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第五話
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私はその日、高松教授の研修室に入った時に、なんともいえない安堵感を感じたのを、とても不思議に思った。まるで久しぶりに家族の元へ帰ったような、不思議な感覚。一人きりに慣れつつあったはずの私は、自分のその感覚に少し戸惑いを感じた。
「やあ、ごくろうさん」
高松教授は、いつものように柔和な笑みで私を迎えてくれた。水戸さんもにこにこと楽しそうな笑みを浮かべ、私に頷きかける。
「こんにちは」
私は二人に会釈すると、高松教授に勧められるまま腰を下ろした。高松教授からロールプレイングのレジュメの今回分を、受け取る。
「先生、私夢中になりすぎたせいか、前回のロールプレイの内容をよく覚えていないんです。私うまくできたのでしょうか」
教授は満足げに頷く。
「十分にできていたよ。何か心配なことでもあるのかな」
「いえ、設定にはずれたことを言って水戸さんを困らせてなかったかなと」
教授は声をたてて笑った。
「今のところ、ほぼ設定通りに進んでいるよ。それと前にいったように、設定に拘らなくてもいいんだよ。むしろ設定から逸脱して水戸君を困らせてくれたほうが、彼の勉強にはなるんだがね」
「いやいや、今のままでも結構手強いですよ、藤崎さんは」
水戸さんは冗談っぽく言った。私は水戸さんに笑みを送ると、レジュメを読み始める。それと同時に、水戸さんが声をかけてきた。
「ああ、藤崎さん。あなたのお父さんって、藤崎十蔵さんなのかな」
「ええ」
「実は、あなたのお父さんの本を探したんですよ。ちゃんとうちの学校の図書館にありましたよ、藤崎十蔵さんの本」
私は、レジュメから顔をあげると、水戸さんの顔を見つめる。
「へぇ、そうなんですか。実は私、父の本を読んだことないんです」
「あ、そうなんだ」
水戸さんは少し驚いた顔になる。
「父は、幻想的で前衛調な手法を取り込んだ小説を書いていたと、聞いています。母は若い頃はともかく私を育てていた時は、父の小説を一切身近に置いていませんでした。実業家としての母はそういう小説が自分の世界にそぐわないものと感じていたのかもしれません。私も、自然とそういう母の感性を受け継いだのか、父の作り出そうとしている世界に興味がもてませんでした」
「うーん」
水戸さんは、少し複雑な顔をする。
「確かに幻想的な作品だったけどねぇ。前衛的というより伝奇的というか、擬古典的に思ったけどねぇ僕は」
「そうなんですか?」
私は驚いて水戸さんの顔を見る。
「まあ、僕の読んだ作品が偶々そういうものだったのかもしれないけどね」
「どんな内容だったか教えてくれますか」
水戸さんは、その彼の読んだ父の作品を説明してくれた。
「文体は擬古典ふうの文体だったねぇ。時代小説のようだったけど。設定は江戸時代の初期ということだったかな。タイトルは闇の中の悦楽といってね」
「やあ、ごくろうさん」
高松教授は、いつものように柔和な笑みで私を迎えてくれた。水戸さんもにこにこと楽しそうな笑みを浮かべ、私に頷きかける。
「こんにちは」
私は二人に会釈すると、高松教授に勧められるまま腰を下ろした。高松教授からロールプレイングのレジュメの今回分を、受け取る。
「先生、私夢中になりすぎたせいか、前回のロールプレイの内容をよく覚えていないんです。私うまくできたのでしょうか」
教授は満足げに頷く。
「十分にできていたよ。何か心配なことでもあるのかな」
「いえ、設定にはずれたことを言って水戸さんを困らせてなかったかなと」
教授は声をたてて笑った。
「今のところ、ほぼ設定通りに進んでいるよ。それと前にいったように、設定に拘らなくてもいいんだよ。むしろ設定から逸脱して水戸君を困らせてくれたほうが、彼の勉強にはなるんだがね」
「いやいや、今のままでも結構手強いですよ、藤崎さんは」
水戸さんは冗談っぽく言った。私は水戸さんに笑みを送ると、レジュメを読み始める。それと同時に、水戸さんが声をかけてきた。
「ああ、藤崎さん。あなたのお父さんって、藤崎十蔵さんなのかな」
「ええ」
「実は、あなたのお父さんの本を探したんですよ。ちゃんとうちの学校の図書館にありましたよ、藤崎十蔵さんの本」
私は、レジュメから顔をあげると、水戸さんの顔を見つめる。
「へぇ、そうなんですか。実は私、父の本を読んだことないんです」
「あ、そうなんだ」
水戸さんは少し驚いた顔になる。
「父は、幻想的で前衛調な手法を取り込んだ小説を書いていたと、聞いています。母は若い頃はともかく私を育てていた時は、父の小説を一切身近に置いていませんでした。実業家としての母はそういう小説が自分の世界にそぐわないものと感じていたのかもしれません。私も、自然とそういう母の感性を受け継いだのか、父の作り出そうとしている世界に興味がもてませんでした」
「うーん」
水戸さんは、少し複雑な顔をする。
「確かに幻想的な作品だったけどねぇ。前衛的というより伝奇的というか、擬古典的に思ったけどねぇ僕は」
「そうなんですか?」
私は驚いて水戸さんの顔を見る。
「まあ、僕の読んだ作品が偶々そういうものだったのかもしれないけどね」
「どんな内容だったか教えてくれますか」
水戸さんは、その彼の読んだ父の作品を説明してくれた。
「文体は擬古典ふうの文体だったねぇ。時代小説のようだったけど。設定は江戸時代の初期ということだったかな。タイトルは闇の中の悦楽といってね」
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