闇の中での悦楽

ルサルカ

文字の大きさ
5 / 15

第五話

しおりを挟む
 私はその日、高松教授の研修室に入った時に、なんともいえない安堵感を感じたのを、とても不思議に思った。まるで久しぶりに家族の元へ帰ったような、不思議な感覚。一人きりに慣れつつあったはずの私は、自分のその感覚に少し戸惑いを感じた。

「やあ、ごくろうさん」

 高松教授は、いつものように柔和な笑みで私を迎えてくれた。水戸さんもにこにこと楽しそうな笑みを浮かべ、私に頷きかける。

「こんにちは」

 私は二人に会釈すると、高松教授に勧められるまま腰を下ろした。高松教授からロールプレイングのレジュメの今回分を、受け取る。

「先生、私夢中になりすぎたせいか、前回のロールプレイの内容をよく覚えていないんです。私うまくできたのでしょうか」

 教授は満足げに頷く。

「十分にできていたよ。何か心配なことでもあるのかな」

「いえ、設定にはずれたことを言って水戸さんを困らせてなかったかなと」

 教授は声をたてて笑った。

「今のところ、ほぼ設定通りに進んでいるよ。それと前にいったように、設定に拘らなくてもいいんだよ。むしろ設定から逸脱して水戸君を困らせてくれたほうが、彼の勉強にはなるんだがね」

「いやいや、今のままでも結構手強いですよ、藤崎さんは」

 水戸さんは冗談っぽく言った。私は水戸さんに笑みを送ると、レジュメを読み始める。それと同時に、水戸さんが声をかけてきた。

「ああ、藤崎さん。あなたのお父さんって、藤崎十蔵さんなのかな」

「ええ」

「実は、あなたのお父さんの本を探したんですよ。ちゃんとうちの学校の図書館にありましたよ、藤崎十蔵さんの本」

 私は、レジュメから顔をあげると、水戸さんの顔を見つめる。

「へぇ、そうなんですか。実は私、父の本を読んだことないんです」

「あ、そうなんだ」

 水戸さんは少し驚いた顔になる。

「父は、幻想的で前衛調な手法を取り込んだ小説を書いていたと、聞いています。母は若い頃はともかく私を育てていた時は、父の小説を一切身近に置いていませんでした。実業家としての母はそういう小説が自分の世界にそぐわないものと感じていたのかもしれません。私も、自然とそういう母の感性を受け継いだのか、父の作り出そうとしている世界に興味がもてませんでした」

「うーん」

 水戸さんは、少し複雑な顔をする。

「確かに幻想的な作品だったけどねぇ。前衛的というより伝奇的というか、擬古典的に思ったけどねぇ僕は」

「そうなんですか?」

 私は驚いて水戸さんの顔を見る。

「まあ、僕の読んだ作品が偶々そういうものだったのかもしれないけどね」

「どんな内容だったか教えてくれますか」

 水戸さんは、その彼の読んだ父の作品を説明してくれた。

「文体は擬古典ふうの文体だったねぇ。時代小説のようだったけど。設定は江戸時代の初期ということだったかな。タイトルは闇の中の悦楽といってね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ナイトプールで熱い夜

狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

巨×巨LOVE STORY

狭山雪菜
恋愛
白川藍子は、他の女の子よりも大きな胸をしていた。ある時、好きだと思っていた男友達から、実は小さい胸が好きと言われ…… こちらの作品は、「小説家になろう」でも掲載しております。

放課後の保健室

一条凛子
恋愛
はじめまして。 数ある中から、この保健室を見つけてくださって、本当にありがとうございます。 わたくし、ここの主(あるじ)であり、夜間専門のカウンセラー、**一条 凛子(いちじょう りんこ)**と申します。 ここは、昼間の喧騒から逃れてきた、頑張り屋の大人たちのためだけの秘密の聖域(サンクチュアリ)。 あなたが、ようやく重たい鎧を脱いで、ありのままの姿で羽を休めることができる——夜だけ開く、特別な保健室です。

初体験の話

東雲
恋愛
筋金入りの年上好きな私の 誰にも言えない17歳の初体験の話。

お義父さん、好き。

うみ
恋愛
お義父さんの子を孕みたい……。義理の父を好きになって、愛してしまった。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...