お姫様志望の勇者の冒険譚〜王と魔王を倒したら男の娘のボクをお姫様にしてくれると約束したので冒険にでた〜

しゃる

文字の大きさ
6 / 23

第5話 可愛い服を着たい

しおりを挟む
「着たい⋯⋯けどっ、流石に僕が着るのは⋯⋯」


 葛藤するボクの脳裏には、「お前男だろ?」、「気持ち悪い」「他所に出た時に恥ずかしいわよ」等という過去に投げかけれた言葉ばかりが浮かんで、脳を支配した。


 夢の中では、この世界では、自由に生きてやるって決めたのに。



「お客様? その、お気に召しませんでしたか⋯⋯? 直ぐに別のお召し物を用意致しますよ?」



 店員さんが僕の異変に気付いて語りかける。


 断るなら今しかないと、「やっぱりボクには⋯⋯」と切り出そうとした時、ルアさんに思い切り背中を叩かれた。


 痛々しい音が店中に響き渡る。


「ノエルさん、着たいなら着るでウジウジしてちゃダメですよ! 可愛いんだからきっと似合います!」


「え、その⋯⋯何で叩いて⋯⋯?」


「なんかウジウジしてたので焦れったくて。でも私達対等だから許させますよね?」


 え、なにその私達友達だよね? みたいなノリ。

 対等を履き違えているのかさっきとキャラ変わってますけど⋯⋯ていうかさっきまでルアさんの方がウジウジしてたじゃないですか。


 言いたい事はいっぺんに色々出てきたけど、お陰でさっきまでの脳裏に響く声は全て掻き消えた。


 ま、大人しく感謝しておきましょうか。



「ルアさんありがとうございます。すみません、それ試着してもいいですか?」


「ええどうぞ! 奥の部屋を使って下さい。きっとお客様ならお似合いになるはずよ!」



 店員さんから白いゴスロリ服を手渡されて試着室へと入る。



「一度着てみたかったんだ⋯⋯! えい!」



 思い切って念願の可愛いゴスロリ服に袖を通す。



「とうとう着てしまいましたぁ⋯⋯!」



 ボクは震える足取りで置いてあった全身鏡を見る。


 恐る恐る覗いた鏡は、ボクの期待をあっさりと裏切ってきた。もちろんいい意味で。



「可愛い⋯⋯え、お似合いじゃないですか? 似合ってますよね?」



 鏡に映った自分は可愛いかった。試着室にはボクしかいないのに謎に誰かに同意を求めてしまうくらい可愛い。


「困りましたね、この格好で街を歩くと可愛すぎて周囲の視線を集めてしまいそうです。普段使いできるかどうか⋯⋯」


 自分の可愛さに頭を抱えながらボクは試着室から出てルアさん達の元へ向かう。



「あっ、ノエルさん。実は私も着替えてみました!」


「わぁ⋯⋯似合ってますね! 僕の次に可愛いです」


「そこは対等じゃなくて下なんですね」



 ルアさんの元へ行くと、僕だけじゃなくてルアさんも黒いワンピースに着替えていた。


 ボク程とは行かない迄も凄く可愛いらしい。


「ノエルさんもとっても似合ってますよ。可愛いです」


「ふふふ、知っていますよ」


「結構自画自賛するタイプなんですね⋯⋯。キツイです」


 思った事を言っただけなのに何故かルアさんから冷めた目で見られた。

 さっきからキャラが違う気がする。

 まあいい、早く購入して店を出よう。



「これ買います。着て行っていいですよね?」


「もちろんです。良くお似合いですよ!」


「えっと⋯⋯お幾らですか?」



 ⚫


 ボクはルアさんの分の支払いも済ませて、店員さんに別れを告げて店を出た。



「ノエルお姉さんありがとうございます! あ、お兄さんの方がいいですか?」


「お兄さんはやめてください。まあ、どういたしまして」



 平静を装いながらも、ボクは内心かなり取り乱していた。


 予想外だった⋯⋯。

 高級店とは聞いていたけど、まさか王から貰ったお金が半分に減るとは⋯⋯。


 ボクの手に持っているお金の入った袋の中身は見事半分は空気が占めている状態だ。


