異世界へようこそ

飛狼

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第二章 森都グラナダ

◇揣摩憶測(しまおくそく)という難しい言葉を聞いたことがあるけれど。

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 ――むぅ、ひまだぁ。

 俺は少々、暇を持て余していた。
 それでは取り敢えずという事で、カリナに案内されて一室に連れていかれたものの、その後は、何の音沙汰もなく放っておかれたままになっていたからだ。
 俺が連れていかれたのは、屋敷の側にある離れ。そこは本邸とは別棟の二階建ての建物だ。その中にある何の変哲もない一室だった。
 石壁が剥き出しの部屋の中には、簡易ベッドがひとつと机と椅子がひとつずつあるだけだ。そのベッドにごろりと寝転び、やることもなくぼけっとしていた。

 タンガ達、一緒に行動していた獣人達は、このサンタール家の屋敷内に自分達の部屋があるという事なので、一旦別れた。そのタンガも、「また後でな」と言っていたが、それ以来音沙汰無しである。
 だからと言って、勝手に歩き回る訳にもいかず、手持ち無沙汰に窓から外を眺めるぐらいしか、やる事がなかった。窓から眺める庭は見事に整備されていて、日本の有名な庭園にも負けないほどの風情があった。
 さすがは、エルフが住み暮らす屋敷の庭だなと、感心したりしていた。
 その庭園も、今は茜色に染まろうとしている。
 屋敷に到着したのは昼過ぎだったのに、今はすでに夕刻をまわろうとしていたのだ。

 ――それにしても、弟さんが危篤とか言ってたが……。

 屋敷内もそのためか、どこか慌ただしい雰囲気があった。

 ――弟さんは病気でも患っていたのかなぁ。

 また、運の悪い時に来てしまったものだ。可哀想だとは思うが、俺にとっては会った事もない人。そこまで親身になって考える事は出来ない。それよりも、これから先の事の方が、俺にとっては大事な事なのだから。
 この一週間、サラ達と共に過ごしたが、やはり思っていた通りこの国の文化レベルは中世の頃と、大した違いはなさそうだ。まだ、ちゃんとした料理を食べた事はないが、今まで食べた食事はたんに肉を焼いたもの。或いは、多少の塩味を効かした穀物のスープ。それに、石のように固いパンだ。日本の贅沢な料理に慣れ親しんだ俺には、辛いものがある。
 この屋敷での食事は、まだ増だと思うが……。

 ――はぁ……ジャンクフードの数々が懐かしい。

 テレビなんて無さそうだし、皆は何を楽しみに生活してるのだろうな。それとも、生活していくだけで精一杯で、そんな事を考える暇もないのか。
 このまま、この世界で暮らすなんて、とても俺には出来そうもないよ。

 ――くそっ、何が豪華な商品なもんか!

 またしても、『ゼノン・クロニクル』を運営していた企業、『アッシュル』に向かって呪詛を吐き出しながら、どうすれば帰れるのか考える。
 そうなるとやはり、あの黒いモノリスが気になる。なんといっても、『アッシュル』の社章が刻まれていたのだから。
 しかし、あれがゲーム内と同じような隠しダンジョンに繋がるなら、高レベルのモンスターが徘徊しているはず。だとしたら、ダンジョンに潜るにはカンストに近い能力が必要なのだ。今の俺には、とても無理な話。だからといって、カンストに近い能力まで鍛えようと思っても、それまでに数多くの魔獣と戦わなければいけない。
 あの半年にも及ぶ、『ゼノン・クロニクル』での戦い。その中で、何度も死に戻っていたのだ。それはゲームだから出来た事。この世界で、果たして……。

