薄明かりの下で君は笑う

ひいらぎ

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「____よかったなぁ、肇ちゃん。はやく退院できることになって」
診察の結果、おれは退院が決まった。
気分の悪さを抑える薬や痛み止めをもらい、目立つ障害がないか数回の通院で様子を見ることになった。
「なんかよくわかんないけど、手続きとか色々やってくれてありがとう。一輝さん」
「いいってことよ。あんま医療費の制度とか肇ちゃんにはよくわかんないっしょ」
「うん。紙もらったけど意味わかんなくて投げた」
「ははは、素直でよろしい」
「助かった、一輝。あとは俺がやる」
「おう、肇ちゃん泣かせんなよ?」
「ああ」
一輝さんと志野の関係は、男同士の友情というのを強く感じる。
おれも亮雅とそんな関係になりたかったのかもしれない。友情は、お金よりも得るのが大変だから。


「やっと帰れるぅ……」
「座席倒すぞ。枕敷くから」
「ん」
冷たい枕が首の後ろに敷かれる。
まだ気持ちが悪くて、あまり自由には動き回れない。
志野のサポートがないと当分は不便しそうだ。
「ぺんぺんぺん太~、ぺん太ぁ」
「いまは気持ち悪くないか?」
「ちょっとだけ、目が回ってる感じする……」
「そうか……しばらく安静だな」
「しの、ごめんね。おれ弱くて」
「弱くねえよ。肇は強いって何度も言っただろ」
「ううん、弱いよおれ。毎日幸せすぎて……どんどん弱くなる」
「……それでいいんだよ。力が強いものが守ればいい。力が弱いものは支援する側だ」
「支援できてる?  おれ」
「ああ、十分すぎるくらいにな」
「そか……ならよかった」
志野をサポートする側……
おれはそれを目指せばいいんだ。力が強い人間じゃなくて。
「あのね……志野」
「なんだ?」
「…………またごはん、作ってみたい」
「怖くないか?」
「怖い、けど。でもやってみたい……志野がおいしいって言ってくれなくても、がんばりたい」
「ふ、なら頑張ってみればいい。お前の料理は旨いって、俺が保証する」
「まだ食べてないじゃん」
「食わなくてもわかんだよ」
「うそだぁ~、こげこげの真っ黒にしてやる」
「目的変わってんぞ、ガキ」
「えへへー……なににしようかなぁ」
「からあげ」
「こげこげのからあげ」
「焦がすなよ、絶対」
「はぁ~い」
志野のためにできること、きっとたくさんある。それをがんばってみよう。


帰宅してすぐ、おれは志野の書斎からレシピ本をリビングに持ち出してきた。
「肇、そういや手は」
「動くようになってきたよ、ほら。グーパーできる」
「本当に一時的なものだったのか……よかった」
「しのたんは優しいでしゅね」
「赤ちゃんの面倒見るのは大変だ」
「あ、おれ怒った。お肉まるまる揚げよ」
「バカ野郎」
「志野ー、手貸してぇ。キッチンいきたい」
「首痛めてんだから今日無理しなくてもいいんだぞ」
「もぉ、心配性だな~。今日やってみたいの。おれ動き回ってないと死ぬんだよ」
「生きてんじゃねえか。本当に気分が悪くなったら無理するなよ?  殴るぞ」
「おっかなーい」
首に巻いている冷たいタオルのおかげで気持ちいい。ふらふらしないし、今ならおいしいからあげが作れる気がする。
「からあげってなんでこの名前か知ってる?」
「考えたこともなかった」
「から星人を揚げてるからなんだよ……びっくりだよね」
「……お前の頭にびっくりだよ」
「てへ、なんてね。中国の唐ってとこではじめて作られたからなんだって~」
「調べたのか?」
「うん、志野の書斎あさってたら見つけた」
「からあげの歴史なんて本買ったか……?」
「中国ってどこにあるの?  丸之内の近く?」
「高卒認定試験のテスト内容にあっただろ。中国はそもそも日本じゃない、海を隔ててる。俺たちと同じ言語は話さない」
「そういえばスマホで見たよっ、なんか変な言葉しゃべってた!  ハムラバヌエホントン!  みたいな」
「中国語がそれだよ。たいていは日本語で話しかけても通じないから気をつけろ」
おれは好奇心旺盛だ。
もっとたくさんの世界が見てみたいし、志野といろんな所へ行ってみたい。
死ぬまでにやりたいこと100。
おいしいプリンが食べられて、あったかい布団で眠られて、海に行くことができて、次はなにをしようかな。
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