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第三話
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白衣の男は、玄関を抜けてエントランスホールへ入る。エントランスホールはホテルのロビーらしく左右に受け付け用のカウンターがあり、そして中央には下方へ向かって降りてゆく螺旋階段がある。天井はガラス張りで、明るい日差しが輝く柱のように降り注いでいる。
この建物は中心に、大きな円形の吹きぬけがあるようだ。山の斜面に建てられたこのホテルは、最上階に入り口とエントランスホールがあり、そこより下に客室がある。
白衣の男は何か不吉な気配を感じ、そっと眉を顰めた。降り注ぐ光の柱の中に、奇妙な歪みがあるのを感じる。それは極彩色の虹が螺旋状に幾つも絡み合い、不思議なダンスを踊っているようにも見えた。
その光が綾なす螺旋の舞踏は次第に収束してゆき、やがてひとの姿を取りはじめる。その半ば透明で硝子細工で出来たようなひとの姿は、女性の形体へとなってゆく。向こう側が透けて見える女性の姿は、鮮やかな緋色のパーティードレスを纏っていた。
彼は、無造作にその女性に歩み寄る。
「これは、これは。あなたは名高い怪異とお見受けするが」
その女性は、少し赤い唇を笑みの形に歪める。妖艶で甘い香りが立ち上るようだと、彼は思う。それは、真昼に突然出現した夜の不吉だといえた。
「ああ、こんなところに来たくはなかったし、余計なお世話だとは思うのだけれど警告を携えてきたの」
彼は、深く腰を曲げ丁寧に一礼する。その十分に敬意を払った仕草に、女は鷹揚に頷く。
「私のことは、ミストレスと呼ぶがいいわ、ヴァチカンの抹殺機関はそう呼んでいるので」
「お噂は、かねがね」
ミストレスと名乗った女性の怪異は、少し苦笑する。
「まあ、碌でもない噂よね」
「夜の眷属、ノスフェラトゥである貴女は残酷で非道、逆らうものには容赦せず絶望と苦痛の果に、血を吸い尽くして死を賜ると」
白衣の男が少し笑みを浮かべながら零した言葉に、ミストレスは煩げに手をふる。
「そんなことはどうでもいい、あなた魔導師であるなら気をつけることね」
彼は、問いかけるように片方の眉をあげる。ミストレスは、赤い唇からそっと吐息を漏らす。
「ここは狂ってる。色々な意味で。貴方たち人間がしでかしたことで、私たち怪異はとっても迷惑しているの」
「善処するつもりですよ、全てを解決するために」
ミストレスは、苛立たしげに眉をよせたが何も言わない。ただ、一言だけ残す。
「一応、警告はしたわよ。では、御機嫌よう」
ミストレスは、唐突に姿を消す。まるでスイッチを消して投影を止めた、電影のようであった。彼は少しだけ、首を振る。
そして白衣の男は、再びポケットから携帯端末を取り出す。その端末を操作し、メールの文章を呼びだした。
『
to 椿美智夫教授
fm 田端
事情があって電話では、連絡をとることができません。何しろセキュリティ的に封鎖されている、特殊な場所にいるもので。
直接お会いしたときに詳しいお話をさせてもらうとして、とりあえず事のあらましだけを少し書いておきます。
南極で見つかった未知の生命体の話はご存知でしたよね。私たちの研究所は前にお伝えしたようにその生命体を調べていました。そしてその調査に量子コンピュータを使用していたのです。
そもそもそれが間違っていたことに気がつくのに、少し時間がかかりました。
その代償を私たちは支払うことになります。
ひとつの命を失うという形によって。
私たちは魔法によって媒介してゆくウィルスを、解き放ってしまったのです。そして、それを再び封印するために、あなたの力を必要としています。
さて、本題にはいります。
先日送っていただいた斉木美奈子の端末からのアクセスログを、確認しました。事態はやはり私が想定していたとおりの状況になっているようです。椿教授、電子工学とオカルティズ厶の融合を試みられているという、あなたのお力を借りる必要があるようです。 私のいるこのホテルへ来てください。
このメールには、三つの添付ファイルがあります。
ひとつめは、私のいるホテルに入り込むためのキーとなるプログラムです。私はウィルスが外へ漏れるのを防ぐため、即席の魔法によってホテルを封じています。
ふたつめは、私のいるホテルのある場所を示す地図と、内部の見取り図。
みっつめは先日おつたえしたワクチンの仕様書となります。
』
白衣の男はメールにつけられた添付ファイルをひらく。ディスプレイに表示された見取り図を見ると、男は携帯端末をしまって歩き出す。