 チラリと横を見るとルアさんは嬉々とした表情をしているし、あまり顔に出すとまた遠慮されてしまうかもしれない。


 仕方なしにボクは今すぐにでも吐きたい嘆息をぐっと飲み込んだ。



「ありがとうございます。帽子も服も⋯⋯お金沢山使っちゃったんじゃないですか?」


「ま、まあ⋯⋯子供がそんな事気にしないで下さい?」



 今年で十七歳になったボクが大人面するのもどうかと思うけれど、ルアさん見た目中学生くらいだし、まあいいか。



「じゃあ何か食べに行きましょうか?」


「すみません⋯⋯また奢ってください!」


「まあその気でしたけど。結構ダイレクトにお願いするんですね」



 またルアさんの案内で街を歩き出す。

 新しい洋服に身を包んでいるせいか景色が違って見える。

 高揚しているのか少し歩くのが早くなってしまう。

 そして次第に、人目をはばからずにスキップをしてしまった。



「あの、私の事置いてかないでくださいー!」


「はっ⋯⋯!」



 気が付けば、ルアさんがかなり後ろにいた。

 テンション上がりすぎてルアさんの存在完全に忘れてた⋯⋯。


 ボクはルアさんに、「すみません」と謝り歩幅を合わせる。


「あはは⋯⋯ノエルお姉さん、新しいお洋服でテンション上がっちゃったんですね」


「こんなに可愛い服きたの初めてなので⋯⋯」


「ん、私もです。これ大切に着ますね?」



 素直にプレゼントを喜んで貰う事も初めてで、なんか気恥しい⋯⋯。

 なんて反応していいか分からないから「はい」とだけ頷いておいた。


 その後ボクはルアさんの案内で飲食店に着いた。

 店内は木造でアンティークな雰囲気を放っているが、ルアさんが言うにはそこそこ人気店なのだそう。



「えっとメニュー、なんですかこの文字⋯⋯」



 適当に席に腰をかけ置いてあったメニュー表を開くと、見慣れない文字でびっしりだった。


 ただ不思議な事に暫くメニュー表を見つめていると文字の意味を解読することが出来た。



「えっと⋯⋯これは、サンドイッチでしょうか。お腹も空いてないしボクはそれでいいかな⋯⋯」


「あ、あのーノエルさん」


「ん? どうかしましたか?」


「その⋯⋯私人間の文字が読めなくて⋯⋯」



 ルアさんが周りに獣人だと悟られぬよう耳元に小さな声で語りかけてくる。


 それとほぼ同タイミングで、少し離れた席から「これ美味しい! お母様!」、という幼女の声が聞こえてきた。



「そんなに美味しいの? マリンちゃん、良かったわね」


「今度はお父様も連れて来ようよ!」



 仲睦まじい母と娘の皿には、チキンライスに旗を立てた以下にもな、お子様ランチが乗ってあった。


 そしてそれをルアさんがじーっと桃色の瞳を輝かせて物欲しげに見つめている。



「あれ、食べたいんですか?」


「ええっ!? なんで分かったんですか!?」


「いやあれだけ見たら誰でも分かりますよ。

 えーと名前は⋯⋯あ、普通にお子様ランチなんですね。ボクとの世界の共通点見っけです」


「ば、バレてましたか⋯⋯⋯⋯」


「バレバレでした。じゃ、ルアさんはお子様ランチで良いですか?」


「食べて⋯⋯良いんですか?」



 食べていいも何も、ダメという理由がそもそも見当たらない。

 あれだけ見つめていたのに「あ、駄目っすよ」と言うほどボクは鬼じゃない。


 まあ中学生程度の見た目の子が食べるのは珍しいと思うけど。



「すみません。注文いいですか?」、ボクは手を挙げて店員を呼ぶ。


「はい、お伺い致します」


「えっと⋯⋯シェフの拘ったり拘らなかったりサンドと、あとお子様ランチ下さい」


「かしこまりました。少々お待ちください」


「どうも」


 注文を終えてルアさんの方を見ると、「いいんでふか!?」と噛みながら驚いていた。


 程なしくして、店員がボクたちの料理を運んできた。軽く黙礼をして、料理を受け取る。

 

