闇の中での悦楽

ルサルカ

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第四話

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「例えば脳がシナプスの組み合わせによる電磁気的な機械という、大昔のデカルトが考えたようなおそまつな説。そんなのじゃ、記憶のメカニズムさえ説明できないのよ。シナプスの組み合わせだけでは人間が保持できる記憶の容量を満たすことができない。だいたいねぇ、想い。想いというものが、脳からでてくるものだとでも思っているのかしら。馬鹿いってるんじゃないわよ。想いっていうのはねぇ、おなかの中からも胸の中からも、手からも、足からも、あらゆるとこから湧いてくるの。脳はそれを受け止めるだけ」

 Lは、意味なく笑う。

「例えばさぁ、人間は快楽の機械なんていう人もいるじゃない。人間は脳内麻薬により快楽を与えられるような行動をプログラミングされ、条件づけられてるって。母親の子供に対する愛情さえ、脳内分泌に基づく条件反射行動の総体にすぎないとかさあ。もう馬鹿、馬鹿、馬鹿、大馬鹿ものよ。そんなやつ」

 Lは少しため息をつく。

「いい、たとえ人間の行動の全てが脳内分泌に基づく条件反射で説明できるとしてもよ、それが何だといいたいわけ。それって喩えてみれば、ゴッホの絵を調べてみてこの絵を構成しているのは土と布にすぎないといっているのと同じことよ、ねえ、K先生あなたもそう思うでしょ」

「私は、君の意見は少し極端過ぎて冷静な論証を欠きすぎていると思うが」

「何よ、あんたも馬鹿の仲間に入るつもり。あんたさぁ、赤ちゃん抱いたことあるの。凄く可愛いのよ。それがさあ、脳内分泌の条件だとかさぁ、ああ馬鹿ほんと。ああ、ちっちゃくて可愛い私の赤ちゃん、ああ」

 Lは少し沈黙する。そして唐突に言った。

「ねえ、ゴッホ。ゴッホの絵を見たことある? 凄いのよ、ゴッホは。ひまわりの絵を描いても、それはひまわりじゃないの。それはさあ、魂。孤独な魂が宇宙の果てに置き去りにされて叫んでいるの。おれはここにいるって。あれってさあ、芸術とかなんとかそんな陳腐な観念を越えちゃうの。あれは存在することの悲哀を絶叫してるのよ」

 しばらく、彼女の好きな絵画の解説が続くが、省略する。
 Lは興奮して絵の話をしていたが、突然沈黙した。そして、語り始める。

「何の話だったかしら、そうそう、魂。私の魂。私の魂どっかにいっちゃったの。ねぇ、どこにあるか知ってる?」

「それを探すのが、我々の目的だと思っている」

「そうね、そうだわ」

 Lは少し遠くを見る目になった。

「でもどこにあるのか知ってるの、私。暗いところ」

 Lの声は急に不安そうになる。

「暗い、闇の中に閉じこめられたの。暗いところ。それは、本」

「本?」

 私は思わず問い返した。

「そう、本。黒い表紙の本」

「その本というのはいったい」

「世界は、黒い闇の力を持った司祭に支配されている。その闇の力に誰も逆らえない。私は、その力に捕まった。本の中」

 Lは少し我に返ったようになる。

「本? いいえ、違う。闇の司祭。いいえ、判らない。私には、判らない」

 この時点で時間となり、私はロールプレイの終了を宣言した。
 Lはおおむね、台本通りにしゃべっていた。終了間際に言った、本のことを除いて。私は、特にその本のことを尋ねることはしなかった。ロールプレイ中に無意識にでた言葉を終了後に追求するのは、ルール違反に思えたからだ。

 セッション1 終了
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