お姫様志望の勇者の冒険譚〜王と魔王を倒したら男の娘のボクをお姫様にしてくれると約束したので冒険にでた〜

しゃる

文字の大きさ
18 / 23

第十七話 迷いの森

しおりを挟む


 腰まで伸びた銀髪と空色の瞳に可愛らしい白いゴスロリ服を纏った少女(男の娘)と桃色の髪と紅い瞳に黒のワンピースを着た少女が二人、昼頃なのに日の差し込まない暗い森の中で彷徨っている。



 そう、ナイルの村を出て数日が経った頃、ボク達は見事に森の中で遭難していた。


 何やら辛気臭い森にボク達は迷い込んでしまったみたいで、しかも大木が空を覆っていてホウキで脱出する事も難しい。


 最悪、今夜はこの森で野宿かもしれない。



「ノエルお姉さん、迷っちゃいましたね」


「ほんと、どうしたものか⋯⋯。何処がこの森の出口なのかさっぱりです」


「私、この森ジメジメしてて嫌いです!」


「ボクだって嫌ですよ、こんな森」



 なんか湿気が凄いですし、この木々を全て魔法で燃やしたくなってしまいます。ふふふ。


 なんて事を内心思いつつ、ボクとルアは宛もなく迷いの森を歩く。

 日が沈んだ頃に魔物に遭遇して、不意打ちでも食らったりしたら命が危ない。


 野宿はかなり危険だな。本当にこの森燃やしてやろうか。



「んっ、ノエルお姉さん何が聞こえませんか?」


「え? ボクは何も聞こえませんが」


「足音が聞こえます」


「マジですか!」


「微かに聞こえる程度なので、静かにして下さい!」



 何故か怒られたので黙っておく。

 というか注意する声の方が大きいし、喋ったら怒られそうだから言わないけど。


 ルアは暫く耳を澄ませた後、「こっちです」と歩き始めた。



「本当に足音がしたんですか?」


「はい、絶対に人間の足音です。私は人間よりも聴覚が良いので分かるんです!」


「獣らしい特技発見ですね」


「そうです、侮らないで下さいね!」


「初めからルアを侮った事なんてないですよ⋯⋯」


  ルアについて行くと、確かに遠くに人影のような物が見えた。

 遠目で見ているせいか、どうにも人影がゆらゆらと揺れているように見えた。


 もしかしたらあの人影も森で迷って、数日飲まず食わずの遭難者かもしれない。

 ふらついているせいで人影が揺れているのなら、納得ができる。



「ルア、少し急ぎましょう」


「え、了解です!」



 目の前で倒れそうになっている人間がいたら流石に放っておけない。

「大丈夫ですか?」と救いの手を差し伸べる程度にはボクにも良心がある。


 ボク達は少し駆け足で人影へと近付く、そして人影が実際に男性の姿へと変わっていった。



「あの、大丈夫ですか? もしかして迷っていますか?」


「⋯⋯⋯⋯」


「ちょ、返事して下さい」


「⋯⋯⋯⋯」



 男性へと声を掛けるも、返事がかえって来ない。

 こちらからは後ろ姿しか見えないから、どういった表情をしているのかが読めない。

 もしかして既に手遅れとか⋯⋯?



「あのー返事して下さい」


「⋯⋯⋯⋯」



 三度目の正直で声を掛けたが、やはり男性からの返事は返ってこない。

 足取りはふらついていたし、もしかしたら耳が聞こえなかったり、声が出せないのかもしれない。


 まあシンプルに無視されてるっていう可能性を信じたくないだけなんだけど。


 とりあえず、肩に触れてみようか。



「あ」



 ボクが男性の肩に触れようとした瞬間不可解な事が起きた。


 男性がボク達の目の前から忽然と姿を消した。

 いや、目の前でいきなり消えたと言った方が正しいのかもしれない。



「ちょ、え、どういう事ですか? 」


「ちょうど今の今まで迄すぐ側に男の人がいたのに⋯⋯。まさか幽霊なのでは!?」


「ルア落ち着いてください。幽霊なんてこの世にいるわけな⋯⋯いやでもこっちの世界ならいてもおかしくなさそう」


「ノエルお姉さん私怖くなってきました⋯⋯」



 迷子になってこれ以上下がる事がないと思っていたテンションが更に奈落へと下がった。

 わあ、凄い。


 いやいや何も凄くないから、まさか本当に幽霊?

 それとも森で彷徨えるボク達が作り上げた幻覚?