「わぁ! 食べてもいいですか? いいですよね?」


「いいですけど⋯⋯喉つまらせないでくださいね?」


「了解です! いただきます!」


 ルアさんはスプーンを握り締め、勢いよくチキンライスを貪っていく。

 あっという間に突き刺さっていた旗が崩れ落ちた。


 そしてその、結果むせました。



「ゴホッゴホッ⋯⋯!」


「全く⋯⋯だから喉を詰まらせないように言ったじゃないですか。二度目はないですよ?」


「す、すみません⋯⋯。でも美味しいです⋯⋯」


 言わんこっちゃない、とでも言うように僕はルアさんの背中を叩き、水を飲ませてあげる。


 まあ一悶着あったが、何とか食事を終えて店を出た。


 ちなみにボクの食べたシェフの拘ったり拘らなかったりサンドの味ですが⋯⋯忘れました。

 まあ、忘れる程度の当たり障りのない無難な味だったって事じゃないですか?



「ノエルお姉さん。ご馳走様でした! いや~久しぶりにまともな食事を取りましたよ~」


「いえいえ、ていうか上機嫌ですね⋯⋯。この短時間でどんどんキャラが変わっていくような」


「それだけ心を開いてきたって事です!」


「あ、そうなんですか」



 空返事をしつつも、僕は手元のお金の入った袋に目をやる。

 初めはパンパンだった物の、服と食費で一気に半分以下まで減ってしまった。


 流石に半分以下の状態で旅に出るのは心もとない。


 軍資金を増やさないと⋯⋯。



「ルアさん。ちょっと金欠なので⋯⋯お金を補充しようと思うんですけど着いてきてくれますか?」


「え? いいですけど補助って⋯⋯」


 了承を得たので一つだけお金を頂けそうな場所に思い当たりがあり、ルアさんを連れて移動する。


 いやぁ⋯⋯何をするにも想像以上にお金かかっちゃうものですよねぇ。分かります? 分かりますよね?



「という事で王様、貰ったお金使い果たしてしまったので⋯⋯お金下さい」


「いや勇者ノエル⋯⋯まだ半日も経ってないんだけど⋯⋯」


「てへ」


「てへじゃないし。いや可愛いけど。で? いくら欲しい?」


「王様大好きです。えへへ、あるだけ下さい」



 王室へと赴いたボクは、初めての王室にボクの後ろで震えるルアさんを他所に、可愛い子にしか許されない様なぶりっ子の仕方で旅に必要なお金を再びせしめた。


 この世界ちょろい。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

R・P・G ~女神に不死の身体にされたけど、使命が最低最悪なので全力で拒否して俺が天下統一します~

イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の現地調査のために訪れた山の中で異世界の大地の女神と接触する。 半ば強制的に異世界へと転生させられた凛人。しかしその世界は、欲と争いにまみれた戦乱の世だった。 凛人はその惑星の化身となり、星の防人として、人間から不死の絶対的な存在へとクラスチェンジを果たす。 だが、不死となった代償として女神から与えられた使命はとんでもないものであった…… 同じく地球から勇者として転生した異国の者たちも巻き込み、女神の使命を「絶対拒否」し続ける凛人の人生は、果たして!? 一見頼りない、ただのおっさんだった男が織りなす最強一味の異世界治世ドラマ、ここに開幕!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...