こんにちは、最強騎士にお持ち帰りされたダメエルフです~もう逃げられません~

西野和歌

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「決まったぞ。こちらの答えは申し出通り、この集落では“虎として”護衛の形で滞在を許す。ただし夜以外だ」

「夜以外?」

「夜は、集落の結界外に家を建て、そちらで二人とも過ごしてもらう。そこでは人の形に戻るのも、虎のままなのも好きにしろ。獣人達の意思に従う。こちらからは、以上だ」

「なるほど、わかった」



 確かにアネッサにとって、夜だけでも嫌いな男と一緒にいるのは罰になる。

 番を引き離す事は出来ない、それを知った上でのエルフの采配だった。

 ルイは尻尾をパタンパタンさせて、喜びを表していた。



「では、アネッサ自身への報告は父親に任せるとして、外で待つ獣人達にそれを伝えてくる」

「頼むぞ、シャーリーの番よ」



 長に頭を下げて、ウェダーはルイを引き連れて結界の外を目指す。

 とっとと終わらせて、急いでシャーリーの元に駆けつけたい。

 体調はどうだろうか?

 戻ったら医者に連れて行かなければ。

 エルフ達に治療できないなら、町まで愛馬で駆けてそれで……。



 考え事をしているうちに歪みに辿り着く。

 停止したルイの背に、ウェダーは告げた。



「入るのは特殊な方法が必要だが、出るのは簡単らしい。行くぞ」



 足を踏み出すと、一瞬の眩暈と共に世界が変わる。



 外に出た途端に、待ち受けていたルイの仲間達に取り囲まれた。



「ご苦労な事だな。ずっと待機していたのか」



 獣人にとっては、野営など造作もない事だったに違いない。

 だが嫌味を込めて告げてやった。

 わざわざ、他種族との揉め事の種を持ち込んで、と。



 ムッとした男たちだが、現れた虎のルイに駆け寄った。



「おいルイ!どうなった?番は?」

「ガゥガゥア!」



 虎のまま答えようとしたルイを、白い目で見つめたウェダー。



「人に戻って、とっとと説明してやれ」

「ガゥ(そうだな)」



 途端に、光を纏って人に戻ったルイが、先ほど決まった結果を皆に伝えた。

 こちらも反応が様々だった。



「おい。それでいいのか?」

「しかし、排他的なエルフの番の側にいるには、それしかないのかも」

「こちらの長にどう伝えるんだルイ。お前が次の跡取りだろうが」



 あーだこうだと、静かな湖畔にうるさい男たちの声が響く。

 無駄な時間だと、早く戻りたくてイライラしているウェダーは、いい加減にしろと怒鳴る寸前で、人に戻ったルイが仲間達に宣言した。



「俺は決めた。俺の愛しいアネッサの元に居られるなら、虎でも猫でもいい」

「お前の親父さんに、どう伝えるんだ!」

「弟がいるだろ。あいつに跡を継がせたらいいんだよ」



 もう幸せは確定したとばかりに、喜び勇むルイは、他の言葉など聞き入れない。

 ガクリと肩を落とした仲間達は、これで良かったんだと慰め合った。



「これで、なんとかお前たちとエルフの対立は阻止されたな」



 やれやれだと、肩を揉むウェダーは首をコキコキと鳴らす。

 まったく、ただ里帰りさせただけで、余計な事に巻き込まれて迷惑だった。

 予定では、感動したシャーリーと、より濃密な夜を過ごせていたはずなのに……。

 なのに現実は、獣人とのトラブルに時間をとられ、あげく愛しいシャーリーは神聖なる空気に影響されて、発情できなくなっている。

 そのうえ、あの吐き気はもしかしたら……。



「おい。最近は、他種族間での婚姻が増えているのは、番認定される確率が上がったからか?」



 ウェダーが、獣人達に尋ねてみた。



「ああ、昔より交流が増えたせいでな。以前より、番が見つかる率が早まったのはいいが、いい事ばかりではないな」

「一応、相手種族の意思を尊重するようにしているが、俺たちも番を認識してしまったら最後だ。離れたら気狂いする」



 ほぼ番を嗅ぎ分けるのは獣人だけだ。

 エルフも人も、その感覚は絶えて久しい。

 だからこそ、彼らからの一方的な求愛でトラブルが発生しやすくなっている。



「エルフと番う者も、増えているのか?」



 彼らは顔を見合わせ、首を横に振る。



「俺たちの村では、ルイが初めてだ。だが、ないわけではない」

「それで結果は?」

「半々だ。少なくとも、人の世界に紛れたエルフとなら、出会う確率が高い」



 確かに、わざわざ番を探しにエルフ達の場所まで近づかないだろう。

 余所者も入れぬ結界は、場所によっては攻撃される恐れすらある。

 今回のルイは、本当に奇跡だったのだ。

 アネッサが、薬草を求めて結界の外にさえ出ていなければ、出会う事すらなかっただろう。

 本来のエルフ達は、変わり者や、物好きでもなければ、外になど出ないのだから。



 改めてシャーリーの奇跡に感謝する。

 彼らいわく、たとえ番から拒絶されても、ただ待つしかないのだという。



「エルフと揉めるのは、俺たちだって避けたい。人ともだ。本来なら、相手側に拒絶され、トラブルの種になると判断された時点で、その村から縁を切られる」



 つまり、こちら側とはもう無関係だからと切り捨てるらしい。



「ルイは特別だ。俺たちは友人であり、こいつは未来の長だった。だから、俺たちも追放覚悟で応援に来たんだ」

「ありがとうな、みんな!俺は、幸せになる」



 そうだ、絶対に幸せになれ!

 お前はいつまでも仲間だ!

