白百合姉妹

ルサルカ

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第九話

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 もう、暗黒の塔は眼の前にある。
 彼女は間に合ってよかったと、思う。
 ざあっと、暗黒の塔から黒い影のようなものが飛び立ってくる。

「何カガ、来ルゾ」

 竜が、呟く。
 彼女は、頷いた。

「あれは、死の鳥たち。わたしたちが塔に行くのが、気に入らないのだろうね。けれどもまだ、滅びの時に至ってはいない。あの鳥たちもまだ、さしたる力はない」

 彼女の紅い瞳が、残忍に光る。

「焼き払ってしまうといい」

 竜は口を開くと、真紅の炎を吐く。
 炎は紅蓮の渦を巻き、黄金色に輝く空を覆っていった。
 その渦巻く炎は、黒い鳥たちを呑み込み焼き尽くしてゆく。
 やがて死の鳥たちは、全て焼き尽くされ白い灰となり青く輝く湖へ雪のように降り注ぐ。
 漆黒の竜は大きく弧を描くと、塔の最上階へと降り立った。

「ありがとう、竜よ」

 彼女は、竜に手を伸ばす。
 竜は頭を垂れ彼女の手が触れられるようにする。

「この世界はもはや理が支配を終えつつある。お前のようなものは、生きられぬ世界となった。ここで、おさらばだ」

 彼女のことばに、竜は幾度か羽ばたいて応える。

「また、会おうぞ。世界が巡り滅び蘇ったその先で」

 彼女の言葉に竜は頷くと空へと飛び立ち、藍に染まり暗さを増す空の彼方へと漆黒の身体を溶け込ませて消えていった。
 彼女と青い瞳の少女は手を取り合って、塔の中へと入ってゆく。
 そうして二人は、塔で日々を過ごすことに成る。



 ある日、彼女は空が真紅に染まっているのを見る。
 彼女は、ああ、とうとうその日が来たのだと、知った。
 青い瞳の少女が、窓を開け放ち魅入られたように紅く染まった空を見ている。

「お姉さま、みてください。ほら、空があんなふうに」

 彼女は、思わず呟いていた。

「やめておくれ、わたしはそんな景色は嫌いなのだよ」

 夢見心地に青く瞳を輝かす少女が、応える。

「どうしてですか、お姉さま。ほら、こんなに世界は美しいというのに」

 ああ、と彼女は思う。
 今ならば、判る。
 滅びのときは、別離の時であると。
 しかしその別離は、再会のためでもあるのだと思う。
 この眼の前にいる愛おしい青い瞳の少女が、これから経験するであろう別離と再会の旅に、彼女は思いをはせる。
 その果てに、少女も知ることに成るのであろうけれど。
 今はただ、この別離の哀しさは一人自分のこころに留め置こうと思う。
 いずれにせよ、この滅びの時は始まりの時でもある。
 今はただ二人共に過ごすこの瞬間をじっと噛み締めておこうと、彼女は思う。
 彼女は、手を伸ばしそっと青い瞳の少女の手を握る。
 少女はふっと笑みをうかべると彼女を見つめ、その手を握り返した。
 少女と彼女は共に見つめ合い、共に微笑み合う。
 窓の外では空が真紅に染まり、燃え上がっているようだ。
 その荘厳な炎の瀑布の前にひっそりと咲く二輪の白百合がごとくに、二人は並んで立っている。
 彼女は赦されることなればこの時がいつまでも続けばよいのにと、思った。
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