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優しくすると口で言いながら、ウェダーは容赦なくシャーリーを快楽の底に堕としていく。
自分とは違う体温、恥ずかしがるシャーリーの願いで薄暗くなった部屋に、当たりの息遣いが響く。
「ほら、力を抜いて」
声だけは優しいが、打ち付ける腰の打音は激しくなっていくばかり。
既に何度も絶頂を教え込まれた体は、身も心も溶け切っている。
何も知らないシャーリーに、自分好みに仕込む喜び。
無知な彼女は、これが当たり前だと教え込む。
プルプルと震える桃色に染まった体は柔らかく、甘い蜜の香りを放つ。
雄を刺激されたウェダーは、今度こそ同意を得た喜びのままにシャーリーを貪った。
体力差や体格差から、最低限の手加減はしたが、それでも欲が尽きるどころか、抱けば抱くほどに夢中になった。
「あうっ、ああっ!」
「またイッていいよ、何度だって注いでやる」
「ダメぇ……っ、赤ちゃんできるからぁ」
「それこそ望む所だが?っ……くっ」
既に感じすぎて、思考が混濁しているはずなのに、シャーリーは急に暴れ出す。
「ダメぇっ!もう中に出さないでっ!」
「……ちっ!」
眉間にシワを寄せ、ウェダーは突然沸き上がった怒りと共に、獣にかわる。
よく深くえぐるように突き入れてやると、大きな悲鳴があがる。
ベッドはしっかりしており、軋む音こそすれ壊れる気配もない。
手加減なしに、一方的にシャーリーを責め立てた。
たまらないのはシャーリーの方で、先程と違う激しい動きにされるがままだ。
嬌声なのか悲鳴なのか、か細い力で爪をたて、ウェダーの背中にキズをつける。
それこそウェダーにとっては、愛しい女から与えられる愉悦でしかないのだが、今は自分を拒絶されたという悲しみと憤りに支配されている。
乱暴に揺さぶられても、刺激の波を受け止めてしまうシャーリーが、中を無自覚に痙攣させながら、弓なりに背を曲げて意識を飛ばす。
チカチカと瞼に閃光が走り、ビクビクと大きく体が跳ねた。制止などできない嵐に巻き込まれていく。
獣の交わりは、容赦なく柔らかな肢体を蹂躙していく。
それでもウェダーは、首元に噛り付きたい衝動をギリギリで押さえていた。
――まるで本物の獣だ……あれだけ嫌った血に狂わされていいザマだ――
己が精を放つ度に、奥底ではなく彼女の肌に放っていく。
汚れて染まっていく彼女に、いっそ全て沁み込めばいいとすら思う自分は、狂っているのかも知れない。
ここまで愛しい唯一は、心を狂わせるのかと、その本能の恐ろしさに唇をかむ。
「ほら、中じゃないから、赤子などできない。これならいいんだろ?」
返事がないのも承知であえて、気絶した彼女に告げた。
わかっている、わかってるのだ。
彼女は俺が嫌でそう言ったのではない、未知の恐怖を恐れているだけだと。
彼女を抱いてまだ二日目なのに、自分だけが先走り彼女の心は置いてきぼり。
それを身体で籠絡しようなど姑息な手段に、恥すら感じなくなっている。
何をしても彼女が欲しい、それが狂った本能だから。
既に深夜を回り、思い返せば彼女に食事を取らせていない事に気が付いた。
そんな気遣いすら、紳士の振りをしても抜けているのだ。
「まだまだだな……俺はこんなに不器用だったのか?」
疲れ果て泥のように眠るシャーリーの髪を手で梳いてやる。
金の糸はキラキラと輝き、細くなめらかな指触りに、つい唇を落とす。
少し目を瞑り、そして開いた時には、すでに金色の瞳はなりをひそめ、平凡な色に戻っていた。
それから、ぎこちない態度のシャーリーに、何度も誠実な男を演じてウェダーは努力する。
少しでもシャーリーの心を射止めたくて、柄にもなく必死に尽くした。
馬車で町を移動するごとに、ウェダーはシャーリーを恋人として扱った。
屋台の小売商を見つけては、女性が好む小物を指さす。
「あれなんかシャーリーに似合うと思う。買ってあげようか?」
「いえ、冒険の最中に失くしたら困るのでいらないです」
キッパリと告げたシャーリーに、ならばと別の物を勧めたりもした。
次は、薄い生地に甘いクリームを塗った菓子を見つける。
「甘いの好きだろ?あれを一緒に食べよう」
「ウェダーさんは、甘いの苦手なんですよね?」
「うっ……一口だけ分けてもらえたら……」
「あっ、ならいいです」
にべもなく断られ、ガックリと項垂れるウェダーの姿に、シャーリーはチクンと胸が痛む。
――甘い顔をしたら、またつけ上がるもの。まだ、強引なのを許してないんだから!
それ以上に、自分は犯罪の共犯者として護送中であるはずだ。
呑気なデート気取りなのは、牢獄に入れられる前の、最後の憐みだろうか?
それにしては、なんだかんだと毎晩自分を抱くウェダーに慣れさせられている自覚はあった。
この人は騎士道を忘れたという癖に、身のこなしや普段の動作に気品がきっちり感じられる。
森の奥のがさつな自分とは違う。
ほんの何気ない仕草、人とぶつかりそうになった時は自然と彼は私の肩を引き寄せる。
支払うお金も惜しみなくチップを出すし、銅貨ではなく金貨か銀貨しか保有していない。
その渡し方もスマートだし、常に威風堂々とした態度と、どんな場所でも自然と人目を引くオーラ。
突出した容姿だけでなく、彼の動きや醸し出す全てが、彼が特別な存在なのだと知らしめた。
それに比べて……と、卑屈になる精神。
いやいや、彼は私にとっては変態の性欲魔人だと悪態をついて溜飲を下げた。
フッと交わる視線に、胸がドキドキするのも仕方ないのだ。
彼はいつも自分の側にいて離れないせいで、それが当たり前になってきている。
たかだか数日の付き合いなのに、このままでは離れる事が確定なのに辛くなる。
芽生えそうな気持を抑え、身分違いだ何だと言い訳をして、恋という文字をかき消した。
新たな町に辿り着く度に、彼は警備隊や騎士の詰所を訪れる。
馬車で待機している自分にはわからないが、それなりに仕事をしている気配はする。
彼は世界の役に立っているのに、自分は何をしているのだろうと、戻って来た彼に珍しく甘えてみた。
「お願いがあるんです」
「なんだい?シャーリー」
愛しくて堪らないと笑顔をこぼし、ウェダーは答えた。
「ここは別エリアのギルドがある地域です。少しギルドを覗いてみたいんですが……」
「ダメだ」
先程とは打って変わって、ピシャリと彼に即答で拒否された。
否定されたと受け取った心が硬くなっていく。
彼の用事も済み、馬車は賑やかな町並みの一角に停車した。
並び歩く珍しい町並みも、今はシャーリーの心を弾ませはしなかった。
「これとか好きかな?シャーリーはエルフだから花とか好きだと思うんだが……」
「いいえ。私は冒険者としても、エルフとしても落ちこぼれですから!」
立ち並ぶ屋台の前で、香り良く目を楽しませてくれる花を指差し、彼はまたもや機嫌を取りにくる。
花は綺麗……けれど、それだけだ。
他のエルフ達が花や動物を優雅に愛でる時間は、私にはなかった。
他の仲間達に迷惑をかけないように、見捨てられないように必死で雑用をこなしていたのだから。
それでも、私はあの故郷に生かされた。
差し出された売り物の花束など見向きもせず、シャーリーはウェダーに背を向けて歩き出す。
「先に馬車に戻っています」
「待ってくれ」
「ちゃんと逃げずに戻るので、心配しないで下さい」
背中越しに彼の制止を振り切って、人込みをかき分けて馬車が待機する場所に足を急がせた。
子供なのは自分の方、そんなのわかっている。
こんな顔は見せられない……こんな泣きそうな歪んだ私のひどい顔。
後ろからついて来る気配から逃げるように、私は一目散に馬車に走った。
激しく息切れを起こしながら、馬車の中に飛び込み、息を整える。
毎晩の抱きつぶしのせいで、あきらかに体力が落ち、手足がガクガクと震えていた。
泣きそうだ……本当に情けない。
こんな気持ちが制御できないのは初めてだ。
少し時間を置いて、戻ってきたウェダーは持ってきた数枚の紙を差し出した。
馬車は再び走り出す。
既に共に過ごして四日目となり、あと少しで首都に着くと聞かされていた。
ぎこちない動きで受け取った紙に目を通す。
「これ……クエストリスト」
「これが知りたかったんだろ?」
