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番外編
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「お母さん、ミー兄様が来た」
僕はトコトコ歩いていた妹のナーナを抱いて、急いで兄様を迎えるために玄関に並んだ。
僕よりかなり年上の、ミリオン兄様は僕の憧れだ。
「にーに、ミーにーに来たぁ」
「そうだね、兄様おかえりなさい」
僕たちは飛びつくように、馬に走り寄った。
馬上から急いでヒラリと降りた、ミー兄様が苦笑する。
「こら危ないから、馬に走り寄ってきたらダメだヨーク」
「はい、すいません。僕、嬉しくて」
「にーに、ミーにーに」
ダッコと小さな手を広げるナーナを、愛しげに兄様は抱き上げた。
そして、僕の頭を撫でてくれる。
僕も離すまいと、しっかりと兄様の騎士服の袖を掴んだ。
「あらあら、人気者ねミリオン」
「只今帰りました」
「もう、遠征は終わったの?」
「はい、父上と共に初めて体験しましたが、良い勉強になりました」
「それで、当の本人は?」
「まだ立場上、処理せねばならぬ事が多々あり……ふふっ、早くここに帰りたいと文句を言ってました」
アハハと笑う兄様に、お母さんも笑う。
もう少ししたら、お父さんも帰って来るらしい。
久しぶりに皆が揃うので、僕もナーナも大喜びだ。
この家は城の敷地内にある小さな家だ。
僕も何度か連れ出して貰った城下町の家とはまた違う。
なんでも田舎の家は、こういう感じだそうだ。
僕は城も知っている。凄く広くてカッコいいんだ。
僕が歩くと、皆が頭を下げて礼をしてくれる。
「殿下・殿下」
皆が僕を王子様として扱ってくれるのも、僕は嫌いじゃない。
だけど、僕が王子様だぞって威張ると、お母さんに叱られる。
「あなたが、何かをなし得た時に威張るのは正しい。けれど、ただ血筋のみで威張るのはやめなさい」
偉いのは僕じゃなくて、お父さんや、そのまたお父さんのお父さんの……、つまり僕は何もしていない。
僕は反省して、どうしたらいいのか、お母さんに聞いたんだ。
「あなたは自分の勉強を頑張って、何よりいいお兄ちゃんでいて頂戴」
「うん、わかった」
僕は、ナーナにずっとお母さんをとられたと思っていた時期もあった。
でも、今はちゃんといいお兄ちゃんをしている。
そうしたら、皆が幸せに笑ってくれたんだ。
ミー兄様は、今では月の半分は城で暮らしている。
凄く一杯、勉強とか訓練をしているらしい。
僕は純粋に、あの怖い将軍と剣で戦っているのを見てヒヤヒヤした。
ミー兄様はとても強くて、まるで踊っているみたいに剣を振っていた。
将軍もベタ褒めして、僕も鼻が高かったんだけど……。
「では、ついでにヨークシャス殿下も試してみましよう」
嫌だと僕は抵抗したけど、あの怖い顔で迫られて、渋々と重い木の剣を持った。
結果は散々だった。
だから嫌だって言ったのに!
涙目の僕を兄様は慰めてくれたけど、将軍はこりていない様子で、あれから何度も誘いが来るたびに僕は逃げた。
そのうちに、夜も恥ずかしいけど粗相をしてしまって、見かねたお母様が止めてくれた。
将軍は反省したのか、時期が早かったと謝罪して、お母さんの好きなハチミツを沢山置いて帰った。
僕は隠れて出ていかなかったけどね。
ちなみに、お父さんは自主性に任せるとか、意味のわからない事を言って僕を放置したのを恨んでる。
あとで、色々とお菓子やオモチャで機嫌を取りに来たけど、お菓子はお母さんの作ったのが一番美味しい。ハチミツたっぷりだし。
オモチャは、ミー兄様が作ってくれた木のトンボや、パズルが一番のお気に入り。
だからお父さんは、とっとと仕事を頑張ればいいと僕が怒ったら、しょげていた。
いい大人だし王様なのに、お父さんは弱いのかも知れない。
僕は将軍は苦手だけど、大臣は好きだ。
僕が何か作るのが好きだというと、色々な小物の作り方をわかりやすく書いた本をくれた。
「良かったら、いつでも城にある図書室を利用されるといい」
僕は王族だから、使ってもいいそうだ。
そのためには、まずは勉強を頑張って字が読めるようにならないと。
僕も少しは読めるようにはなったんだよ?