中央の螺旋階段に囲まれた吹きぬけを覗きこむ。吹きぬけの最下部はホールになっていた。ちょっとしたコンサートがひらけるくらいの広さはあるだろうか。
男はそのホールに黒い影をみた。薄くぼんやりと浮かぶ黒い影。男はふっと笑みを浮かべ、その螺旋階段から離れる。
この建物は中心に、大きな円形の吹きぬけがあるようだ。山の斜面に建てられたこのホテルは、最上階に入り口とエントランスホールがあり、そこより下に客室がある。
白衣の男は何か不吉な気配を感じ、そっと眉を顰めた。降り注ぐ光の柱の中に、奇妙な歪みがあるのを感じる。それは極彩色の虹が螺旋状に幾つも絡み合い、不思議なダンスを踊っているようにも見えた。
その光が綾なす螺旋の舞踏は次第に収束してゆき、やがてひとの姿を取りはじめる。その半ば透明で硝子細工で出来たようなひとの姿は、女性の形体へとなってゆく。向こう側が透けて見える女性の姿は、鮮やかな緋色のパーティードレスを纏っていた。
彼は、無造作にその女性に歩み寄る。
「これは、これは。あなたは名高い怪異とお見受けするが」
その女性は、少し赤い唇を笑みの形に歪める。妖艶で甘い香りが立ち上るようだと、彼は思う。それは、真昼に突然出現した夜の不吉だといえた。
「ああ、こんなところに来たくはなかったし、余計なお世話だとは思うのだけれど警告を携えてきたの」
彼は、深く腰を曲げ丁寧に一礼する。その十分に敬意を払った仕草に、女は鷹揚に頷く。
「私のことは、ミストレスと呼ぶがいいわ、ヴァチカンの抹殺機関はそう呼んでいるので」
「お噂は、かねがね」
ミストレスと名乗った女性の怪異は、少し苦笑する。
「まあ、碌でもない噂よね」
「夜の眷属、ノスフェラトゥである貴女は残酷で非道、逆らうものには容赦せず絶望と苦痛の果に、血を吸い尽くして死を賜ると」
白衣の男が少し笑みを浮かべながら零した言葉に、ミストレスは煩げに手をふる。
「そんなことはどうでもいい、あなた魔導師であるなら気をつけることね」
彼は、問いかけるように片方の眉をあげる。ミストレスは、赤い唇からそっと吐息を漏らす。
「ここは狂ってる。色々な意味で。貴方たち人間がしでかしたことで、私たち怪異はとっても迷惑しているの」
「善処するつもりですよ、全てを解決するために」
ミストレスは、苛立たしげに眉をよせたが何も言わない。ただ、一言だけ残す。
「一応、警告はしたわよ。では、御機嫌よう」
ミストレスは、唐突に姿を消す。まるでスイッチを消して投影を止めた、電影のようであった。彼は少しだけ、首を振る。
そして白衣の男は、再びポケットから携帯端末を取り出す。その端末を操作し、メールの文章を呼びだした。
『
to 椿美智夫教授
fm 田端
事情があって電話では、連絡をとることができません。何しろセキュリティ的に封鎖されている、特殊な場所にいるもので。
直接お会いしたときに詳しいお話をさせてもらうとして、とりあえず事のあらましだけを少し書いておきます。
南極で見つかった未知の生命体の話はご存知でしたよね。私たちの研究所は前にお伝えしたようにその生命体を調べていました。そしてその調査に量子コンピュータを使用していたのです。
そもそもそれが間違っていたことに気がつくのに、少し時間がかかりました。
その代償を私たちは支払うことになります。
ひとつの命を失うという形によって。
私たちは魔法によって媒介してゆくウィルスを、解き放ってしまったのです。そして、それを再び封印するために、あなたの力を必要としています。
さて、本題にはいります。
先日送っていただいた斉木美奈子の端末からのアクセスログを、確認しました。事態はやはり私が想定していたとおりの状況になっているようです。椿教授、電子工学とオカルティズ厶の融合を試みられているという、あなたのお力を借りる必要があるようです。 私のいるこのホテルへ来てください。
このメールには、三つの添付ファイルがあります。
ひとつめは、私のいるホテルに入り込むためのキーとなるプログラムです。私はウィルスが外へ漏れるのを防ぐため、即席の魔法によってホテルを封じています。
ふたつめは、私のいるホテルのある場所を示す地図と、内部の見取り図。
みっつめは先日おつたえしたワクチンの仕様書となります。
』
白衣の男はメールにつけられた添付ファイルをひらく。ディスプレイに表示された見取り図を見ると、男は携帯端末をしまって歩き出す。
中央の螺旋階段に囲まれた吹きぬけを覗きこむ。吹きぬけの最下部はホールになっていた。ちょっとしたコンサートがひらけるくらいの広さはあるだろうか。
男はそのホールに黒い影をみた。薄くぼんやりと浮かぶ黒い影。男はふっと笑みを浮かべ、その螺旋階段から離れる。
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