この町のギルド掲示板に貼ってあるクエスト、その中でもシャーリーが参戦できそうな初級者ソロもしくは少人数のものが、厳選され記載されている。
上級ランクの者のみ、このような紙を発行して貰う事は可能だが、本来は皆が掲示板に群がるのは公平性の為だ。
いつも必死に朝早くギルドに向かい、初心者用クエストを申し込むパーティーに、仲間に入れてくれと声をかけるのが日課みたいなものだった。
数日前の自分を懐かしく思う時が来るなんて。
「どれがいい?条件が少人数のは、俺が同行するから問題ないよ」
「まさか!騎士がクエストに参加するのは基本的に禁止されているはずです」
でなければ、ただでさえ奪い合いのクエストが正式な訓練を受けた騎士たちに奪われてしまう。
この世界では、騎士と冒険者はきっちりと区別されているはずだ。
だが、にべもないとウェダーは軽く言う。
「特例があるんだ。内容は言えないが、今回に限ってはギルドからも許可を得ている」
「それは……私を見張るためですか?」
「それもあるな」
迷いなく答えられ、やはりそうかと納得した。
それでも、彼は私の我がままに付き合ってくれるらしい。
最後のクエスト……きっと首都に行けば拘束されるだろうし、思い残す事のないクエストにしたい。
シャーリーの瞳に光が宿る。
先程までの陰鬱した空気は消えて、生き生きしはじめたエルフの耳は、ピンと伸びていた。
少しは機嫌が治ったようだと、ウェダーは心の中でホッとする。
まあ、いずれは確認せねばならぬ事もあったし、いい機会だと目星をつけていたクエストを勧めた。
「この薬草採取とか、スライム討伐がいいんじゃないのか?」
初心者の入門でも、優しいレベルのクエストだ。
これならばシャーリーにも危険はあるまい、いや自分がいるのだから傷一つつけるつもりはない。
だが、シャーリーは首を横に振った。
「これがいいです。黒トカゲの魔石採取」
「……ちょっと見せてくれ」
紙の一部を指さされ、ウェダーはそのクエストを確認した。
ギルドには、レベル5までの子供でもできるクエストをまとめてくれと頼んだはずだ。
どうやら職員が間違えて、中級のクエストを入れてしまったらしい。
思惑が外れたな。簡単なクエストをシャーリーに任せつつ、調査をしたかったんだが――
今回は通常のクエスト受注と違い、リストの全ての予約をウェダーが抑えている状態。
ギルドからすれば、参加条件などウェダーを頭数に入れている以上、ないようなものなのだ。
本来なら――レベル15からの複数人必須――この程度の条件が加えられるべき難易度クエストに、シャーリーは迷いなくコレがいいと選び出した。
今更、これはダメだと言えない雰囲気が馬車内に漂っている。
仕方ないと、ウェダーは計画を変更した。
どちらにせよ、調査が必要なのは同じなのだから。
何も知らないエルフは、汚名返上とばかりにテンションが高い。
「ありがとうございますウェダーさん!きっと頑張って達成してみせますから!」
「ああ、頑張ろうな」
「では早速ギルドに行って、パーティーを探さないと」
今度こそ頑張って仲間を見つけるのだと、張り切り出すエルフを止める騎士がいた。
「俺と二人でだシャーリー」
「ううっ……そんなに私って不甲斐ないですか?」
「俺が、君を他の男と一緒にさせるわけがないだろう」
「容疑者だから?」
「好きだからだ」
迷いなく言い切られ、心が動揺してしまう。
頭を掻きながら、彼は窓の外を見た。
再び、馬車内に重い空気が広がった。
「どうして……そこまで執着するんですか?番とか獣人みたいな事まで言って」
彼の瞳が暗闇や興奮で金色に変化するのを何度も見た。
人ではない……だけど彼は騎士だ。
獣人が騎士になどなれるはずもない。
だったら、なぜ?
