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追放者
しおりを挟む(あたしと別れてここを出て行くなんて)
彼女は、すこし口を歪ませた。
笑っているような。
憐れんでいるような。
嘲っているような。
そんなふうに唇を撓ませる。
(砂漠の中に追放されるようなものよ)
そうだね。
そのとおりだ。
僕は生きる理由も、描く情熱もすべて君からもらっていた。
君から離れたら、僕は無だよ。
彼女はあきれたように、僕を見る。
鋭く輝くひとみが僕をつらぬく。
それぞれが、独立した大輪の花のようだ。
二つの花が部屋の中に浮かんでいる。
でも、僕はもう決めたんだ。
その部屋は南の島のように感じる。
薄暗い部屋には、彼女が描いた花の絵が無数にあった。
あるものは繊細で緻密に描かれており。
べつのものは子供が描いたように大胆で奔放で。
官能と恐怖。
理性と暴力。
喜びと絶望。
相反するあらゆるものが花の絵に込められており、見るもののこころを吸いつける。
彼女は、宣告を下すように言った。
(判った。何も言わない。好きにしなさい。ただなぜかは)
彼女は傲慢なまでに美しい顔をすこし曇らせていった。
(教えてちょうだい)
簡単なことだ。
僕にはもうなにも残っていない。
このまま君といれば、君の中に取り込まれてしまう。
彼女は肉食獣のように笑った。
(できるものなら、やればいいじゃない。あたしの一部になれるものならなってみな)
そうなればいいのかもしれないが。
それではだめなんだ。
だから出ていく。
僕は空っぽになって、抜け殻となって。
砂漠の迷宮を生き抜いてゆく。
僕は消え去りながらただの器となる。
砂漠の砂を積めるだけの器。
僕は花に満たされた部屋から出て。
アパートの階段を下ると外に出た。
薄暗いアパートの外は、青い空が高く広がっていた。
夏の日差しが容赦なく僕を貫く。
僕は。
自分の足元から影がすうっと消えていくのを、見た。
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