ナーナの絵本程度なら大丈夫だけど、貰った本の細かい字はまだ苦手だ。
「ヨークは本が好きなのね」
「うん、お母さん。でも、王子の僕が剣は嫌で、本が好きはダメなのかな?」
「まさか、苦手を頑張るのも大事だけれど、好きを伸ばすのはもっと大事よ」
「でも、兄様はどっちもできるし」
本当に完璧なんだ。だから僕はミー兄様に憧れている。
お母さんが言うには、とても遠い場所で暮らしていた時に、色々と体験した結果らしい。
「僕も体験したいです」
「クスクス、そうね。だからこの家があるのよ」
よくわからないけれど、普通の王族は畑で作物を育てたり、自分で料理を作ったりしないという。
僕は、お母さんの作ったごはんを食べるたびに、普通の王族じゃなくて良かったって思ってる。
お父さんは間に合わず、ミー兄様と僕達の全員でご飯を食べた。
ナーナも頑張ってスプーンを一つずつ運ぶから、スープが冷めないか僕は心配だった。
でも、ミー兄様はとても嬉しそうだったから、僕も頑張って配り終えるのを待ったんだ。
「それで、留学の件はどうなったのミリオン」
「うん、ちょっと迷ったけど行ってみようと思う。だって、あの国の近くだから」
「もう立派になったあなたの決定に反対する気はないけれど、それでも私は不安だわ」
「大丈夫だよ。俺の顔は父さん似だし、髪色も王族の色だから」
「そう、そうね」
「母さんのことは守るから」
難しい二人の会話の意味はわからない。
だけど、時折お母さんが悲しげな顔をする時があるんだ。
僕はそういう時、なんで子供なんだって腹が立つ。
ドアがバタンと開いて、お父さんが帰宅した。
勢いよくスタスタと歩いてきて、まっすぐにお母さんに抱きついた。
「あら、お帰りなさい陛下」
「陛下じゃない、マクシミリアンだ」
「ええ、ご無事で良かった。マクシ様」
「アルの顔が見えなくて、辛くて苦しくて……愛してる」
僕はずっと前から思ってることがある。
実は、お父さんが一番お母さんに甘えん坊じゃないのかなって。
やっと満足したのか、お母さんから離れたお父さんはナーナを抱きしめる。
「あー可愛いな。息子もいいが娘は格別だ」
「とーたん」
「よしよし、とーたんと結婚しよう」
「やー」
プッとミー兄様とお母さんが笑う。
クルリと今度は僕の方に近づいてきた。
僕は一歩後ずさりする。
「ただいまヨーク。まだ、お父さんが嫌いか?」
「別に」
将軍の件から、僕とお父さんはぎこちない感じだ。
お父さんは、ちょっと待ってろと一旦部屋を出て、今度は何か入った袋を持ってきた。
「これは皆への土産なんだがな」
「マクシ様、また甘やかして」
「勿論、勉強になる物を吟味したし、君の分もある」
「お母さん、俺は一応止めました」
「裏切るなよミリオン」
お父さんは、袋から一冊の本を差し出した。
「星の……騎士様?」
僕はなんとか、絵本の文字を読み取った。
ナーナを抱いたお父さんが、優しく笑う。
「ナーナにいつも本を読んでやってるんだろう? 偉いなヨーク」
「……うん」
大きな手で頭を撫でられて、僕の心はなんだかくすぐったかった。
お母さんが言う。
「それは思い出のお話なのよ」
ミー兄様も頷いた。
「俺にとっても大事な話なんだ」
「でも、僕は騎士になんてなりたくない」
お父さんが、かがんで僕と視線を合わせてくれた。
「好きにしていいヨーク。だけど、何かあった時は大事なものを守れる力は持っていたほうがいい。お父さんは、それがなくて大変だった」
「お父さんが?」
「あと少しで、一番大事な物を失くしてしまうところだった。だから、どんな力でもいい。守りたいという気持ちを大事にするんだ」
わかったな? と言われて僕は少し考えた。
守りたいという気持ち……僕の守りたいもの。
「なんだ簡単だ。僕が一番強くなって、家族みんなを守ればいいんだ」
「まあヨーク、一番強くなるの?」
お母さんがビックリしてる。そうだよと僕は胸を張った。
僕の守りたいのは家族、そして僕達の好きな人達、そしてこの国の人全員だ。
「任せてよ! 一番になって皆を守ってあげるからね」
僕は胸に星の騎士様を抱きしめて、意気揚々と答えると、ナーナが笑顏で拍手してくれた。
その瞬間に、部屋が笑いに包まれ温かな優しさに染められた。
