこを舐めようかな?」
なんて事を思い出させるのだ!
下半身がカッとなり、あの夜の熱を思い出し、顔を隠したまま硬直した。
停止したシャーリーに見せた微笑みとはガラリと変わり、男たちを見つめる目は殺意に満ちている。
ウェダーの動きは素早かった。
人の目ではろくに捉えられないほどのスピードで、ロングソードを振りかざす。
ザシュという風を切る音が三度続いただけだ。
きっと目を開けていても、シャーリーでは何が起こったか把握するのも難しかったかもしれない。
「おいっ」
「うがぁ」
「ひっ」
各自の呻きと苦痛の悲鳴をあげる暇すらなく、何かが倒れていく音だけが森に響く。
恐る恐る、両手を外して顔をあげたシャーリーが見たものは、先程まで自分を襲おうとした男たちの倒れている姿だった。
「惜しい……あと一秒だった」
「ちゃんと十秒数えました」
そこじゃないと思いつつ、倒れた元仲間達を見つめるシャーリー。
そんなシャーリーに自らのマントで身体を包んでやった。
「殺したんですか?」
「まさか……」
消えそうな声で、そうしたかったと聞こえたが、気のせいだと思いたい。
少なくとも、生きている事にホッとした。
近づいたウェダーが絡まった蔦に手をかけ、簡単に引きちぎってくれた。
握力もあるのは、流石は騎士団隊長だと感心する。
「大丈夫かい?シャーリー。ああ、宿に帰ってケガがないか丹念に確認しないと」
「いえ、大丈夫です」
手を引いて立たせて貰い、シャーリーは再度状況を確認する。
今度こそ大きくため息をついて、尋ねてみた。
「騎士様が冒険者に手出しするのは、事件性があったからですよね?」
本来は冒険者の権利と、騎士の権利はそれぞれに確保されている。
冒険に関する事に意味なく騎士は立ち入れないし、クエストの参加・及び妨害も禁止だ。
対して騎士は治安維持や事件性に必要と判断された時に、無条件で執行できる役目がある。
今回は後者なのだと思うのだが……。
「あっ、あの子は!」
シャーリーが見つけたのは、木々の陰に隠れて震えていた幼体のウェアキャットだった。
背中の模様の特徴から、町で餌付けに失敗した個体に間違いない。
「もしかして、お母さんが殺された?」
悲し気に落ち込むシャーリーの肩を、ウェダーが後ろからソッと抱きしめる。
包みこまれるように背中に体温を感じつつも、シャーリーは悲しみの心が抑えきれない。
「帰れ、森の向こうにお前たちのダンジョンがあるだろう」
淡々と子供を諭すようにウェダーが伝えると、ウェアキャットはくるりと背を向けて走っていく。
「凄い、言葉がわかったみたい」
「言葉というより、まあ言いたい事は理解してくれたのだと思うよ」
珍しく歯切れの悪い口調でウェダーは答えつつも、後ろから抱きしめたシャーリーの温もりと香りを堪能していた。
なぜか逃げ出せないまま、二人は抱き合ったまま静寂に包まれる。
「無事でしたかウェールズ卿……っと、何してるんですかっ!」
突然現れた鎧を装備した騎士に、慌ててシャーリーはウェダーから離れた。
小さな舌打ちと共に、ウェダーの緩んだ顔が引き締まる。
「こいつらが例の犯人だ」
「この三人が?ああでも、確かに手配書の顔に似ていますが」
ガサガサと倒れた一人の胸元を鎧の兵士が漁り、彼らの登録カードを確認する。
「偽装の疑いありという事ですね」
「それと、笛があるはずだ。魔物の呼び寄せのな」
「あっ!」
驚き、つい口に手を当てたシャーリーは、急いで証言した。
「吹いてました!確かその後、魔物が必ず現れてました!」
「まあ、問題は別でな」
「別?」
ウェダーはフイッとシャーリーから視線を外して、兵士の耳元で何か話をしていた。
けっしてシャーリーには聞こえないようにしている時点で、機密内容なのだろう。
騎士隊長ともなると、何かしらの犯罪の捜査の為に、ここにいるのかも知れない。
だからこの町にいたの?
でも、だからって酔った私を抱いたのは、同意の上ってのは通じないから!
思い出して、ムカムカしつつも、かといって三人の男たちに襲われた恐怖は消え去らない。
助けられた事は事実なのだ。そこは素直に感謝はするが帳消しにはならないと、胸のうちで呟いた。
すぐに十名近い鎧の兵士たちが現れる。
胸元に紋章をつけた者が現れて、やっと彼らが警備兵だと理解した。
小さな町を幾つも周回して警備しており、常駐がなくて顔も知らなかったのだ。
なんにせよ警備兵が多数現れた事で、そんな大事なのかとシャーリーは少し怯む。
てきぱきと警備兵が男たちを気絶したまま連行して行く中で、シャーリーもそのままウェダーと共に森を出た。
色々と聞きたい事もあったが、物々しい雰囲気の中で黙ってギルドまで戻る事となる。
応接室の一室を借りて、軽い事情聴取を受ける事になったシャーリーは、カチコチと両手を膝に乗せてソファーに浅く座る。
兵士の一人が紙とペンを持ちながら、質問をしていく。
「それで、ギルド前で声をかけられて参加したのか?」
「はい……ちゃんとクエスト受注の紙にも、途中参加もいけるって記載してましたから」
「エルフとはいえ、低レベルの女の子が見知らぬ男たちと?」
「ええっと……私はパーティー自体を複数経験しているので、いつも初対面の人たちと組む事ばかりなんです」
「それだって、ギルド内で職員がちゃんといる場での話だろう?」
厳しい兵士の声に、ウェダーが手でストップをかけた。
椅子に座り、惨めさに涙を堪えるシャーリーに優しくウェダーは声をかけ慰めた。
「君はたまたま運が悪かったんだ。変な奴らに絡まれて大変だったね」
「私も、何かの罪に問われますか?」
ならば仕方ない……ちゃんと罰は受けなくてはと覚悟を決めたシャーリー。
ウェダーは小さくほくそ笑み、口元に指をあて、あえて思案する顔を見せた。
「そうだね……とりあえず俺と一緒に、首都に来て貰おうか?」
「首都!そんな都会にまで行かないと、ダメなんですか?」
「ああ、残念ながら、首都でしか手続きが出来ないんだ。心配しないでシャーリー、全て俺に任せてくれればいい」
ガックリとその場で頭を垂れたシャーリーは、聞き取りしていた兵士が呆れた顔でウェダーを見つめた事すら気付かなかった。
どうしよう、都会に行く羽目になるなんて……それで本当は凄く重い罪だったとしたら、故郷だけでなく種族全体からの追放確定だ。
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