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「綾くんこそ……その匂いはやめた方がいいと思うよ」
「におい?」
道明寺さんに言われて自分の袖を匂ったけど、べつに汗くさくはない。
「おれ、くさくないですよ?」
「香水だよ、香水。それはまるで不特定多数の男を誘っているフェロモンのようだ……きみの容姿に相まってね。だから僕は不可抗力だよ」
「…………」
「ちなみにこれはセクハラじゃない、無自覚そうなきみに忠告してあげてるんだっ……」
道明寺さんは落ちついたふりをしながら、内心焦っているようだった。
「……"ふかこうりょく"って、なに?」
「え」
「え?」
「……」
「それじゃあ、いまから撮影いきまーす」
志野はその合図で表情を変えた。
白の背景に丸イスに腰かけているだけなのに、いままで見てきた彼とはちがう。
うわぁ……かっこいい……
「やはり嵐川くんとは恋人関係かなにかか」
「そだよ。志野は彼氏」
「なるほどね……で、きみの名前は?」
「こわ……道明寺さん、しつこい人は嫌われるんだよ」
「きみが嘘をつくからだろう? 僕らはみんな本名を伝えているのにね」
「……なんでわかるの? おれが本名じゃないって」
少し警戒心が湧いてきた。
志野はおれの名前を事前に伝えていないはずだ。それに酒井さんも伝えているそぶりがなかった。
なのにどうして、嘘だと言いきれるのか。
「はぁ……まるで僕を危険人物と見なしている顔じゃないか。警戒心がむき出しだよ」
「おれ、あんたのこと知らない」
「僕も知らないよ。同行者がいるとは聞いていたけど、嵐川くんは名前まで言わなかったしね」
「じゃあおれが嘘を言ってるかなんて……」
「きみは天然か?」
「天然……?」
天然記念物? おれが?
「きみのその首にかけているものはなんだい。偽名は使えないはずだよ」
「……」
道明寺さんの言葉に、おれは自分の首にかけている名札を見てみた。
『利用者:米津肇』とある。
「…………あらま」
「ドがつく天然だね、きみは」
「おれは天然記念物じゃない」
「そういう意味じゃない。まぁ、ある意味ではそうかもしれないね。ははは、久しぶりにおもしろい子に出会えて嬉しいよ」
名札の存在を完全に忘れてた。はずかし。
というか、名前を見て確認できたなら名前聞く必要ないじゃないか。
どーみょーじさんのバーカ。アホ。まぬけ。
「羨ましいものだね、嵐川くんは。こんなにおもしろい子といつも一緒だなんて」
「べーっ」
「子どもか、きみは。そういえばいくつなんだ? 見た目からして20代前半くらいだろうけど」
「28ですぅ」
「28……っ? 嘘だろう。きみは後半にとても見えない」
「なんかいつもそれ言われる。同い年の友だちにもベビーって言われたし」
「あながち間違いではないな」
ベビーじゃないし!
もうすぐ三十路だし! 亮雅のハゲ!
「みょうに色気があると思ったらそういうことか……なら納得だ」
「ばーか、ばーか」
「非常に残念だよ……きみがフリーなら、僕がしつけというものを教えてあげられたのに」
「セクハラおやじ」
「ふふ、そんなことを言っているけど僕のテクニックに落ちないものはいない。きみだって僕なしで生きていけなくなってしまうかもしれないよ……?」
ぶるっと身震いがして志野の方に視線を逃がす。
おれは志野じゃなきゃダメだ。痛くても気持ちよくても、相手は絶対に志野がいい。
「志野の方が100倍いい」
「試してみたいものだね、きみが本当に彼だけを求めているのかどうか……」
「道明寺さん」
休憩中の志野がこちらにきた。
それもいまにもブチ切れそうな形相で。
「あんたうちの連れになに色目使ってんだ……世話になってるとはいえ、1ミリでも手出したら骨折るぞ」
「おいおい、やめてくれよ嵐川くんっ、ただの冗談だ。大切な客人に手は出さないさ」
「警告しておきますよ。そいつは俺の命より大事なもんだ」
「お、OKOK……心得ておこう」
「ぷふーっ、どーみょーじさん怒られてるっ」
「しつけを免れたからって調子に乗るのはよくないよ、肇くん。きみを狙っている連中はうじゃうじゃいる。特にその香りは十分に気をつけた方がいい。そんな匂いを漂わせて、自分から誘ってるようなものじゃないか」
おれに気があったことをあっさり認めた。それもおれのせい。
「志野ー、この人おれをくさいくさい言ってくる。道明寺さんの香水だって変なにおいなのに」
「肇、正直にいうと俺もその香水はやめさせようか悩んでいた」
「え、ひどい。志野までおれをビッチな誘い受けだと思ってるんだ」
「ちげーよ。本能的に男が好きだと感じる匂いだからだ。まじで襲われたらどうする」
「んー、じゃあ香水変えよかな。志野これ好きだから気に入ってたのに」
「……」
志野に欲情してもらえるのは嬉しいけど、またあのときのような危険な目には遭いたくない。