 などと、彼らは呑気に励まし合って、ルイの幸せを応援してくれた。

 当の本人も、得意げに胸を張って告げた。



「なんてったって、夜は人でいられるなら、惚れてもらえるチャンスもあるもんな!」

「勝手に喜んでいる所悪いんだが、あくまで結界の外に家が建つまでは、お前は夜も虎のままだが?」

「あああっ!」



 途端にルイは、頭を抱えて座り込んだ。

 馬鹿だ……本当に、こいつは馬鹿だと、ウェダーは見捨ててしまいたいが、ルイ一人では結界の中に入れない。

 もう、ここに放置していい気がすると思っていたが。



「なら、俺たちがここに建てればいいだろ!」

「おおーっ!」



 素晴らしい脳筋だと、ウェダーは痛むこめかみを指で抑えた。

 そのままウェダー一人、急ぎ足で長の元に戻り建設の許可を得る。

 長は、腹を抱えて笑っていた。



 その足で急いでシャーリーの元に走る。

 自分にだけわかる彼女の匂い。

 実家ではなく、アネッサの元にいるらしい。

 ついでとばかりに、アネッサの家に飛び込むと、泣いて落ち込むアネッサを慰めるシャーリーがいた。



「ウェダー、お帰りなさい」

「ああ、また外にいるバカどもの元に行かなくては……行きたくない」



 ポロリとこぼすと、乗っかるようにアネッサも叫んだ。



「私も嫌!夜にあの大きいの男と一緒なんて、舌を噛んで死にたい!」

「なら噛めばいい」



 冷たく放つウェダーに、シャーリーは叱った。



「ダメですウェダー!」

「……本人の自由だと思うが」

「どうして、私には優しいのに、他の人に時々冷たいんですか」



 そう言われても、仕方ない。答えは決まっている。



「君だけが、大事だからだ」

「他の人にも、優しくして下さい」

「だから、俺は当事者でもないのに、こうやって駆けずり回っている」

「ありがとう」



 グスンと鼻をすすったアネッサが、初めてウェダーに礼を告げた。

 気位の高いエルフが、ただの人間に礼を言うのだ。

 やはり、このアネッサも変わり者の一人なのだとウェダーは感じた。

 先程とは違う、優しくゆっくりとウェダーは教えてやる。



「君は怖いのかも知れないが、ルイにとって君に嫌われる事が君以上に怖い。だから、君が嫌がることは二度としないと誓えるよ」

「ほ、本当?」

「あれも、中身は虎ちゃんだ。ちゃんと今度は躾けたんだろ?」



 小さく笑ってやると、やっと調子をとり戻したアネッサは笑う。



「そうね、怖がってばかりじゃダメよね」

「今は、君の為に結界を出た泉の近くに、仲間達と家を建てている。出来るだけ、ここに近い場所がいいという配慮だ」



 アネッサは一瞬目を見張り、そして横に座るシャーリーの顔を見た。

 大丈夫だと無言で頷く親友に力づけられ、アネッサはウェダーに言付けた。

 聞き入れたウェダーは、今度はシャーリーを見つめる。



「体の調子は?」

「あっ、えっと……」

「ここで見てもらえなかったのなら、急いでカイザーに乗ってふもとの人の村まで飛ばそう」

「違う、その、あのっ」



 なぜか躊躇するシャーリーの背中を、アネッサがバンと叩いた。



「私はもう大丈夫だから、とりあえず二人で話してきなさいよ」

「うん……」



 立ち上がったシャーリーが、ソッとウェダーの手を握り、そのまま扉を開けてアネッサの家を出た。

 もともとシャーリーの家と同じく、アネッサの家も、仲間達から離れた外れにある。

 家を出れば静かで、緑に染まった周囲の空気は澄んでいた。

 間違いなくここは、神聖なるエルフの土地である。



「シャーリー、君から手を握ってくれるのが、どれだけ嬉しいかわかるか?」



 ふいに聞かれて、シャーリーは立ち止まる。

 その手がふいに離れそうになると、今度はウェダーがギュッと軽く握る。

 甘い妻にだけ見せる顔で、ウェダーは告げた。



「いつもほら?こうやって、俺からばかりだろ?だから、シャーリーから俺に触れてくれた時は、より幸せを噛み締めているんだ」



 その言葉に、シャーリーは頬を桃色に染めて、下を向いた。

 少し長めのシャーリーの前髪を、指で梳くってウェダーは今度は、心配そうに尋ねた。



「俺の命、俺の魂。どうか、隠し事はしないでくれ。君の体に何かあったのか?」



 その言葉に、小さくビクリと体を震わせたシャーリーは、観念したかのように、ゆっくりと顔をあげた。

 目が潤み、唇が小さく震える姿に、ウェダーはゾクリと獣が騒ぎ出す。

 だが、必死にいつものごとく抑え込んだ。

 ここが、ルイとの差だ。



「私、勘違いしちゃって……あのっ、子供ができたと思ったんです」

「子供?」



 驚いたウェダーは、妖艶に魅了する予定だったが、いつもの素顔に戻ってしまう。

 だが、シャーリーは気づく事なく、必死に言葉を紡ぐ。



「もしかしてって、少し思い当たる事もあって……」

「ああ、月経が遅れていたな」

「馬鹿ッ!普通に言わないでっ!」



 バンバンと胸を叩かれ、苦笑しながらウェダーは答えた。



「ごめんごめん。それで?」

「吐き気は、ただの食あたりでした」

「もう、大丈夫なのか?」

「ちゃんと薬を飲んだんで……それで、止まっていたのが始まってしまって……」



 旅人や冒険者であれば、女の体調不順は常識として頭に入っている。

 数少ない、女魔法使いなど、月の物によって魔力すら変化してしまうのだから。

 市販でも、遅らせる薬や、緩和する食べ物などの知識もある。

 ウェダーも、救護知識として当然学んでいた。



「お腹を温めて、横になって休もう、シャーリー」

「こういう知識もあるんですね、誰に教わったんですか?」



 おや?とウェダーはシャーリーを見つめた。

 だが、泣くのを堪えた顔で、少し睨みつける目が可愛いとしか感じないウェダー。

 当人は、特有の感情が不安定で、つい隠していた心に振り回されている。



「ウェダーは、とってもモテるから、他の女性からそういう知識を教わったんですか?」

「どうした?」

「どこのギルドに行っても、新しい町や村でも、女性はみんなウェダーを見ます。私の旦那様なのにっ」



 まるで幼子のようだ。

 癇癪を起こして、隠れた嫉妬をむき出して、ウェダーを困らせる。

 私はなんて未熟なのだと、自分で自分が嫌いになって行く。

 きっと彼も呆れたに違いない。

 妻にもなって、なんて情けないって……。

 その上、私は……。



「もう、ずっと私は妻として夜のお勤めもできていないし。今も月の物が来ちゃったから、当分は我慢させちゃうし。こんなにもったいぶる私なんか、妻失格だよね」



 ホロリと涙が出る。

 私って、こんなに泣き虫だった?

 でも今は、あふれ出る感情で、ウェダーに必死に懇願した。



「ダメな妻だけど、ウェダー捨てないで!もう一人は嫌、本当は抱きしめられると嬉しいの」



 無言の夫に、嫌われたのだと思い込んだシャーリーは、泣いて縋りつく。



「ちゃんと体が戻ったら、今度は私から頑張るから!だからっ……」



 最後まで言い切る前に、勢いよく引き寄せられたシャーリーは、気づくと熱く唇を奪われていた。

 ついばむような甘いものではなく、全てを吸い取る激しさで愛を思い知らされる。

 息苦しさに厚い胸を叩いても、優しく手首を掴まれ捕獲される。

 舌を絡めとられ、口の中を堪能される二人に、木々の隙間から光が照らす。

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