口に出さずとも、何を疑われているかウェダーはわかっていた。
だが、あえて気を逸らす。
「俺は強いよ。俺と一緒なら挑戦できる……どうする?」
「お願いします!」
背に腹は代えられない。
肝心な質問は誤魔化されたけれど、それでも申し出に飛びつくしかなかった。
そうと決まれば、心が弾む。
「ウェダーさん!買い物したいです!」
「ああ、何が欲しい?ドレスか?宝石でも何でも買ってやる」
「自分で買うので、武器を扱っている店をお願いします」
馬車は、町の商店街に辿り着く。
ウキウキと降りるなり、シャーリーは店に飛び込んだ。
さりげなく腰を抱こうとした、ウェダーの手は宙を掴む。
元気よく店に入ったシャーリーの背中を、ウェダーは苦笑しながら追いかけた。
自分とは違う体温、恥ずかしがるシャーリーの願いで薄暗くなった部屋に、当たりの息遣いが響く。
「ほら、力を抜いて」
声だけは優しいが、打ち付ける腰の打音は激しくなっていくばかり。
既に何度も絶頂を教え込まれた体は、身も心も溶け切っている。
何も知らないシャーリーに、自分好みに仕込む喜び。
無知な彼女は、これが当たり前だと教え込む。
プルプルと震える桃色に染まった体は柔らかく、甘い蜜の香りを放つ。
雄を刺激されたウェダーは、今度こそ同意を得た喜びのままにシャーリーを貪った。
体力差や体格差から、最低限の手加減はしたが、それでも欲が尽きるどころか、抱けば抱くほどに夢中になった。
「あうっ、ああっ!」
「またイッていいよ、何度だって注いでやる」
「ダメぇ……っ、赤ちゃんできるからぁ」
「それこそ望む所だが?っ……くっ」
既に感じすぎて、思考が混濁しているはずなのに、シャーリーは急に暴れ出す。
「ダメぇっ!もう中に出さないでっ!」
「……ちっ!」
眉間にシワを寄せ、ウェダーは突然沸き上がった怒りと共に、獣にかわる。
よく深くえぐるように突き入れてやると、大きな悲鳴があがる。
ベッドはしっかりしており、軋む音こそすれ壊れる気配もない。
手加減なしに、一方的にシャーリーを責め立てた。
たまらないのはシャーリーの方で、先程と違う激しい動きにされるがままだ。
嬌声なのか悲鳴なのか、か細い力で爪をたて、ウェダーの背中にキズをつける。
それこそウェダーにとっては、愛しい女から与えられる愉悦でしかないのだが、今は自分を拒絶されたという悲しみと憤りに支配されている。
乱暴に揺さぶられても、刺激の波を受け止めてしまうシャーリーが、中を無自覚に痙攣させながら、弓なりに背を曲げて意識を飛ばす。
チカチカと瞼に閃光が走り、ビクビクと大きく体が跳ねた。制止などできない嵐に巻き込まれていく。
獣の交わりは、容赦なく柔らかな肢体を蹂躙していく。
それでもウェダーは、首元に噛り付きたい衝動をギリギリで押さえていた。
――まるで本物の獣だ……あれだけ嫌った血に狂わされていいザマだ――
己が精を放つ度に、奥底ではなく彼女の肌に放っていく。
汚れて染まっていく彼女に、いっそ全て沁み込めばいいとすら思う自分は、狂っているのかも知れない。
ここまで愛しい唯一は、心を狂わせるのかと、その本能の恐ろしさに唇をかむ。
「ほら、中じゃないから、赤子などできない。これならいいんだろ?」
返事がないのも承知であえて、気絶した彼女に告げた。
わかっている、わかってるのだ。
彼女は俺が嫌でそう言ったのではない、未知の恐怖を恐れているだけだと。
彼女を抱いてまだ二日目なのに、自分だけが先走り彼女の心は置いてきぼり。
それを身体で籠絡しようなど姑息な手段に、恥すら感じなくなっている。
何をしても彼女が欲しい、それが狂った本能だから。
既に深夜を回り、思い返せば彼女に食事を取らせていない事に気が付いた。
そんな気遣いすら、紳士の振りをしても抜けているのだ。
「まだまだだな……俺はこんなに不器用だったのか?」
疲れ果て泥のように眠るシャーリーの髪を手で梳いてやる。
金の糸はキラキラと輝き、細くなめらかな指触りに、つい唇を落とす。
少し目を瞑り、そして開いた時には、すでに金色の瞳はなりをひそめ、平凡な色に戻っていた。
それから、ぎこちない態度のシャーリーに、何度も誠実な男を演じてウェダーは努力する。
少しでもシャーリーの心を射止めたくて、柄にもなく必死に尽くした。
馬車で町を移動するごとに、ウェダーはシャーリーを恋人として扱った。
屋台の小売商を見つけては、女性が好む小物を指さす。
「あれなんかシャーリーに似合うと思う。買ってあげようか?」
「いえ、冒険の最中に失くしたら困るのでいらないです」
キッパリと告げたシャーリーに、ならばと別の物を勧めたりもした。
次は、薄い生地に甘いクリームを塗った菓子を見つける。
「甘いの好きだろ?あれを一緒に食べよう」
「ウェダーさんは、甘いの苦手なんですよね?」
「うっ……一口だけ分けてもらえたら……」
「あっ、ならいいです」
にべもなく断られ、ガックリと項垂れるウェダーの姿に、シャーリーはチクンと胸が痛む。
――甘い顔をしたら、またつけ上がるもの。まだ、強引なのを許してないんだから!
