引きこもり天使の救済奇譚〜引きこもりだった天使が親のいいつけで人間界に舞い降りて嫌々アナタを助けてくれます〜

しゃる

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第一章カトリの街

エピソード21 悪魔の匂い

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「その話は本当なのかと聞いている」


「だってさ、レミリエルさん」


 エリスのお偉いさんの顔は、真剣そのもので本気で事件解決に取り掛かろうとしているのだと分かりました。


「本当ですよ。カムさん次第ですが」


「私にプレッシャーかけないでよ」


 他のお偉いさん方は「信用出来るのか」と不信の表情ですが、この方はじっと、私達を見定めるように目を合わせてきます。


「一つだけ聞く。できるのか」


「恐らく」


「できるのか、できないのかだ。曖昧な言葉は不信感しか生まないぞ」


「できるよ!信じて欲しい」


 私が口を開くより先にカムさんが言い切りました。その横顔は十四歳かと疑う程に覚悟の決まった顔でした。


「一度きりだ。その一度で必要な情報を全て抜き取れ。遺体は丁重に扱え、これ以上の事を起こしては遺族の方にさらに負担がかかる」


 遺族。子供を苦心して産み、幼い頃から手をかけ育て上げたのが不当に奪われたらどんな気持ちなのでしょうか。想像もできない、想像もしたくない程に辛い事でしょう。


「こっちだ。付いてこい」


 エリスの方に案内されて本部の長い廊下をコツコツと足音を鳴らして歩きます。


 やがて、長い廊下の終わり共に扉が見えました。


「この部屋だ。魔法で冷凍保存されている」


「魔法で殺されて魔法で死体を保たれる。なんかどこまでも魔法だね」


「そう、だな。」


 エリスのお偉いさんは力なく頷きます。そして目の下には隈ができています、眠っていないのでしょうか。


「俺の名前はスピール。本来は部外者に許可を出すなんてありえない話だが、そこの白髪のお嬢さんの実績と君のさっきの目を信用します。」


「君だ」とカムさんを指さします。人に指をさしたらいけないんですよーと言いたくなる気持ちを必死に抑えます。明らかに場違いな発言ですから。


「俺は職業柄色んな奴と話してきた。色んな奴の目を見てきた。虚偽の目、絶望の目、大体目を見たら何を考えているか分かる。」



「へえ、それは凄いね。魔法でもそこまではできないし」


 

「そしてさっき、君の目は決意が固まった目をしていた。そういう奴はやってくれるもんだ。俺の長年の経験からの推測だがな」



「ん、あ、ありがと」


 期待されている事を伝えられると少し照れくさそうにカムさんは俯きます。


 スピールさんは「頼んだぞ」と告げ私達を扉の中に入れてくれました。


「俺は外で待っている。終わったのなら出てこい」


「分かりました」


 スピールさんが扉を閉めると、私達は部屋を見渡します。


「あれ、だよね」


「はい⋯⋯」


 作業台の様な物に横たわっている、遺体を見て一気に息を吸うのが重くなります。何故、さっき迄は平気だったのに。


「この人、殺されたんだね」


「そうですね、無念だったでしょう」


 私たちの目の前にいる遺体はまだ若い女性のようでした。ドクドクと心臓の鼓動が早くなるのを感じます。


「レミリエルさん、犯人の魔力微かに付着してる」


「それで、何か分かりましたか」


 はやる気持ちを抑えて、冷静に、場を乱さないように問います。


「死因は雷魔法。そしてね、魂が奪われているかも」


「と、いうと⋯⋯。」


「悪魔召喚の儀式で使われるかも」


 悪魔召喚。


 天使が居るということは勿論悪魔もいるわけで、奴等は生贄を捧げると人間界にも顔を出すと天使学校で聞きました。召喚された悪魔が低級の場合は理性がないので召喚者さえも殺し、無差別に暴れまくるといいます。具体的には知りませんが。



「過去に人間界で悪魔が暴れた時はどうなったかと分かります?」


「私が産まれる前にあったみたいなんだけど、確か死者は五百を超えるって」


 五百。え、五百?


「レミリエルさん、これ早く犯人見付けないとみんな死ぬかも」


 カムさんは乾いた笑いを零しました。それ程までに緊急事態なのでしょう。


 天使でありながら悪魔となど対面したことも無いのでイマイチ現実味が湧かず、脳が働きません。


「そ、それで犯人の場所は⋯⋯」


「ごめん。付着した魔力が微弱過ぎて、分からない」


 さらに絶望へと陥りました。カムさんを責め立てる訳に行かず、「ありがとうございます」と告げます。


「どういたしまして、なんて言えないよね」


 カムさんも暗く沈んだ顔をしていました。掛ける言葉も見付からずに、結果をスピールさんに報告しました。


「悪魔召喚⋯⋯犯人は何考えてんだ」


「案外何も考えていない、くだらない理由かもしれませんよ」


「興味半分ってか」


「ええ、精神が自立していない状態で魔法、普通の人にはない強力な力を得てしまうと善悪の区別がつかなくなりそうですし」


「それはあるな⋯⋯」


 私達の会話にカムさんは「え、前の私の事⋯⋯?」と居にくそうに黙りこくっていました。今はいい子ですもんね。


「悠長な事は言ってられない直ぐにエリス全体に知らせて魔法使いの捜査に当たらせる」


「今度は会議、しないんですか?」


「そんな事してる場合じゃねぇだろ。俺たちが会議室で顔つき合わせるだけじゃ何も解決しねぇ」


 初めは話の分からない方だと思いましたが、撤回しましょう。


「お願いしますね」


「お願い、するね」


 二人で頭を下げ、エリスの本部を後にしました。



「私達は私達で、カトリの街のどこかに居る悪い魔法使いを探しますか」



 それから私達は数日間、懸命に犯人を探しました。勿論ただ虱潰しに探すのではなく、魔法も活用して。


 ただこの広いカトリの街で一人の魔法使いを探すというのは無理があった様です。


 結局、数日間の私達の努力は無駄となって終わりました。


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