16 / 94
*
しおりを挟む
「ただいま」
「あ、亮雅さん。おかえりなさいっ」
写真を撮り終えてリビングに戻ると、亮雅が帰ってきた。
「やっほー、亮雅きたよ」
「おう、これ持って帰れよ」
「おれにプレゼント? 中学ぶりだなっ」
あの頃は身長差も少ししかなかったのに、亮雅はおそらく180を超えている。
大人になったんだな、おれたちも。
「同居人に変な心配かけんなよ」
「大丈夫。あの人変わってるし、おれになんて興味もないよ」
「どうだか? さっきから鳴ってんぞ」
テーブルに置いていたスマホを亮雅が見せてきた。
通知欄には志野から何度も着信が入っている。
こみ上げてくるのはほとんど喜びで。
「うあー、気づかなかった」
「出てやれよ」
「こりゃ説教だな。あ~やだやだ」
おれは嫌だと言いながら内心ドクンドクンと鳴る心臓を無視して庭で通話ボタンを押した。
「もしもーし」
『電話に出ろや、この淫乱』
「ぷはっ……おこじゃん」
『当たり前だ、外出するときは言えって散々話したよな? ただでさえお前は人の目を惹きやすいんだ。いい加減に自覚をもて』
「は~い」
『なんなんだ、そのやる気ない返事は』
「……志野、オヤジみたい」
『監禁すっぞ』
「いいねー、ゾクゾクする」
『場所教えろ。迎えにいく、どうせ昨日話してたやつのところだろ』
さすが勘のするどい男だ。
はたから見れば過保護すぎる言動でも、志野にとってはそれが当然。
おれは傷だらけで帰宅してくることが多かった。
その過去を思えば、あれほど過保護にしたのはおれだ。
リビングを振り返ると亮雅たちがケーキを囲んで笑っている。
おれはスマホをカメラのように持ち、撮影ボタンを押した。
「!」
「家族ってかわいいなぁ~、キラキラな顔が撮れたよ」
「肇さんっ、盗撮はやめてください……!」
「あはは、照れてんのかわいい~」
「肇、お前も食っていけよ。ケーキは嫌いじゃないだろ」
「家族団欒を邪魔するのも気まずいけど、せっかくだからもらっていこうかな。あーそれから、住所教えてもいいだろ? 同居人に」
「くるのか?」
「ああ、迎えにくるんだってさ。ガキじゃないんだから1人で帰れるってのに」
「やっぱアホだな、お前」
なぜおれが?
亮雅の意図がよくわからずリビングに上がる。
「夜遊びすんなよ。せっかく就職できたんなら自分をもっと大事にしろ」
「気が向いたらな。陸ー、おれがケーキ切り分けてやる」
「うん! はしゃん切って~!」
まだ、怖い。
志野を信用できない。
あと一歩なのに、その一歩を踏み出す勇気がおれにはない。
「__きたんじゃねーの、お前の相方」
優斗くんと昼食をつくっていたところにインターホンが鳴って、亮雅が玄関に向かった。
妙にソワソワして視線をそらしてしまう。
「……やくざ?」
優斗くんが小声でつぶやく。
なぜかそれに吹き出しそうだった。
「ここにうちのもんが来てるって聞いたんですが」
「ええ、いますよ。おい肇、迎えきてんぞー」
「……なーんかすっげー恥ずかしいんですけど、おれもうすぐ三十路だよ?」
「連絡しないお前が悪い。お前になにかあったら」
「あーはいはい、わかったって。説教はもういいから。夜遅くまで仕事おつかれさん」
「……はぁ。長い友人と聞きましたけど、どこで肇と?」
「幼なじみですよ。っつっても中学以来の再会です」
「……なら安心だ。こいつは俺が目を離した隙によくイタズラをするガキで、面倒をかけたならすまなかった」
プフっと吹き出した亮雅に、おれは少しムッとした。
「心を開ける親しい友人がいなくて困っていたんだ。仲良くしてやってください」
「ええ、もちろん。それはお互い様ですよ」
「もう帰るぞ、肇」
「えー、せっかく幼なじみに会えたのに」
「いつでも会える。誰のためにレストラン予約したと思ってるんだ」
「はぁー、わかりましたよ。じゃーね」
口ではクールぶっていても、おれの心は有頂天だ。
頬が熱くて早々に亮雅宅を後にする。
「あ、亮雅さん。おかえりなさいっ」
