闇の中での悦楽

ルサルカ

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第一話

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 風の強い日だった。私は、木枯らしの吹きすさぶキャンパスから相変わらず本の迷宮のようなその研究室へ入り、なぜかふと安らぎに似た気持ちを感じる。そして私は、デスクに向かっている高松教授に声をかけた。

「ご無沙汰しています、先生」

 教授は振り向くと懐かしそうに微笑んだ。

「よくきてくれた、藤崎君」

 私は教授のそばに立ち、その傍らに腰掛けている青年に気付く。入り口からは本の山に隠れて見えなかったようだ。端正な顔をした青年は、柔和な笑みを見せて会釈する。

「紹介しておこう、彼が研究生の水戸君だ。水戸君、彼女が話していた私のゼミの卒業生、藤崎君だ」

 私は、教授に勧められるまま腰を降ろし、水戸と紹介された青年を見る。いわゆる学者タイプの理知的な瞳を持っていたが口元に浮かぶ笑みは気さくな、人懐っこいといってもいいものだ。私はなぜか、彼に懐かしい感じを抱く。

「では私は水戸さんがされる、ロールプレイの相手になるのですね」

 教授は頷く。教授は、机の上で何か探しながら言った。

「そうだよ。ええと、藤崎君はロールプレイの実習を受けたことはあったかな?」

「いえ、臨床の実習を受けたことはありません」

「ああ、あったこれだ」

 教授はけっこう分厚いレジュメを取り出して、私に手渡す。

「普通はカウンセリングのロールプレイなんてものは、学生同士でやるものだけどね。水戸君は色々な人間とやってみたいという希望を持っていて、それ自体はとてもいいことだと思っている。それで、学外の人間にも協力してもらっているんだ。それで今回君にもご足労願ったわけだが」

 私は教授に微笑みかける。

「いいですよ、本業が今は暇ですし、アルバイト料さえもらえるなら何でもやります」

 教授は頷くと、私の手元のレジュメを指さす。

「その資料に今回のロールプレイの設定が書いてある」

「設定ですか」

「まあ、芝居の台本みたいなものさ。つまり、藤崎君、君には実際に過去にカウンセリングをうけたある女性を演じてもらうことになる。年齢は君とおなじで24歳。既婚者だ。いってみれば昔、実際に行われたカウンセリングを芝居で演じるようなものと考えてくれればいい」

 私は、少し首を傾げる。

「では、この台本の通りに台詞を私はしゃべるということですか」

「いや、そっくりそのままやる必要は無い。例えば、水戸君の応対に君自身が納得いかなければ、台詞はむしろ君自身の気持ちに従ったものに変更してもらったほうがいい。水戸君のカウセリングの能力を鍛えているわけだから、彼に疑問を持てばそういえばいいし、台本通り対応する必要は無いよ」

 はははと、水戸さんが笑う。

「怖いな、なんだか」

 私は、水戸さんに微笑みかける。

「じゃあ設定に合っている範疇で、好きにさせてもらいます」

「お手柔らかに」
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