空を飛ぶ少女、引きこもりの少年、破壊を求めるおとこ

ルサルカ

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第55話「意外とおとこのこだね」【リディア】

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そして夜になれば、ナツとハルオは模擬戦を行う。

山岳地帯の上空で空中戦を行うふたりを、肉眼で視認することは殆どできない。

時折夜の闇を切り裂く光は、流れ星やUFOと見分けがつかなかった。

まあ実際、ふたりを見ているつもりで流れ星やUFOを見ていたのかもしれないが。

わたしとアキオは、地上からふたりを見送り夜中近くに戻ったふたりを出迎える。

ふたりの戦闘が見えなくても、模擬戦でどちらが勝ったかは見当がついた。

模擬戦で勝てば、ナツはあきれるほどにこにこして降りてくる。

負けたときには、子供が拗ねたような顔になった。

ハルオは大抵無表情だが、あまりにナツが上機嫌だと苦笑しながら降りてくる。

ナツは、天才だと思う。

経験値では圧倒的にハルオのほうが上なのだろうが、3本模擬戦をやればナツは最低でも2本はとった。

ハルオもナツの強さには、多少あきれぎみではある。

けれど、アキオはナツの才能に満足してはいないようだ。

情報処理が専門のアキオは、いつの間にかネットを通じてダークペガサスのアビオニクスに搭載されているソフトウェアを入手したらしい。

ハルオがアジトに設置しているコンピュータを使って、ナツのスペックを入力しダークペガサスとシミュレータで仮想対戦させているようだ。

その結果が、どうもよろしくないようである。

ハルオはあまりシミュレータの結果は、深刻にとらえてはいないようだが、それは元々彼が勝ち目の薄い戦いだと思っているせいもあるようだ。

アキオは勝つつもりらしく、色々悩んでいる。

もちろん負ければ、地球は太陽になって燃え尽きるのだ。

負けるのはごめんだが、どうしようもないものは考えても仕方がないと思う。

ある日、模擬戦から降りてきたハルオに向かって、アキオが語りかけた。

「もし、僕がナツに乗ったとしたらどうなります?」

ハルオの目が、面白がっているような光を帯びた。

「ひとひとりの重さなら、常温核融合のエンジンにとってあまり影響はない。戦闘力に差は、でないと思う」

ナツは、驚いた顔でアキオを見たが、アキオは気にせず語る。

「飛行形態をとった時に、コックピットは必要ないはずなのにコックピットがある。それは、戦闘時にひとりのひとが処理可能な以上の操作を行うためでは、ないのですか?」

ハルオは、薄く笑った。

「ひとが乗ったほうが、射撃の精度があがるのは確かだが、劇的に変わるものではない」

アキオは、頷く。

「それでも、僕はナツに乗って共に戦いたいと思います」

ナツは、ちょっと感心したようにアキオを眺める。

ハルオは頷くと、何かをアキオへ向かってほうりなげた。

アキオは、手に受け止めたものを見る。

ケースに入った、注射器だった。

「バギュームだよ、そいつを血管にぶちこめ。それが、ナツに乗る条件だ」

ハルオは、どこか楽しげだ。

「適合しなければ、死ぬ可能性がある。まあ、気にするな。1パーセント以下の確率だ。ヨハネスブルクのヒルブロウに行くよりは、死ぬ危険が少ない」

アキオは、ハルオの軽口が終わる前に針を血管に刺していた。

ナツが、口笛を吹いて笑う。

「やるじゃん」

少し蒼ざめた顔をしているアキオの肩に、わたしは手をかける。

「意外とおとこのこだね、あんた」

アキオは、驚いてわたしを見る。

「とんでもない、僕はただのおたくですよ」
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