写真を撮り終えてリビングに戻ると、亮雅が帰ってきた。
「やっほー、亮雅きたよ」
「おう、これ持って帰れよ」
「おれにプレゼント? 中学ぶりだなっ」
あの頃は身長差も少ししかなかったのに、亮雅はおそらく180を超えている。
大人になったんだな、おれたちも。
「同居人に変な心配かけんなよ」
「大丈夫。あの人変わってるし、おれになんて興味もないよ」
「どうだか? さっきから鳴ってんぞ」
テーブルに置いていたスマホを亮雅が見せてきた。
通知欄には志野から何度も着信が入っている。
こみ上げてくるのはほとんど喜びで。
「うあー、気づかなかった」
「出てやれよ」
「こりゃ説教だな。あ~やだやだ」
おれは嫌だと言いながら内心ドクンドクンと鳴る心臓を無視して庭で通話ボタンを押した。
「もしもーし」
『電話に出ろや、この淫乱』
「ぷはっ……おこじゃん」
『当たり前だ、外出するときは言えって散々話したよな? ただでさえお前は人の目を惹きやすいんだ。いい加減に自覚をもて』
「は~い」
『なんなんだ、そのやる気ない返事は』
「……志野、オヤジみたい」
『監禁すっぞ』
「いいねー、ゾクゾクする」
『場所教えろ。迎えにいく、どうせ昨日話してたやつのところだろ』
さすが勘のするどい男だ。
はたから見れば過保護すぎる言動でも、志野にとってはそれが当然。
おれは傷だらけで帰宅してくることが多かった。
その過去を思えば、あれほど過保護にしたのはおれだ。
リビングを振り返ると亮雅たちがケーキを囲んで笑っている。
おれはスマホをカメラのように持ち、撮影ボタンを押した。
「!」
「家族ってかわいいなぁ~、キラキラな顔が撮れたよ」
「肇さんっ、盗撮はやめてください……!」
「あはは、照れてんのかわいい~」
「肇、お前も食っていけよ。ケーキは嫌いじゃないだろ」
「家族団欒を邪魔するのも気まずいけど、せっかくだからもらっていこうかな。あーそれから、住所教えてもいいだろ? 同居人に」
「くるのか?」
「ああ、迎えにくるんだってさ。ガキじゃないんだから1人で帰れるってのに」
「やっぱアホだな、お前」
なぜおれが?
亮雅の意図がよくわからずリビングに上がる。
「夜遊びすんなよ。せっかく就職できたんなら自分をもっと大事にしろ」
「気が向いたらな。陸ー、おれがケーキ切り分けてやる」
「うん! はしゃん切って~!」
まだ、怖い。
志野を信用できない。
あと一歩なのに、その一歩を踏み出す勇気がおれにはない。
「__きたんじゃねーの、お前の相方」
優斗くんと昼食をつくっていたところにインターホンが鳴って、亮雅が玄関に向かった。
妙にソワソワして視線をそらしてしまう。
「……やくざ?」
優斗くんが小声でつぶやく。
なぜかそれに吹き出しそうだった。
「ここにうちのもんが来てるって聞いたんですが」
「ええ、いますよ。おい肇、迎えきてんぞー」
「……なーんかすっげー恥ずかしいんですけど、おれもうすぐ三十路だよ?」
「連絡しないお前が悪い。お前になにかあったら」
「あーはいはい、わかったって。説教はもういいから。夜遅くまで仕事おつかれさん」
「……はぁ。長い友人と聞きましたけど、どこで肇と?」
「幼なじみですよ。っつっても中学以来の再会です」
「……なら安心だ。こいつは俺が目を離した隙によくイタズラをするガキで、面倒をかけたならすまなかった」
プフっと吹き出した亮雅に、おれは少しムッとした。
「心を開ける親しい友人がいなくて困っていたんだ。仲良くしてやってください」
「ええ、もちろん。それはお互い様ですよ」
「もう帰るぞ、肇」
「えー、せっかく幼なじみに会えたのに」
「いつでも会える。誰のためにレストラン予約したと思ってるんだ」
「はぁー、わかりましたよ。じゃーね」
口ではクールぶっていても、おれの心は有頂天だ。
頬が熱くて早々に亮雅宅を後にする。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる