薄明かりの下で君は笑う

ひいらぎ

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「ただいま」

「あ、亮雅さん。おかえりなさいっ」


写真を撮り終えてリビングに戻ると、亮雅が帰ってきた。


「やっほー、亮雅きたよ」

「おう、これ持って帰れよ」

「おれにプレゼント?  中学ぶりだなっ」


あの頃は身長差も少ししかなかったのに、亮雅はおそらく180を超えている。
大人になったんだな、おれたちも。


「同居人に変な心配かけんなよ」

「大丈夫。あの人変わってるし、おれになんて興味もないよ」

「どうだか?  さっきから鳴ってんぞ」


テーブルに置いていたスマホを亮雅が見せてきた。
通知欄には志野から何度も着信が入っている。
こみ上げてくるのはほとんど喜びで。


「うあー、気づかなかった」

「出てやれよ」

「こりゃ説教だな。あ~やだやだ」


おれは嫌だと言いながら内心ドクンドクンと鳴る心臓を無視して庭で通話ボタンを押した。


「もしもーし」

『電話に出ろや、この淫乱』

「ぷはっ……おこじゃん」

『当たり前だ、外出するときは言えって散々話したよな?  ただでさえお前は人の目を惹きやすいんだ。いい加減に自覚をもて』

「は~い」

『なんなんだ、そのやる気ない返事は』

「……志野、オヤジみたい」

『監禁すっぞ』

「いいねー、ゾクゾクする」

『場所教えろ。迎えにいく、どうせ昨日話してたやつのところだろ』


さすが勘のするどい男だ。
はたから見れば過保護すぎる言動でも、志野にとってはそれが当然。
おれは傷だらけで帰宅してくることが多かった。

その過去を思えば、あれほど過保護にしたのはおれだ。
リビングを振り返ると亮雅たちがケーキを囲んで笑っている。
おれはスマホをカメラのように持ち、撮影ボタンを押した。


「!」

「家族ってかわいいなぁ~、キラキラな顔が撮れたよ」

「肇さんっ、盗撮はやめてください……!」

「あはは、照れてんのかわいい~」

「肇、お前も食っていけよ。ケーキは嫌いじゃないだろ」

「家族団欒を邪魔するのも気まずいけど、せっかくだからもらっていこうかな。あーそれから、住所教えてもいいだろ?  同居人に」

「くるのか?」

「ああ、迎えにくるんだってさ。ガキじゃないんだから1人で帰れるってのに」

「やっぱアホだな、お前」


なぜおれが? 
亮雅の意図がよくわからずリビングに上がる。


「夜遊びすんなよ。せっかく就職できたんなら自分をもっと大事にしろ」

「気が向いたらな。陸ー、おれがケーキ切り分けてやる」

「うん!  はしゃん切って~!」


まだ、怖い。
志野を信用できない。
あと一歩なのに、その一歩を踏み出す勇気がおれにはない。


「__きたんじゃねーの、お前の相方」


優斗くんと昼食をつくっていたところにインターホンが鳴って、亮雅が玄関に向かった。
妙にソワソワして視線をそらしてしまう。


「……やくざ?」


優斗くんが小声でつぶやく。
なぜかそれに吹き出しそうだった。


「ここにうちのもんが来てるって聞いたんですが」

「ええ、いますよ。おい肇、迎えきてんぞー」

「……なーんかすっげー恥ずかしいんですけど、おれもうすぐ三十路だよ?」

「連絡しないお前が悪い。お前になにかあったら」

「あーはいはい、わかったって。説教はもういいから。夜遅くまで仕事おつかれさん」

「……はぁ。長い友人と聞きましたけど、どこで肇と?」

「幼なじみですよ。っつっても中学以来の再会です」

「……なら安心だ。こいつは俺が目を離した隙によくイタズラをするガキで、面倒をかけたならすまなかった」


プフっと吹き出した亮雅に、おれは少しムッとした。


「心を開ける親しい友人がいなくて困っていたんだ。仲良くしてやってください」

「ええ、もちろん。それはお互い様ですよ」

「もう帰るぞ、肇」

「えー、せっかく幼なじみに会えたのに」

「いつでも会える。誰のためにレストラン予約したと思ってるんだ」

「はぁー、わかりましたよ。じゃーね」


口ではクールぶっていても、おれの心は有頂天だ。
頬が熱くて早々に亮雅宅を後にする。
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