ただ、貴方だけを愛しているの。とても、とっても【愛に関する幾つかの断章】

ルサルカ

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血と雫

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全てが、曖昧にぼやけて見える。

薄い闇が全てを覆いつくし、溶けこましているかのようだ。

僕は、影の作り出した皮膜に包まれているように思う。

何もかもが灰色のこの空間を、こじ開けるように赤い色が僕の目に飛び込んでくる。

その赤は、足元に零れている一滴の血であった。

闇に覆われたこの空間で、その血の雫は夜の大地に灯された篝火のように存在を主張する。

血の雫は、僕を差し招くように地面に連なりを見せていた。

僕は、血の連なりに添って歩き出す。

足元にあるのは、石の床だった。

闇が満ちているので天井を見ることができないが、頭上には重厚な石の天井があるはずだ。

また、四方には岩盤のように武骨な石の壁があると思う。

闇に意識を犯されたように記憶が曖昧なのだが、ここは巨大な城塞の中であると感じた。

闇は、建物がもつ重々しい気配をもその内に溶け込ましている。

僕は、石の床に垂れた血の雫を追って、歩く。

闇の向こうに、赤いものが浮かび上がってきた。

血塗れのおんなが、闇の中に立っている。

髪の長いそのおんなの顔は、頭から流れでる血で真紅に染まっていた。

おんなは僕に頷きかけると、足元に空いた穴を差し示す。

僕は、星無き夜空の闇が詰まったその穴を覗きこむ。

漆黒の闇の果てに、白い骨が見えた。

蔦のからまる真白き骨は、目の前に立つ血塗れのおんなのものであることが、僕には判る。

僕が理解したことが判ったらしく、おんなは頷いた。

けれど、僕はこれが僕の探していたものではないことにも、気がつく。

僕はゆっくりと首を横にふり、少し悲しげな色を瞳に浮かべたおんなをのこしてさらに歩く。

時おり、僕の身体が透明に透けるようで、そうすると僕の身体を流れる赤い血が見えた。

赤く細い糸のような血の流れは、僕の胸の辺りに惑星がごとき塊を作り上げている。

その赤い塊から、呼気が沸き上がった。

細かな赤い粒子が混ざる呼気が、闇の中に吐きだされる。

僕は、蒼ざめた空気を吸い込む。

蒼い空気は闇の中を、赤い惑星に向かって沈んでいった。

僕は、闇を切り裂くように零れている血の連なりを追って歩いて行く。

いつか足元の床は、階段となり地下へと下っていた。

階段を、僕は闇に沈むように降りて行く。

赤い血に、導かれるようにして。

いつしか僕は、頑丈な石の扉の前に立っていた。

僕は、扉を開き部屋の中へと入る。

地下の奥底にあるその部屋の中は、真っ白な光に満ちていた。

あまりの目映さに、僕は目を細める。

光り輝くその部屋の中、影は駆逐され闇は死に絶えていた。

僕の立つ場所の真正面にある白い壁には、額縁に入った太陽がある。

その太陽は、影を食い尽くすかのごとく光輝いていた。

僕は、あることを理解して涙が溢れそうになる。

その太陽は、あなただった。

あなたは光り輝く、僕だけの太陽なのだ。

そして、僕は満ち溢れる真っ白な光の中で、探していたものを見出す。

額縁に入った太陽の下に、晒される屍。

それが、僕だ。

僕は、真っ白な骨を晒け出す屍となり、太陽の下に横たわり焔を上げている。

骨に纏わりつく僅かばかりの血肉は、真っ黒に炭化して血のように赤い焔を噴出していた。


あなたは、僕だけの太陽。

その輝きの元で、僕の屍は焼け焦げて黒と赤が混ざりあった焔をあげる。


そう、あなたは、僕だけの太陽なのだ。


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