素直に変えるしかないか。
「におい?」
道明寺さんに言われて自分の袖を匂ったけど、べつに汗くさくはない。
「おれ、くさくないですよ?」
「香水だよ、香水。それはまるで不特定多数の男を誘っているフェロモンのようだ……きみの容姿に相まってね。だから僕は不可抗力だよ」
「…………」
「ちなみにこれはセクハラじゃない、無自覚そうなきみに忠告してあげてるんだっ……」
道明寺さんは落ちついたふりをしながら、内心焦っているようだった。
「……"ふかこうりょく"って、なに?」
「え」
「え?」
「……」
「それじゃあ、いまから撮影いきまーす」
志野はその合図で表情を変えた。
白の背景に丸イスに腰かけているだけなのに、いままで見てきた彼とはちがう。
うわぁ……かっこいい……
「やはり嵐川くんとは恋人関係かなにかか」
「そだよ。志野は彼氏」
「なるほどね……で、きみの名前は?」
「こわ……道明寺さん、しつこい人は嫌われるんだよ」
「きみが嘘をつくからだろう? 僕らはみんな本名を伝えているのにね」
「……なんでわかるの? おれが本名じゃないって」
少し警戒心が湧いてきた。
志野はおれの名前を事前に伝えていないはずだ。それに酒井さんも伝えているそぶりがなかった。
なのにどうして、嘘だと言いきれるのか。
「はぁ……まるで僕を危険人物と見なしている顔じゃないか。警戒心がむき出しだよ」
「おれ、あんたのこと知らない」
「僕も知らないよ。同行者がいるとは聞いていたけど、嵐川くんは名前まで言わなかったしね」
「じゃあおれが嘘を言ってるかなんて……」
「きみは天然か?」
「天然……?」
天然記念物? おれが?
「きみのその首にかけているものはなんだい。偽名は使えないはずだよ」
「……」
道明寺さんの言葉に、おれは自分の首にかけている名札を見てみた。
『利用者:米津肇』とある。
「…………あらま」
「ドがつく天然だね、きみは」
「おれは天然記念物じゃない」
「そういう意味じゃない。まぁ、ある意味ではそうかもしれないね。ははは、久しぶりにおもしろい子に出会えて嬉しいよ」
名札の存在を完全に忘れてた。はずかし。
というか、名前を見て確認できたなら名前聞く必要ないじゃないか。
どーみょーじさんのバーカ。アホ。まぬけ。
「羨ましいものだね、嵐川くんは。こんなにおもしろい子といつも一緒だなんて」
「べーっ」
「子どもか、きみは。そういえばいくつなんだ? 見た目からして20代前半くらいだろうけど」
「28ですぅ」
「28……っ? 嘘だろう。きみは後半にとても見えない」
「なんかいつもそれ言われる。同い年の友だちにもベビーって言われたし」
「あながち間違いではないな」
ベビーじゃないし!
もうすぐ三十路だし! 亮雅のハゲ!
「みょうに色気があると思ったらそういうことか……なら納得だ」
「ばーか、ばーか」
「非常に残念だよ……きみがフリーなら、僕がしつけというものを教えてあげられたのに」
「セクハラおやじ」
「ふふ、そんなことを言っているけど僕のテクニックに落ちないものはいない。きみだって僕なしで生きていけなくなってしまうかもしれないよ……?」
ぶるっと身震いがして志野の方に視線を逃がす。
おれは志野じゃなきゃダメだ。痛くても気持ちよくても、相手は絶対に志野がいい。
「志野の方が100倍いい」
「試してみたいものだね、きみが本当に彼だけを求めているのかどうか……」
「道明寺さん」
休憩中の志野がこちらにきた。
それもいまにもブチ切れそうな形相で。
「あんたうちの連れになに色目使ってんだ……世話になってるとはいえ、1ミリでも手出したら骨折るぞ」
「おいおい、やめてくれよ嵐川くんっ、ただの冗談だ。大切な客人に手は出さないさ」
「警告しておきますよ。そいつは俺の命より大事なもんだ」
「お、OKOK……心得ておこう」
「ぷふーっ、どーみょーじさん怒られてるっ」
「しつけを免れたからって調子に乗るのはよくないよ、肇くん。きみを狙っている連中はうじゃうじゃいる。特にその香りは十分に気をつけた方がいい。そんな匂いを漂わせて、自分から誘ってるようなものじゃないか」
おれに気があったことをあっさり認めた。それもおれのせい。
「志野ー、この人おれをくさいくさい言ってくる。道明寺さんの香水だって変なにおいなのに」
「肇、正直にいうと俺もその香水はやめさせようか悩んでいた」
「え、ひどい。志野までおれをビッチな誘い受けだと思ってるんだ」
「ちげーよ。本能的に男が好きだと感じる匂いだからだ。まじで襲われたらどうする」
「んー、じゃあ香水変えよかな。志野これ好きだから気に入ってたのに」
「……」
志野に欲情してもらえるのは嬉しいけど、またあのときのような危険な目には遭いたくない。
素直に変えるしかないか。
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