この先の歴史において、国王の右腕として『星の智慧』と呼ばれた第二王子の活躍はまだ先のこと。
~~~~~
最後までお読みくださり、ありがとうございました。少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
僕はトコトコ歩いていた妹のナーナを抱いて、急いで兄様を迎えるために玄関に並んだ。
僕よりかなり年上の、ミリオン兄様は僕の憧れだ。
「にーに、ミーにーに来たぁ」
「そうだね、兄様おかえりなさい」
僕たちは飛びつくように、馬に走り寄った。
馬上から急いでヒラリと降りた、ミー兄様が苦笑する。
「こら危ないから、馬に走り寄ってきたらダメだヨーク」
「はい、すいません。僕、嬉しくて」
「にーに、ミーにーに」
ダッコと小さな手を広げるナーナを、愛しげに兄様は抱き上げた。
そして、僕の頭を撫でてくれる。
僕も離すまいと、しっかりと兄様の騎士服の袖を掴んだ。
「あらあら、人気者ねミリオン」
「只今帰りました」
「もう、遠征は終わったの?」
「はい、父上と共に初めて体験しましたが、良い勉強になりました」
「それで、当の本人は?」
「まだ立場上、処理せねばならぬ事が多々あり……ふふっ、早くここに帰りたいと文句を言ってました」
アハハと笑う兄様に、お母さんも笑う。
もう少ししたら、お父さんも帰って来るらしい。
久しぶりに皆が揃うので、僕もナーナも大喜びだ。
この家は城の敷地内にある小さな家だ。
僕も何度か連れ出して貰った城下町の家とはまた違う。
なんでも田舎の家は、こういう感じだそうだ。
僕は城も知っている。凄く広くてカッコいいんだ。
僕が歩くと、皆が頭を下げて礼をしてくれる。
「殿下・殿下」
皆が僕を王子様として扱ってくれるのも、僕は嫌いじゃない。
だけど、僕が王子様だぞって威張ると、お母さんに叱られる。
「あなたが、何かをなし得た時に威張るのは正しい。けれど、ただ血筋のみで威張るのはやめなさい」
偉いのは僕じゃなくて、お父さんや、そのまたお父さんのお父さんの……、つまり僕は何もしていない。
僕は反省して、どうしたらいいのか、お母さんに聞いたんだ。
「あなたは自分の勉強を頑張って、何よりいいお兄ちゃんでいて頂戴」
「うん、わかった」
僕は、ナーナにずっとお母さんをとられたと思っていた時期もあった。
でも、今はちゃんといいお兄ちゃんをしている。
そうしたら、皆が幸せに笑ってくれたんだ。
ミー兄様は、今では月の半分は城で暮らしている。
凄く一杯、勉強とか訓練をしているらしい。
僕は純粋に、あの怖い将軍と剣で戦っているのを見てヒヤヒヤした。
ミー兄様はとても強くて、まるで踊っているみたいに剣を振っていた。
将軍もベタ褒めして、僕も鼻が高かったんだけど……。
「では、ついでにヨークシャス殿下も試してみましよう」
嫌だと僕は抵抗したけど、あの怖い顔で迫られて、渋々と重い木の剣を持った。
結果は散々だった。
だから嫌だって言ったのに!
涙目の僕を兄様は慰めてくれたけど、将軍はこりていない様子で、あれから何度も誘いが来るたびに僕は逃げた。
そのうちに、夜も恥ずかしいけど粗相をしてしまって、見かねたお母様が止めてくれた。
将軍は反省したのか、時期が早かったと謝罪して、お母さんの好きなハチミツを沢山置いて帰った。
僕は隠れて出ていかなかったけどね。
ちなみに、お父さんは自主性に任せるとか、意味のわからない事を言って僕を放置したのを恨んでる。
あとで、色々とお菓子やオモチャで機嫌を取りに来たけど、お菓子はお母さんの作ったのが一番美味しい。ハチミツたっぷりだし。
オモチャは、ミー兄様が作ってくれた木のトンボや、パズルが一番のお気に入り。
だからお父さんは、とっとと仕事を頑張ればいいと僕が怒ったら、しょげていた。
いい大人だし王様なのに、お父さんは弱いのかも知れない。
僕は将軍は苦手だけど、大臣は好きだ。
僕が何か作るのが好きだというと、色々な小物の作り方をわかりやすく書いた本をくれた。
「良かったら、いつでも城にある図書室を利用されるといい」
僕は王族だから、使ってもいいそうだ。
そのためには、まずは勉強を頑張って字が読めるようにならないと。
僕も少しは読めるようにはなったんだよ?