 どっちにしろヤバいし、もう怖いし、こんな森早く抜けたい!



「やっぱりここは死者を沢山出している迷いの森かもしれません! 私達ここで死ぬのかもしれない⋯⋯」


「何弱腰になっているんですか! ルア、らしくないですよ」


「らしくないってなんですか? そもそも本来の私とは一体⋯⋯」



 まずい、今まで見たこと無かったけどルア病みモード突入だ。

 一人でも心細かったろうけど、同行人が露骨に怖がっているのを見るとこっちまで怖くなってくる!



「え、あれなんですか?」


「私らしさとは⋯⋯そもそも私とは⋯⋯人生とは⋯⋯」


「一旦病みストップでお願いします。あれ、見てください」


「はい⋯⋯?」



 ルアはボクが指さす方向に目をやる。

 さっきまで男性に気を取られてたて気付かなかったが、目の前に大きな門がそびえ立っている。


 街なのだろうか、周りは高い塀で囲まれていて中が一切見えない。


 複雑な森のすぐ側に街があるなんて、隠れ家的な存在なんだろうか。

 人気の付かない所に危険な民族の集落とか、日本にいた頃にそういう都市伝説あったよな⋯⋯。



 正直身構えてしまうけど、入ってみないと吉か凶か分からない。



「ルア、今日はあそこで宿をとりませんか?」


「ですね! いやー、まさかこんな森奥に街らしき物があるなんてついてますね!」


「まあ、そうですね」


「さっきの人も幽霊かと思いましたけど、私たちを導いてくれる天使様だったのかもしれない!」



 ルアは特に警戒する様子も感じられず、出来事をただ幸運だったと受け取っているみたいだ。

 ボクが警戒しすぎなんだろうか?

 さっきの男性は到底天使だなんて思えなかった。


 本当に天使ならもっと神々しいオーラがあるイメージだし、何より彼から生気が微塵も感じられなかった。



「まあいいや、入りましょうか」



 門の前に立ったら、手も触れていないのに勝手に門が不気味な音をたてて開いた。

 少し不可解だがボク達を歓迎しているとも捉えられる。



 こういう時こそポジティブシンキング。



 思い切って門くぐってみると、至って普通の街並みが広がっていた。

 普通といっても異世界基準だけど。


 でもどこか街の様子が変だ。街全体的に生気がないし、暗く沈んでるみたいだ。


 時間だって昼頃のはずなのに不気味に薄暗色が空を覆っている。



「何だかこの街元気がないですねぇ? 通りすがりの人も全員顔が青白くてなんか怖いです」


「ルアもそう思いますか。んー、やっぱりこの街出ましょうか? 気味悪いですし」



 ボクがこの街を出ることを示唆する発言をした途端、門が勝手に大きな音をたてて勢いよく閉まった。


 まるで逃がさないとでも言うように。



「え、門勝手に閉まりましたよ!!」


「ええ⋯⋯分かってます。なんだか嫌な予感がします。それにこの街の人達の顔、普通じゃありません」



 通行人の顔が青白いとルアは言ったけど、例えるならまるで生きながら死んでいる、はっきり言うと亡者のようだ。

 もしかしたらボク達ヤバい街に来てしまったのでは⋯⋯?










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥
ファンタジー
命令を受けて自らを暗殺に来た、身寄りのない不思議な少女エミリスを引き取ることにした伯爵家四男のアティアス。 彼女は彼と旅に出るため魔法の練習を始めると、才能を一気に開花させる。 他人と違う容姿と、底なしの胃袋、そして絶大な魔力。メイドだった彼女は家事も万能。 超有能物件に見えて、実は時々へっぽこな彼女は、様々な事件に巻き込まれつつも彼の役に立とうと奮闘する。 そして、伯爵家領地を巡る争いの果てに、彼女は自分が何者なのかを知る――。 ◆ 「……って、そんなに堅苦しく書いても誰も読んでくれませんよ? アティアス様ー」 「あらすじってそういうもんだろ?」 「ダメです! ここはもっとシンプルに書かないと本編を読んでくれません!」 「じゃあ、エミーならどんな感じで書くんだ?」 「……そうですねぇ。これはアティアス様が私とイチャイチャしながら、事件を強引に力で解決していくってお話ですよ、みなさん」 「ストレートすぎだろ、それ……」 「分かりやすくていいじゃないですかー。不幸な生い立ちの私が幸せになるところを、是非是非読んでみてくださいね(はーと)」 ◆HOTランキング最高2位、お気に入り1400↑ ありがとうございます!

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...