1 / 1
手の届かないあなたへ
しおりを挟む
「久しぶり」
その一言で、時間が止まった気がした。
振り返らなくても分かる声。
忘れたことなんて、一度もなかった。
でも、振り返るのが怖かった。
だってそこにいるのは、
もう“私の知ってるあなた”じゃないから。
—
「…元気?」
ゆっくり振り返ると、
帽子とマスクで顔を隠したあなたが立っていた。
それでも分かる。
テレビの中で見るよりも、
ずっと近くて、ずっと遠い存在。
「うん、まあ」
うまく笑えない。
だってあなたは今、
誰もが知ってるアイドルだから。
—
「こんなとこで会うとか、運命じゃない?」
昔みたいに軽く笑う。
変わってない声に、少しだけ安心する。
「…そういうこと言うの、変わってないね」
そう返すと、あなたは少しだけ目を細めた。
—
あの頃は、隣で笑ってたのに。
放課後も、帰り道も、
全部一緒だったのに。
—
「なあ」
あなたが少しだけ真面目な声で言う。
「俺のこと、まだ応援してる?」
ドキッとする。
「してるよ」
即答だった。
テレビに映るたびに見てるし、
新曲だってちゃんと聴いてる。
でもそれは、
“ファンとして”じゃなくて。
—
「そっか」
あなたは少しだけ笑う。
「ありがと」
その言葉が、やけに遠く感じた。
—
「ねえ」
気づいたら、口が動いていた。
「なんで別れたか、覚えてる?」
あなたの動きが止まる。
「…覚えてるよ」
少しだけ、苦い顔をする。
—
『今は夢を優先したい』
そう言ったのはあなただった。
—
「後悔してる?」
聞いちゃいけないって分かってたのに。
でも、止められなかった。
—
少しの沈黙。
それからあなたは、静かに言った。
「…してるよ」
その一言で、胸が痛くなる。
—
「でもさ」
あなたは続ける。
「今の俺があるのは、あの時選んだからで」
「だから、戻りたいとは言えない」
—
分かってる。
そんなの、最初から分かってる。
—
「うん」
それしか言えなかった。
—
遠くで人の声がする。
「やば、行かないと」
あなたは周りを気にしながら言う。
—
「じゃあな」
その言葉が、やけにあっさりしていて。
—
ああ、本当に終わったんだって思った。
—
「…ねえ」
最後に呼び止める。
あなたが振り返る。
—
「ちゃんと届いてるよ」
少しだけ笑う。
—
「あなたの夢も」
「あなたの歌も」
—
「全部」
—
一瞬、あなたの表情が揺れた気がした。
—
「…そっか」
小さくそう言って、
今度こそ、あなたは人混みの中に消えていった。
—
もう、追いかけない。
追いかけられない。
—
だってあなたはもう、
手の届かない人だから。
—
その一言で、時間が止まった気がした。
振り返らなくても分かる声。
忘れたことなんて、一度もなかった。
でも、振り返るのが怖かった。
だってそこにいるのは、
もう“私の知ってるあなた”じゃないから。
—
「…元気?」
ゆっくり振り返ると、
帽子とマスクで顔を隠したあなたが立っていた。
それでも分かる。
テレビの中で見るよりも、
ずっと近くて、ずっと遠い存在。
「うん、まあ」
うまく笑えない。
だってあなたは今、
誰もが知ってるアイドルだから。
—
「こんなとこで会うとか、運命じゃない?」
昔みたいに軽く笑う。
変わってない声に、少しだけ安心する。
「…そういうこと言うの、変わってないね」
そう返すと、あなたは少しだけ目を細めた。
—
あの頃は、隣で笑ってたのに。
放課後も、帰り道も、
全部一緒だったのに。
—
「なあ」
あなたが少しだけ真面目な声で言う。
「俺のこと、まだ応援してる?」
ドキッとする。
「してるよ」
即答だった。
テレビに映るたびに見てるし、
新曲だってちゃんと聴いてる。
でもそれは、
“ファンとして”じゃなくて。
—
「そっか」
あなたは少しだけ笑う。
「ありがと」
その言葉が、やけに遠く感じた。
—
「ねえ」
気づいたら、口が動いていた。
「なんで別れたか、覚えてる?」
あなたの動きが止まる。
「…覚えてるよ」
少しだけ、苦い顔をする。
—
『今は夢を優先したい』
そう言ったのはあなただった。
—
「後悔してる?」
聞いちゃいけないって分かってたのに。
でも、止められなかった。
—
少しの沈黙。
それからあなたは、静かに言った。
「…してるよ」
その一言で、胸が痛くなる。
—
「でもさ」
あなたは続ける。
「今の俺があるのは、あの時選んだからで」
「だから、戻りたいとは言えない」
—
分かってる。
そんなの、最初から分かってる。
—
「うん」
それしか言えなかった。
—
遠くで人の声がする。
「やば、行かないと」
あなたは周りを気にしながら言う。
—
「じゃあな」
その言葉が、やけにあっさりしていて。
—
ああ、本当に終わったんだって思った。
—
「…ねえ」
最後に呼び止める。
あなたが振り返る。
—
「ちゃんと届いてるよ」
少しだけ笑う。
—
「あなたの夢も」
「あなたの歌も」
—
「全部」
—
一瞬、あなたの表情が揺れた気がした。
—
「…そっか」
小さくそう言って、
今度こそ、あなたは人混みの中に消えていった。
—
もう、追いかけない。
追いかけられない。
—
だってあなたはもう、
手の届かない人だから。
—
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
本音と建前のお話
下菊みこと
恋愛
感じることはあれどもあえてなにも言わなかったお話。
そしてその後のタチの悪い仕返しのお話。
天使様がチートなご都合主義のSS。
婚約破棄しない、けれどざまぁは過剰に、そしてただただ同じことをしただけのお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる