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第5話 可愛い服を着たい
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「着たい⋯⋯けどっ、流石に僕が着るのは⋯⋯」
葛藤するボクの脳裏には、「お前男だろ?」、「気持ち悪い」「他所に出た時に恥ずかしいわよ」等という過去に投げかけれた言葉ばかりが浮かんで、脳を支配した。
夢の中では、この世界では、自由に生きてやるって決めたのに。
「お客様? その、お気に召しませんでしたか⋯⋯? 直ぐに別のお召し物を用意致しますよ?」
店員さんが僕の異変に気付いて語りかける。
断るなら今しかないと、「やっぱりボクには⋯⋯」と切り出そうとした時、ルアさんに思い切り背中を叩かれた。
痛々しい音が店中に響き渡る。
「ノエルさん、着たいなら着るでウジウジしてちゃダメですよ! 可愛いんだからきっと似合います!」
「え、その⋯⋯何で叩いて⋯⋯?」
「なんかウジウジしてたので焦れったくて。でも私達対等だから許させますよね?」
え、なにその私達友達だよね? みたいなノリ。
対等を履き違えているのかさっきとキャラ変わってますけど⋯⋯ていうかさっきまでルアさんの方がウジウジしてたじゃないですか。
言いたい事はいっぺんに色々出てきたけど、お陰でさっきまでの脳裏に響く声は全て掻き消えた。
ま、大人しく感謝しておきましょうか。
「ルアさんありがとうございます。すみません、それ試着してもいいですか?」
「ええどうぞ! 奥の部屋を使って下さい。きっとお客様ならお似合いになるはずよ!」
店員さんから白いゴスロリ服を手渡されて試着室へと入る。
「一度着てみたかったんだ⋯⋯! えい!」
思い切って念願の可愛いゴスロリ服に袖を通す。
「とうとう着てしまいましたぁ⋯⋯!」
ボクは震える足取りで置いてあった全身鏡を見る。
恐る恐る覗いた鏡は、ボクの期待をあっさりと裏切ってきた。もちろんいい意味で。
「可愛い⋯⋯え、お似合いじゃないですか? 似合ってますよね?」
鏡に映った自分は可愛いかった。試着室にはボクしかいないのに謎に誰かに同意を求めてしまうくらい可愛い。
「困りましたね、この格好で街を歩くと可愛すぎて周囲の視線を集めてしまいそうです。普段使いできるかどうか⋯⋯」
自分の可愛さに頭を抱えながらボクは試着室から出てルアさん達の元へ向かう。
「あっ、ノエルさん。実は私も着替えてみました!」
「わぁ⋯⋯似合ってますね! 僕の次に可愛いです」
「そこは対等じゃなくて下なんですね」
ルアさんの元へ行くと、僕だけじゃなくてルアさんも黒いワンピースに着替えていた。
ボク程とは行かない迄も凄く可愛いらしい。
「ノエルさんもとっても似合ってますよ。可愛いです」
「ふふふ、知っていますよ」
「結構自画自賛するタイプなんですね⋯⋯。キツイです」
思った事を言っただけなのに何故かルアさんから冷めた目で見られた。
さっきからキャラが違う気がする。
まあいい、早く購入して店を出よう。
「これ買います。着て行っていいですよね?」
「もちろんです。良くお似合いですよ!」
「えっと⋯⋯お幾らですか?」
⚫
ボクはルアさんの分の支払いも済ませて、店員さんに別れを告げて店を出た。
「ノエルお姉さんありがとうございます! あ、お兄さんの方がいいですか?」
「お兄さんはやめてください。まあ、どういたしまして」
平静を装いながらも、ボクは内心かなり取り乱していた。
予想外だった⋯⋯。
高級店とは聞いていたけど、まさか王から貰ったお金が半分に減るとは⋯⋯。
ボクの手に持っているお金の入った袋の中身は見事半分は空気が占めている状態だ。
チラリと横を見るとルアさんは嬉々とした表情をしているし、あまり顔に出すとまた遠慮されてしまうかもしれない。
仕方なしにボクは今すぐにでも吐きたい嘆息をぐっと飲み込んだ。
「ありがとうございます。帽子も服も⋯⋯お金沢山使っちゃったんじゃないですか?」
「ま、まあ⋯⋯子供がそんな事気にしないで下さい?」
今年で十七歳になったボクが大人面するのもどうかと思うけれど、ルアさん見た目中学生くらいだし、まあいいか。
「じゃあ何か食べに行きましょうか?」
「すみません⋯⋯また奢ってください!」
「まあその気でしたけど。結構ダイレクトにお願いするんですね」
またルアさんの案内で街を歩き出す。
新しい洋服に身を包んでいるせいか景色が違って見える。
高揚しているのか少し歩くのが早くなってしまう。
そして次第に、人目をはばからずにスキップをしてしまった。
「あの、私の事置いてかないでくださいー!」
「はっ⋯⋯!」
気が付けば、ルアさんがかなり後ろにいた。
テンション上がりすぎてルアさんの存在完全に忘れてた⋯⋯。
ボクはルアさんに、「すみません」と謝り歩幅を合わせる。
「あはは⋯⋯ノエルお姉さん、新しいお洋服でテンション上がっちゃったんですね」
「こんなに可愛い服きたの初めてなので⋯⋯」
「ん、私もです。これ大切に着ますね?」
素直にプレゼントを喜んで貰う事も初めてで、なんか気恥しい⋯⋯。
なんて反応していいか分からないから「はい」とだけ頷いておいた。
その後ボクはルアさんの案内で飲食店に着いた。
店内は木造でアンティークな雰囲気を放っているが、ルアさんが言うにはそこそこ人気店なのだそう。
「えっとメニュー、なんですかこの文字⋯⋯」
適当に席に腰をかけ置いてあったメニュー表を開くと、見慣れない文字でびっしりだった。
ただ不思議な事に暫くメニュー表を見つめていると文字の意味を解読することが出来た。
「えっと⋯⋯これは、サンドイッチでしょうか。お腹も空いてないしボクはそれでいいかな⋯⋯」
「あ、あのーノエルさん」
「ん? どうかしましたか?」
「その⋯⋯私人間の文字が読めなくて⋯⋯」
ルアさんが周りに獣人だと悟られぬよう耳元に小さな声で語りかけてくる。
それとほぼ同タイミングで、少し離れた席から「これ美味しい! お母様!」、という幼女の声が聞こえてきた。
「そんなに美味しいの? マリンちゃん、良かったわね」
「今度はお父様も連れて来ようよ!」
仲睦まじい母と娘の皿には、チキンライスに旗を立てた以下にもな、お子様ランチが乗ってあった。
そしてそれをルアさんがじーっと桃色の瞳を輝かせて物欲しげに見つめている。
「あれ、食べたいんですか?」
「ええっ!? なんで分かったんですか!?」
「いやあれだけ見たら誰でも分かりますよ。
えーと名前は⋯⋯あ、普通にお子様ランチなんですね。ボクとの世界の共通点見っけです」
「ば、バレてましたか⋯⋯⋯⋯」
「バレバレでした。じゃ、ルアさんはお子様ランチで良いですか?」
「食べて⋯⋯良いんですか?」
食べていいも何も、ダメという理由がそもそも見当たらない。
あれだけ見つめていたのに「あ、駄目っすよ」と言うほどボクは鬼じゃない。
まあ中学生程度の見た目の子が食べるのは珍しいと思うけど。
「すみません。注文いいですか?」、ボクは手を挙げて店員を呼ぶ。
「はい、お伺い致します」
「えっと⋯⋯シェフの拘ったり拘らなかったりサンドと、あとお子様ランチ下さい」
「かしこまりました。少々お待ちください」
「どうも」
注文を終えてルアさんの方を見ると、「いいんでふか!?」と噛みながら驚いていた。
程なしくして、店員がボクたちの料理を運んできた。軽く黙礼をして、料理を受け取る。
「わぁ! 食べてもいいですか? いいですよね?」
「いいですけど⋯⋯喉つまらせないでくださいね?」
「了解です! いただきます!」
ルアさんはスプーンを握り締め、勢いよくチキンライスを貪っていく。
あっという間に突き刺さっていた旗が崩れ落ちた。
そしてその、結果むせました。
「ゴホッゴホッ⋯⋯!」
「全く⋯⋯だから喉を詰まらせないように言ったじゃないですか。二度目はないですよ?」
「す、すみません⋯⋯。でも美味しいです⋯⋯」
言わんこっちゃない、とでも言うように僕はルアさんの背中を叩き、水を飲ませてあげる。
まあ一悶着あったが、何とか食事を終えて店を出た。
ちなみにボクの食べたシェフの拘ったり拘らなかったりサンドの味ですが⋯⋯忘れました。
まあ、忘れる程度の当たり障りのない無難な味だったって事じゃないですか?
「ノエルお姉さん。ご馳走様でした! いや~久しぶりにまともな食事を取りましたよ~」
「いえいえ、ていうか上機嫌ですね⋯⋯。この短時間でどんどんキャラが変わっていくような」
「それだけ心を開いてきたって事です!」
「あ、そうなんですか」
空返事をしつつも、僕は手元のお金の入った袋に目をやる。
初めはパンパンだった物の、服と食費で一気に半分以下まで減ってしまった。
流石に半分以下の状態で旅に出るのは心もとない。
軍資金を増やさないと⋯⋯。
「ルアさん。ちょっと金欠なので⋯⋯お金を補充しようと思うんですけど着いてきてくれますか?」
「え? いいですけど補助って⋯⋯」
了承を得たので一つだけお金を頂けそうな場所に思い当たりがあり、ルアさんを連れて移動する。
いやぁ⋯⋯何をするにも想像以上にお金かかっちゃうものですよねぇ。分かります? 分かりますよね?
「という事で王様、貰ったお金使い果たしてしまったので⋯⋯お金下さい」
「いや勇者ノエル⋯⋯まだ半日も経ってないんだけど⋯⋯」
「てへ」
「てへじゃないし。いや可愛いけど。で? いくら欲しい?」
「王様大好きです。えへへ、あるだけ下さい」
王室へと赴いたボクは、初めての王室にボクの後ろで震えるルアさんを他所に、可愛い子にしか許されない様なぶりっ子の仕方で旅に必要なお金を再びせしめた。
この世界ちょろい。
葛藤するボクの脳裏には、「お前男だろ?」、「気持ち悪い」「他所に出た時に恥ずかしいわよ」等という過去に投げかけれた言葉ばかりが浮かんで、脳を支配した。
夢の中では、この世界では、自由に生きてやるって決めたのに。
「お客様? その、お気に召しませんでしたか⋯⋯? 直ぐに別のお召し物を用意致しますよ?」
店員さんが僕の異変に気付いて語りかける。
断るなら今しかないと、「やっぱりボクには⋯⋯」と切り出そうとした時、ルアさんに思い切り背中を叩かれた。
痛々しい音が店中に響き渡る。
「ノエルさん、着たいなら着るでウジウジしてちゃダメですよ! 可愛いんだからきっと似合います!」
「え、その⋯⋯何で叩いて⋯⋯?」
「なんかウジウジしてたので焦れったくて。でも私達対等だから許させますよね?」
え、なにその私達友達だよね? みたいなノリ。
対等を履き違えているのかさっきとキャラ変わってますけど⋯⋯ていうかさっきまでルアさんの方がウジウジしてたじゃないですか。
言いたい事はいっぺんに色々出てきたけど、お陰でさっきまでの脳裏に響く声は全て掻き消えた。
ま、大人しく感謝しておきましょうか。
「ルアさんありがとうございます。すみません、それ試着してもいいですか?」
「ええどうぞ! 奥の部屋を使って下さい。きっとお客様ならお似合いになるはずよ!」
店員さんから白いゴスロリ服を手渡されて試着室へと入る。
「一度着てみたかったんだ⋯⋯! えい!」
思い切って念願の可愛いゴスロリ服に袖を通す。
「とうとう着てしまいましたぁ⋯⋯!」
ボクは震える足取りで置いてあった全身鏡を見る。
恐る恐る覗いた鏡は、ボクの期待をあっさりと裏切ってきた。もちろんいい意味で。
「可愛い⋯⋯え、お似合いじゃないですか? 似合ってますよね?」
鏡に映った自分は可愛いかった。試着室にはボクしかいないのに謎に誰かに同意を求めてしまうくらい可愛い。
「困りましたね、この格好で街を歩くと可愛すぎて周囲の視線を集めてしまいそうです。普段使いできるかどうか⋯⋯」
自分の可愛さに頭を抱えながらボクは試着室から出てルアさん達の元へ向かう。
「あっ、ノエルさん。実は私も着替えてみました!」
「わぁ⋯⋯似合ってますね! 僕の次に可愛いです」