それ以上に、自分は犯罪の共犯者として護送中であるはずだ。
呑気なデート気取りなのは、牢獄に入れられる前の、最後の憐みだろうか?
それにしては、なんだかんだと毎晩自分を抱くウェダーに慣れさせられている自覚はあった。
この人は騎士道を忘れたという癖に、身のこなしや普段の動作に気品がきっちり感じられる。
森の奥のがさつな自分とは違う。
ほんの何気ない仕草、人とぶつかりそうになった時は自然と彼は私の肩を引き寄せる。
支払うお金も惜しみなくチップを出すし、銅貨ではなく金貨か銀貨しか保有していない。
その渡し方もスマートだし、常に威風堂々とした態度と、どんな場所でも自然と人目を引くオーラ。
突出した容姿だけでなく、彼の動きや醸し出す全てが、彼が特別な存在なのだと知らしめた。
それに比べて……と、卑屈になる精神。
いやいや、彼は私にとっては変態の性欲魔人だと悪態をついて溜飲を下げた。
フッと交わる視線に、胸がドキドキするのも仕方ないのだ。
彼はいつも自分の側にいて離れないせいで、それが当たり前になってきている。
たかだか数日の付き合いなのに、このままでは離れる事が確定なのに辛くなる。
芽生えそうな気持を抑え、身分違いだ何だと言い訳をして、恋という文字をかき消した。
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彼は世界の役に立っているのに、自分は何をしているのだろうと、戻って来た彼に珍しく甘えてみた。
「お願いがあるんです」
「なんだい?シャーリー」
愛しくて堪らないと笑顔をこぼし、ウェダーは答えた。
「ここは別エリアのギルドがある地域です。少しギルドを覗いてみたいんですが……」
「ダメだ」
先程とは打って変わって、ピシャリと彼に即答で拒否された。
否定されたと受け取った心が硬くなっていく。
彼の用事も済み、馬車は賑やかな町並みの一角に停車した。
並び歩く珍しい町並みも、今はシャーリーの心を弾ませはしなかった。
「これとか好きかな?シャーリーはエルフだから花とか好きだと思うんだが……」
「いいえ。私は冒険者としても、エルフとしても落ちこぼれですから!」
立ち並ぶ屋台の前で、香り良く目を楽しませてくれる花を指差し、彼はまたもや機嫌を取りにくる。
花は綺麗……けれど、それだけだ。
他のエルフ達が花や動物を優雅に愛でる時間は、私にはなかった。
他の仲間達に迷惑をかけないように、見捨てられないように必死で雑用をこなしていたのだから。
それでも、私はあの故郷に生かされた。
差し出された売り物の花束など見向きもせず、シャーリーはウェダーに背を向けて歩き出す。
「先に馬車に戻っています」
「待ってくれ」
「ちゃんと逃げずに戻るので、心配しないで下さい」
背中越しに彼の制止を振り切って、人込みをかき分けて馬車が待機する場所に足を急がせた。
子供なのは自分の方、そんなのわかっている。
こんな顔は見せられない……こんな泣きそうな歪んだ私のひどい顔。
後ろからついて来る気配から逃げるように、私は一目散に馬車に走った。
激しく息切れを起こしながら、馬車の中に飛び込み、息を整える。
毎晩の抱きつぶしのせいで、あきらかに体力が落ち、手足がガクガクと震えていた。
泣きそうだ……本当に情けない。
こんな気持ちが制御できないのは初めてだ。
少し時間を置いて、戻ってきたウェダーは持ってきた数枚の紙を差し出した。
馬車は再び走り出す。
既に共に過ごして四日目となり、あと少しで首都に着くと聞かされていた。
ぎこちない動きで受け取った紙に目を通す。
「これ……クエストリスト」
「これが知りたかったんだろ?」
この町のギルド掲示板に貼ってあるクエスト、その中でもシャーリーが参戦できそうな初級者ソロもしくは少人数のものが、厳選され記載されている。
上級ランクの者のみ、このような紙を発行して貰う事は可能だが、本来は皆が掲示板に群がるのは公平性の為だ。