ナーナの絵本程度なら大丈夫だけど、貰った本の細かい字はまだ苦手だ。
「ヨークは本が好きなのね」
「うん、お母さん。でも、王子の僕が剣は嫌で、本が好きはダメなのかな?」
「まさか、苦手を頑張るのも大事だけれど、好きを伸ばすのはもっと大事よ」
「でも、兄様はどっちもできるし」
本当に完璧なんだ。だから僕はミー兄様に憧れている。
お母さんが言うには、とても遠い場所で暮らしていた時に、色々と体験した結果らしい。
「僕も体験したいです」
「クスクス、そうね。だからこの家があるのよ」
よくわからないけれど、普通の王族は畑で作物を育てたり、自分で料理を作ったりしないという。
僕は、お母さんの作ったごはんを食べるたびに、普通の王族じゃなくて良かったって思ってる。
お父さんは間に合わず、ミー兄様と僕達の全員でご飯を食べた。
ナーナも頑張ってスプーンを一つずつ運ぶから、スープが冷めないか僕は心配だった。
でも、ミー兄様はとても嬉しそうだったから、僕も頑張って配り終えるのを待ったんだ。
「それで、留学の件はどうなったのミリオン」
「うん、ちょっと迷ったけど行ってみようと思う。だって、あの国の近くだから」
「もう立派になったあなたの決定に反対する気はないけれど、それでも私は不安だわ」
「大丈夫だよ。俺の顔は父さん似だし、髪色も王族の色だから」
「そう、そうね」
「母さんのことは守るから」
難しい二人の会話の意味はわからない。
だけど、時折お母さんが悲しげな顔をする時があるんだ。
僕はそういう時、なんで子供なんだって腹が立つ。
ドアがバタンと開いて、お父さんが帰宅した。
勢いよくスタスタと歩いてきて、まっすぐにお母さんに抱きついた。
「あら、お帰りなさい陛下」
「陛下じゃない、マクシミリアンだ」
「ええ、ご無事で良かった。マクシ様」
「アルの顔が見えなくて、辛くて苦しくて……愛してる」
僕はずっと前から思ってることがある。
実は、お父さんが一番お母さんに甘えん坊じゃないのかなって。
やっと満足したのか、お母さんから離れたお父さんはナーナを抱きしめる。
「あー可愛いな。息子もいいが娘は格別だ」
「とーたん」
「よしよし、とーたんと結婚しよう」
「やー」
プッとミー兄様とお母さんが笑う。
クルリと今度は僕の方に近づいてきた。
僕は一歩後ずさりする。
「ただいまヨーク。まだ、お父さんが嫌いか?」
「別に」
将軍の件から、僕とお父さんはぎこちない感じだ。
お父さんは、ちょっと待ってろと一旦部屋を出て、今度は何か入った袋を持ってきた。
「これは皆への土産なんだがな」
「マクシ様、また甘やかして」
「勿論、勉強になる物を吟味したし、君の分もある」
「お母さん、俺は一応止めました」
「裏切るなよミリオン」
お父さんは、袋から一冊の本を差し出した。
「星の……騎士様?」
僕はなんとか、絵本の文字を読み取った。
ナーナを抱いたお父さんが、優しく笑う。
「ナーナにいつも本を読んでやってるんだろう? 偉いなヨーク」
「……うん」
大きな手で頭を撫でられて、僕の心はなんだかくすぐったかった。
お母さんが言う。
「それは思い出のお話なのよ」
ミー兄様も頷いた。
「俺にとっても大事な話なんだ」
「でも、僕は騎士になんてなりたくない」
お父さんが、かがんで僕と視線を合わせてくれた。
「好きにしていいヨーク。だけど、何かあった時は大事なものを守れる力は持っていたほうがいい。お父さんは、それがなくて大変だった」
「お父さんが?」
「あと少しで、一番大事な物を失くしてしまうところだった。だから、どんな力でもいい。守りたいという気持ちを大事にするんだ」
わかったな? と言われて僕は少し考えた。
守りたいという気持ち……僕の守りたいもの。
「なんだ簡単だ。僕が一番強くなって、家族みんなを守ればいいんだ」
「まあヨーク、一番強くなるの?」
お母さんがビックリしてる。そうだよと僕は胸を張った。
僕の守りたいのは家族、そして僕達の好きな人達、そしてこの国の人全員だ。
「任せてよ! 一番になって皆を守ってあげるからね」
僕は胸に星の騎士様を抱きしめて、意気揚々と答えると、ナーナが笑顏で拍手してくれた。
その瞬間に、部屋が笑いに包まれ温かな優しさに染められた。
この先の歴史において、国王の右腕として『星の智慧』と呼ばれた第二王子の活躍はまだ先のこと。
~~~~~
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