「そこは対等じゃなくて下なんですね」
ルアさんの元へ行くと、僕だけじゃなくてルアさんも黒いワンピースに着替えていた。
ボク程とは行かない迄も凄く可愛いらしい。
「ノエルさんもとっても似合ってますよ。可愛いです」
「ふふふ、知っていますよ」
「結構自画自賛するタイプなんですね⋯⋯。キツイです」
思った事を言っただけなのに何故かルアさんから冷めた目で見られた。
さっきからキャラが違う気がする。
まあいい、早く購入して店を出よう。
「これ買います。着て行っていいですよね?」
「もちろんです。良くお似合いですよ!」
「えっと⋯⋯お幾らですか?」
⚫
ボクはルアさんの分の支払いも済ませて、店員さんに別れを告げて店を出た。
「ノエルお姉さんありがとうございます! あ、お兄さんの方がいいですか?」
「お兄さんはやめてください。まあ、どういたしまして」
平静を装いながらも、ボクは内心かなり取り乱していた。
予想外だった⋯⋯。
高級店とは聞いていたけど、まさか王から貰ったお金が半分に減るとは⋯⋯。
ボクの手に持っているお金の入った袋の中身は見事半分は空気が占めている状態だ。
チラリと横を見るとルアさんは嬉々とした表情をしているし、あまり顔に出すとまた遠慮されてしまうかもしれない。
仕方なしにボクは今すぐにでも吐きたい嘆息をぐっと飲み込んだ。
「ありがとうございます。帽子も服も⋯⋯お金沢山使っちゃったんじゃないですか?」
「ま、まあ⋯⋯子供がそんな事気にしないで下さい?」
今年で十七歳になったボクが大人面するのもどうかと思うけれど、ルアさん見た目中学生くらいだし、まあいいか。
「じゃあ何か食べに行きましょうか?」
「すみません⋯⋯また奢ってください!」
「まあその気でしたけど。結構ダイレクトにお願いするんですね」
またルアさんの案内で街を歩き出す。
新しい洋服に身を包んでいるせいか景色が違って見える。
高揚しているのか少し歩くのが早くなってしまう。
そして次第に、人目をはばからずにスキップをしてしまった。
「あの、私の事置いてかないでくださいー!」
「はっ⋯⋯!」
気が付けば、ルアさんがかなり後ろにいた。
テンション上がりすぎてルアさんの存在完全に忘れてた⋯⋯。
ボクはルアさんに、「すみません」と謝り歩幅を合わせる。
「あはは⋯⋯ノエルお姉さん、新しいお洋服でテンション上がっちゃったんですね」
「こんなに可愛い服きたの初めてなので⋯⋯」
「ん、私もです。これ大切に着ますね?」
素直にプレゼントを喜んで貰う事も初めてで、なんか気恥しい⋯⋯。
なんて反応していいか分からないから「はい」とだけ頷いておいた。
その後ボクはルアさんの案内で飲食店に着いた。
店内は木造でアンティークな雰囲気を放っているが、ルアさんが言うにはそこそこ人気店なのだそう。
「えっとメニュー、なんですかこの文字⋯⋯」
適当に席に腰をかけ置いてあったメニュー表を開くと、見慣れない文字でびっしりだった。
ただ不思議な事に暫くメニュー表を見つめていると文字の意味を解読することが出来た。
「えっと⋯⋯これは、サンドイッチでしょうか。お腹も空いてないしボクはそれでいいかな⋯⋯」
「あ、あのーノエルさん」
「ん? どうかしましたか?」
「その⋯⋯私人間の文字が読めなくて⋯⋯」
ルアさんが周りに獣人だと悟られぬよう耳元に小さな声で語りかけてくる。
それとほぼ同タイミングで、少し離れた席から「これ美味しい! お母様!」、という幼女の声が聞こえてきた。
「そんなに美味しいの? マリンちゃん、良かったわね」
「今度はお父様も連れて来ようよ!」
