闇の中での悦楽

ルサルカ

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第十五話

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【藤崎かおりの談話】

『私が、父である藤崎十蔵に抱かれたのは、私が十二歳のころです。初潮を迎えて間もなかった私は、父の行っている行為の意味がよく判りませんでした。それは、私と父との間にだけ存在する秘密の儀式であり、神秘の顕現です。
 父は、いつも閉ざされた部屋の中で、蝋燭だけを明かりにして私の服を脱がせました。そして、まず私の体に筆を使って字を書いてゆくのです。父は、私の体にひとつの物語を書いていきました。
 書き終えた時点で、父は私の裸体を写真にとり、そして私を抱きました。私を抱く父はまるで司祭のように荘厳な表情をしています。私は苦痛をなるべく表にださないよう、父に身をゆだねました。
 父は、年に一度その儀式を行いました。年に一章ずつ、私の体の上に展開される物語は進んでゆくのです。その物語は、魔物の恋を描いたものでした。そして、父と私の秘密の儀式は、私が結婚する直前まで続くのです。
 私が式をあげる直前に、父は私の元に現れました。父は私にいつもの儀式を当たり前のように要求し、私もあたり前のようにそれに応えました。父と私の間に存在した儀式は、日常の時間から隔離された特殊な世界でしたから、結婚式の前にそうした行為をすることに私は何の疑問も抱けませんでした。
 ただ、その日、私の体に異変が起こるのです。私は、父に筆で物語を書かれている時に、突然強い性欲を感じました。それは、まるで私自身の中からきたものではないような、まるでずっと封じていたものが突然噴出したような、強い欲望でした。
 私は目眩を感じるほど強烈な性的飢えに耐えながら、父が物語を書き終えるのを待っていました。私の女の部分は私の身体に物語が書き込まれるのに呼応するかのように、熱く脈打ち溢れる体液に濡れていました。私は、父が写真を撮り終えると待ちきれず、父を抱きました。
 その時私の記憶は酷く断片的になっています。とにかく嵐ように凄まじい性欲に襲われ、父と性行為を行いました。私はなぜかその時、男としての父がとても愛おしく感じられたのです。父のその部分は私の欲望に強く反応したのかのように固く屹立し、脈動していました。私は深い愛とともに、自身のそこに父のものを埋め込んだのです。
 私と父はその激しい行為の果てで、幾度もの絶頂に達しました。私と父はその幾度も幾度も、あるいは永遠に続くかのように思える絶頂の果てで何か得体のしれぬ何かと出会ったような気がしたのです。わかりませんが、ただの妄想かもしれませんが、まるで異界への扉のようなものが開き私と父の魂がその向こう側へと旅立っていったのだと、思えました。
 けれども、それが終わった後、とてつもない自己嫌悪が私を襲いました。
 それまで、神秘の儀式であった父との行為が堕落したような気がしたのです。私は、あの時の自分の性欲が理解できませんでしたが、とてつもなく汚されたような気がしました。ある意味、私は抜け殻となりこの世界に置き去りにされたようにも思えたのです。私の中の神秘なもの清浄なものは異界の扉を開き彼方へと去り、醜く汚れた肉体だけがこの地上に残ったのだと思いました。そして、それから一週間後私は結婚するのですが、結婚する時に私は既に父の子である詩織を受胎しているのを感じていました。
 私は、その後父が行方不明となり、私の元へもうこなくなったので、父との行為を忘れることにしました。それは、私を苦しめるだけのものになっていましたので。
 でも、あの日、そうあの停電のあった日にあの本がきたのです。
 多分、父が私に送ったのだと思います。
 あの黒い表紙の本を。
 その本には、私の裸体の写真が印刷されていました。
 そして私の裸体には、魔物が恋した娘を思い続け、最後に娘も魔物に変えて思いを遂げる物語が書かれていました。その本を閉じた時、私の中で何かが壊れたのです。それでも。
 それでも、あの停電がなければ。
 これは言い訳でしょうか。
 でも、あの停電がきっかけとなったのは間違いありません。突然墜ちてきた闇の中で、私は狂いました。行き場の無い憎しみ、汚されたことに対する私の憎しみは、父の子である詩織になぜか向けられてしまったのです。
 黒い本はまだあります。
 私の部屋に。
 私の魂はあの中に閉じこめられています。
 多分、今でも』

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