お姫様志望の勇者の冒険譚〜王と魔王を倒したら男の娘のボクをお姫様にしてくれると約束したので冒険にでた〜

しゃる

文字の大きさ
10 / 23

第九話 ナイルの街とワイバーン

しおりを挟む

 腰まで伸びた透き通る銀の髪、空色の瞳、可愛らしいゴスロリ衣装(火の粉により損傷)を見に纏った可憐な少女⋯⋯ではないですね、可憐な男の娘のボクは今、酷く気分が落ち込んでいます。


 そしてベッドにだらしなく横たわっています。




「ノエルお姉さん、機嫌直してくださいよ~」


「いや、直しません。本当にワイバーン討伐なんてやりたくなかったのに」


「ドラゴンの脅威は戦ったノエルお姉さんが一番分かってるじゃないですか。あんなのが村にいたら皆食べられちゃいますよ、見殺しにするなんて忍びないですよ」



 ルアさんはそう言って、ベッドに横たわるボクの頭を撫でる。


 戦った事があるからこそ、もう二度とドラゴンとは戦いたくないというのに。

 それにこの村にいるドラゴンが人を食事にしているとは限らない。



 全く、そもそもこの発端は⋯⋯⋯⋯。

 今からおよそ数時間前、ルアさんがワイバーン退治に協力すると言ったせいで、ルアを一人で行かせる訳にも行かないボクは形だけでも協力する事になってしまった。



 現在は冒険者に案内されて辿り着いたナイルの村の宿屋に宿泊している。


 ふかふかのベッドに横たわっているのもそのせいだ。


 本当に着いてきたくなかったけれど。

 ルアさんを故郷に連れ帰ると約束してしまった手前、行動を別にする事なんて出来ないし、ましてや一人でワイバーン討伐に行かせて本当に死なれても困る。


 あの冒険者さん達、なんか薄情そうだしルアさんの事助けてくれなさそう。


 そのせいで、ボクもワイバーン討伐に協力せざるを得なくなるなんて。


 ちなみにナイルの村はそこそこに人口が多いらしく冒険者や旅人用の宿泊施設もあった。

 さっきも言ったがボク達もそこにお世話になってる。

 ワイバーン討伐に来たと村長に告げたら、宿泊費は無料になった。



「ノエルお姉さん、ずっと黙っていて考え事ですか? それとも私に怒ってるんですか?」


「もう怒ってはいないです。けど、考える事は山ほどあります」



 ルアさんは、ボクの機嫌を伺うような目で見つめてくる。

 何時までも誰かに気を遣わせるのはボクの趣味では無いので怒っていないことを伝える。


 村長からの話だと、ナイルの村は酒の製造をしていて、マニアにはそこそこ美酒だと定評がある様だ。

 まさにワイバーンにすら気に入られてしまう程の美酒らしい。


 無駄に知能が高いワイバーンは言語を話せるらしく、週に一度村中の酒を集めにやって来るらしい。

 ちな逆らったら即死らしい。今のところ前例はないがそう告げられているみたいだ。


 飲酒ガチ勢こわい。



「酒好きのワイバーンを倒す策。大好きな酒を利用して負かすなんて、最高に皮肉の聞いた策は無いでしょうか⋯⋯」


「ノエルお姉さん、対ワイバーン戦の作戦を考えてるんですか!? 乗り気ですね!」


「乗り気なわけないでしょう。仕方なしに考えてるんですよ。最悪、死ぬと思ったらホウキに乗って逃亡ですからね」



 命に関わるんだ、ヤバかったら敵前逃亡もやむ無しだろう。



 そしてふと、自分が勇者だったことを思い出した。

 そういえばボクの同期の、名前⋯⋯えっと、リュウオウ?は今頃どうしているんだろう。

 冒険に出ているんだろうけど、何処かで野垂れ死んでいないかな。

 まあボクの知った事ではないんですけどね。世界で一番どうでもいい事に頭を使いました。



「ふあぁ、ノエルお姉さん⋯⋯私そろそろ眠たくなってきました」


「もう夜ですもんね。そろそろ寝ましょうか」



 実は時刻は既に真夜中。

 カーテンと窓の隙間から、微妙に月明かりが差し込んで、ボク達を照らしている。

 ボクは付けていた蝋燭の火き息をそっと吹きかけて消す。


 少し焦げ臭い匂いが鼻の奥に通る。


 蝋燭を消すなんて誕生日以外でした事無かったけど、こちらの世界では蝋燭が割と主流みたいだ。



「ノエルお姉さん、おやすみなさい⋯⋯」


「はい、おやすみなさいです」


 ボクたちは部屋に一つしかないベッドと毛布を共有する。

 折角困っている所にわざわざワイバーン討伐に来ているわけだから、人数分のベットと毛布位用意して欲しい限りだ。



「うんん、ん⋯⋯ノエルお姉さん死んじゃいましたぁ⋯⋯」



 直ぐに夢の中へと落ちていったルアさんが寝言を呟く。


 ルアさんの夢の中の私は、どうやら亡き者にされているらしい、物騒が過ぎる。


 ていうか、これからワイバーン戦が控えているのに、縁起悪くないか。正夢はマジ勘弁。



「はぁ⋯⋯そういうの怖くなるからやめて下さいよ」



 ぼそりと呟いた独り言は、直ぐに静寂に掻き消される。

 なんだか眠れそうもないし、今日は寝付けるまで作戦でも練ろうかな。



 翌朝、気が付けば眠りついていたボクは、ルアさんに「起きて下さい!! 朝日が眩しいですよ!」と身体を揺さぶられて強制的に起こされた。


「おはようございます。⋯⋯もうちょっと優しい起こし方をして欲しかったです」


「おはようございます! 無理です! あ、ノエルお姉さん目にくまができてますよ。眠れなかったんですか?」


「まあ⋯⋯夜な夜な対ワイバーンの策を練っていたので」



 寝落ちするまで考え込んでいたせいか、どうやらくまが出来てしまったらしい。

 夜更かしをして目に出来たくまの代償という訳では無いが、お陰で幾つかの策を思い付いた。



「さて、では村長さんの所に行きましょうか」


「⋯⋯! はい!」


 ボク達は宿泊施設を出て、無駄にデカい村長さんのお家へ向かう。

 村長さんの家の前まで来ると、ここまでボク達を案内してきた冒険者二人が立っていた。


 後から聞いた話だが、二人はどうやら兄弟らしい。



「おはよう、お嬢ちゃん達。銀髪の方のお嬢ちゃん、眠れなかったのか?」、今話しかけてきた剣を装備している方が兄のコーザ。


「まあ慣れない環境だから無理もないよ! ただ冒険者たる者、何時でもどこでも眠れるようにしないとな!」、こちらの斧を装備して、兄よりも若干テンションの高い方が、弟とのズーク。


 二人とも栗色の髪と翠色の瞳をしている。

 あと顔立ちがそっくり。



「おはようございます。ワイバーン戦の作戦を練っていたので、眠れなかったわけではないです」


「おお流石お嬢ちゃん! 頼りにしてるぜ!!」、弟、ズークの方がテンション高々熱量高々にボクを宛にしてくる。


「お嬢ちゃんじゃなくてノエルです。というか、お二人も作戦の一つや二つ当然考えていますよね? 聞かせてくれませんか?」


「うぐっ!!」



 冒険者兄弟はまた都合が悪そうに押し黙った。

 コイツら、本当に全てをボク達に丸投げする気だったのか。

 ちらりと横を見るとルアさんも疑念の目で二人を見ていた。



「ノエルお姉さん⋯⋯この人達本当にやる気あるんでしょうか。ちょっと不安になってきました」


「無いでしょうね。やる気を微塵も感じとれませんし、報酬だけかっさらう典型的な丸投げ害悪タイプです」



 こっそりと耳打ちするルアさんに、ボクはあえて御二方にも聞こえるような声量で返す。

 無理に協力しているのだから、その位はしても問題は無いでしょう。



「ノエルちゃんは手厳しいなぁ⋯⋯」


「さて、そろそろ村長の家に入ろうか。何時までも村長の家のまで話しても村長も落ち着かないだろうし」


 長男の方、コーザが村長の家の扉をノックする。

 直ぐにしゃがれていて年老いた声の男性が、「只今」と返事をする。

 村長の声だ。



「おお、冒険者様方⋯⋯我が家まで御足労頂き誠に感謝でございます」


「いえいえ、感謝するくらいならせめてコーヒーのいっぱいでも頂きたいですね」


「ノエルお姉さん! 乗り気じゃないからってそれは流石に駄目ですよ!」



 ボクの発言にルアさんがきつく窘める。

 反論しようにもルアさんは既に顔を赤くして怒っているし、ボクも何時までもいじけすぎていた。

 素直に反省して、「すみませんでした」と頭を下げる。



「ああ、わざわざ来て頂いているのはこっちなんですから気にしないで下さい。直ぐにコーヒーを入れるので上がってください」


 村長さんはボク達に家の中に入るように促す。

 優しい⋯⋯人として完敗した気がする。


 この世界では好き勝手すると決めたが、人としての最低限の接し方くらいは守った方がいいと一人、粛々と心の内で反省する。


 村長は、ボク達を客間の椅子に座らせると人数分のコーヒーカップを運びながらやってきた。



「どうぞ」


「本当にコーヒー入れてもらっちゃってすみません」


「そうだよお嬢ちゃん! お年寄りには優しくしないと!」、弟のズークが窘めるように話しかけて来た。


「い、以後気をつけます⋯⋯」



 ズークさんに注意されるのは癪だったが、反論出来もしないので素直に受け入れる。

 まあ、やってしまった分はここからの作戦会議で活躍して挽回すればいい。


「それで早速ですが、対ワイバーン用の策で幾つか提案があります⋯⋯!」


 ボクは昨日夜な夜な考えた素晴らしい作戦を披露してみんなの舌を巻かせるべく、したり顔で口を開いた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥
ファンタジー
命令を受けて自らを暗殺に来た、身寄りのない不思議な少女エミリスを引き取ることにした伯爵家四男のアティアス。 彼女は彼と旅に出るため魔法の練習を始めると、才能を一気に開花させる。 他人と違う容姿と、底なしの胃袋、そして絶大な魔力。メイドだった彼女は家事も万能。 超有能物件に見えて、実は時々へっぽこな彼女は、様々な事件に巻き込まれつつも彼の役に立とうと奮闘する。 そして、伯爵家領地を巡る争いの果てに、彼女は自分が何者なのかを知る――。 ◆ 「……って、そんなに堅苦しく書いても誰も読んでくれませんよ? アティアス様ー」 「あらすじってそういうもんだろ?」 「ダメです! ここはもっとシンプルに書かないと本編を読んでくれません!」 「じゃあ、エミーならどんな感じで書くんだ?」 「……そうですねぇ。これはアティアス様が私とイチャイチャしながら、事件を強引に力で解決していくってお話ですよ、みなさん」 「ストレートすぎだろ、それ……」 「分かりやすくていいじゃないですかー。不幸な生い立ちの私が幸せになるところを、是非是非読んでみてくださいね(はーと)」 ◆HOTランキング最高2位、お気に入り1400↑ ありがとうございます!

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...