仲睦まじい母と娘の皿には、チキンライスに旗を立てた以下にもな、お子様ランチが乗ってあった。
そしてそれをルアさんがじーっと桃色の瞳を輝かせて物欲しげに見つめている。
「あれ、食べたいんですか?」
「ええっ!? なんで分かったんですか!?」
「いやあれだけ見たら誰でも分かりますよ。
えーと名前は⋯⋯あ、普通にお子様ランチなんですね。ボクとの世界の共通点見っけです」
「ば、バレてましたか⋯⋯⋯⋯」
「バレバレでした。じゃ、ルアさんはお子様ランチで良いですか?」
「食べて⋯⋯良いんですか?」
食べていいも何も、ダメという理由がそもそも見当たらない。
あれだけ見つめていたのに「あ、駄目っすよ」と言うほどボクは鬼じゃない。
まあ中学生程度の見た目の子が食べるのは珍しいと思うけど。
「すみません。注文いいですか?」、ボクは手を挙げて店員を呼ぶ。
「はい、お伺い致します」
「えっと⋯⋯シェフの拘ったり拘らなかったりサンドと、あとお子様ランチ下さい」
「かしこまりました。少々お待ちください」
「どうも」
注文を終えてルアさんの方を見ると、「いいんでふか!?」と噛みながら驚いていた。
程なしくして、店員がボクたちの料理を運んできた。軽く黙礼をして、料理を受け取る。
「わぁ! 食べてもいいですか? いいですよね?」
「いいですけど⋯⋯喉つまらせないでくださいね?」
「了解です! いただきます!」
ルアさんはスプーンを握り締め、勢いよくチキンライスを貪っていく。
あっという間に突き刺さっていた旗が崩れ落ちた。
そしてその、結果むせました。
「ゴホッゴホッ⋯⋯!」
「全く⋯⋯だから喉を詰まらせないように言ったじゃないですか。二度目はないですよ?」
「す、すみません⋯⋯。でも美味しいです⋯⋯」
言わんこっちゃない、とでも言うように僕はルアさんの背中を叩き、水を飲ませてあげる。
まあ一悶着あったが、何とか食事を終えて店を出た。
ちなみにボクの食べたシェフの拘ったり拘らなかったりサンドの味ですが⋯⋯忘れました。
まあ、忘れる程度の当たり障りのない無難な味だったって事じゃないですか?
「ノエルお姉さん。ご馳走様でした! いや~久しぶりにまともな食事を取りましたよ~」
「いえいえ、ていうか上機嫌ですね⋯⋯。この短時間でどんどんキャラが変わっていくような」
「それだけ心を開いてきたって事です!」
「あ、そうなんですか」
空返事をしつつも、僕は手元のお金の入った袋に目をやる。
初めはパンパンだった物の、服と食費で一気に半分以下まで減ってしまった。
流石に半分以下の状態で旅に出るのは心もとない。
軍資金を増やさないと⋯⋯。
「ルアさん。ちょっと金欠なので⋯⋯お金を補充しようと思うんですけど着いてきてくれますか?」
「え? いいですけど補助って⋯⋯」
了承を得たので一つだけお金を頂けそうな場所に思い当たりがあり、ルアさんを連れて移動する。
いやぁ⋯⋯何をするにも想像以上にお金かかっちゃうものですよねぇ。分かります? 分かりますよね?
「という事で王様、貰ったお金使い果たしてしまったので⋯⋯お金下さい」
「いや勇者ノエル⋯⋯まだ半日も経ってないんだけど⋯⋯」
「てへ」
「てへじゃないし。いや可愛いけど。で? いくら欲しい?」
「王様大好きです。えへへ、あるだけ下さい」
王室へと赴いたボクは、初めての王室にボクの後ろで震えるルアさんを他所に、可愛い子にしか許されない様なぶりっ子の仕方で旅に必要なお金を再びせしめた。
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