いつも必死に朝早くギルドに向かい、初心者用クエストを申し込むパーティーに、仲間に入れてくれと声をかけるのが日課みたいなものだった。
数日前の自分を懐かしく思う時が来るなんて。
「どれがいい?条件が少人数のは、俺が同行するから問題ないよ」
「まさか!騎士がクエストに参加するのは基本的に禁止されているはずです」
でなければ、ただでさえ奪い合いのクエストが正式な訓練を受けた騎士たちに奪われてしまう。
この世界では、騎士と冒険者はきっちりと区別されているはずだ。
だが、にべもないとウェダーは軽く言う。
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「それは……私を見張るためですか?」
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迷いなく答えられ、やはりそうかと納得した。
それでも、彼は私の我がままに付き合ってくれるらしい。
最後のクエスト……きっと首都に行けば拘束されるだろうし、思い残す事のないクエストにしたい。
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少しは機嫌が治ったようだと、ウェダーは心の中でホッとする。
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今回は通常のクエスト受注と違い、リストの全ての予約をウェダーが抑えている状態。
ギルドからすれば、参加条件などウェダーを頭数に入れている以上、ないようなものなのだ。
本来なら――レベル15からの複数人必須――この程度の条件が加えられるべき難易度クエストに、シャーリーは迷いなくコレがいいと選び出した。
今更、これはダメだと言えない雰囲気が馬車内に漂っている。
仕方ないと、ウェダーは計画を変更した。
どちらにせよ、調査が必要なのは同じなのだから。
何も知らないエルフは、汚名返上とばかりにテンションが高い。
「ありがとうございますウェダーさん!きっと頑張って達成してみせますから!」
「ああ、頑張ろうな」
「では早速ギルドに行って、パーティーを探さないと」
今度こそ頑張って仲間を見つけるのだと、張り切り出すエルフを止める騎士がいた。
「俺と二人でだシャーリー」
「ううっ……そんなに私って不甲斐ないですか?」
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「容疑者だから?」
「好きだからだ」
迷いなく言い切られ、心が動揺してしまう。
頭を掻きながら、彼は窓の外を見た。
再び、馬車内に重い空気が広がった。
「どうして……そこまで執着するんですか?番とか獣人みたいな事まで言って」
彼の瞳が暗闇や興奮で金色に変化するのを何度も見た。
人ではない……だけど彼は騎士だ。
獣人が騎士になどなれるはずもない。
だったら、なぜ?
口に出さずとも、何を疑われているかウェダーはわかっていた。
だが、あえて気を逸らす。
「俺は強いよ。俺と一緒なら挑戦できる……どうする?」
「お願いします!」
背に腹は代えられない。
肝心な質問は誤魔化されたけれど、それでも申し出に飛びつくしかなかった。
そうと決まれば、心が弾む。
「ウェダーさん!買い物したいです!」
「ああ、何が欲しい?ドレスか?宝石でも何でも買ってやる」
「自分で買うので、武器を扱っている店をお願いします」
馬車は、町の商店街に辿り着く。
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「君は、私のものだ。禁書も、その魂も、すべてな」
嘘から始まった関係が、執着に変わる。
竜の情欲と宮廷の陰謀が絡み合う、背徳のインモラル・ロマンス。
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