 この事は船の中でも、何度も考えていた。そして、最後も同じく、「はぁ」とため息を吐き出してしまう。

 それにしても、誰も来ないな。弟さんが危篤とか言ってたし、そっちの方が急がしいんだろうけどさ。もしかして、俺の事なんか、忘れられてたりして……。
 腹も少々減ってきたので、さすがにこれ以上待っていられないと、部屋の扉からそっと顔を出す。そして、廊下を見渡そうとするが、ちょうど目の前を歩いていた若いヒューマンの女性と目が合った。

「ひぃっ!」

「あっ、ごめん」

 驚く女性に頭を下げて謝るが、その女性は不審気な様子で尋ねてくる。

「えっと、そこは空き部屋のはずだけど……あなたは誰ですか?」

 怪訝な様子を見せるその女性は、濃紺のワンピースに、フリルの付いた白いエプロンを身に着けてる。いかにも、ザ・メイドといった格好をしているヒューマンだった。それに、栗色の髪にまだ幼さの残る顔立ちは、どこかカリナに似ていた。そう、カリナを勝ち気にしたような顔をしていたのだ。

「あっと、俺は……」

 そういや、俺はここではどういった扱いになってるのだろう。客という訳でもないし……。

「……怪しいわね。ここは、私達サンタール家で働く者が寝起きする場所よ。見たところヒューマンのようだけど、新人……ってなわけないわね。ここで暮らすヒューマンは、代々サンタール家にお仕えしてる者達。という訳で、あなたは盗賊ね、お覚悟!」

 そのメイドがスカートの中から小剣を取り出すと、行き成り斬り掛かってきた。

 ――おぉ、なにこの娘。

 勝手に独り合点して斬りつけるとか、思い込みが激しいにも程があるよ。

 しかし、幼い娘にしては、その剣風は意外と鋭い。横に薙いできた小剣は、的確に喉を狙ってくる。それを、辛うじて仰け反って躱す。

 ――ま、マジかよ! 殺す気かよ!

 しかも、その小剣の後を追って左脚を鞭のようにしならせ、上段の回し蹴りが首を刈りにくる。

 ――ちょっ、うっそ!

 俺は咄嗟に、【瞬速】のスキルを使って屈むが、体を一回転させたメイドの小剣の突きが更に迫ってくる。それを、後ろに転がって躱す。

 ――やだ、なにこの娘。怖すぎるわ。

「ちょっ、ちょっと待て! 俺の話を聞け!」

「盗賊の言葉なんて、聞く耳持たないわ。問答無用よ!」

 いや、そこはちゃんと人の話を聞こうよ。

 メイドの娘は、更にスカートの中からもう一本の小剣を取り出すと、両手に携える。

 何々、この娘、二刀流とか普通はあり得ないでしょ。
 俺もゲームの中で、二刀を扱っていたからよくわかる。二刀流は、結構難しい。生半可な、技術では扱えない。

 もしかしてこのメイドさんは、いざというときに敵と戦う事もできる戦闘メイドとか、そんな感じですか?

「ヒューマンのくせに、意外とやるわね。こう見えても、私は猫人族の血が半分は混ざってるのよ」

 戦闘メイドさんが、両手の小剣をぎらつかせて迫ってくる。
 俺の話を聞こうとしない、この戦闘メイドさんには困ってしまうが、だからといって手を出す訳にもいかない。

「だから、人の話を最後まで……」

「問答無用! お覚悟!」

 ――うひょぅ!

 二本の小剣が迫ろうとした時に、廊下から声が響いた。

「ちょっと、カイナ! 何してるのよ!」

「あっ、お姉ちゃん! 良いところに来たわ。泥棒よ!」

 部屋の隅に俺を追い込んでいた戦闘メイドさんが、後ろを振り返る。後ろの廊下からは、カリナさんが顔を覗かせていた。

「何を言ってるのよ。その人は、私が案内してきたのよ」

 カリナがつかつかと部屋に入ってくると、腰に手をあて戦闘メイドさんを睨んでいた。

「……えっ……えぇぇぇぇぇ!」

 戦闘メイドさんは、俺とカリナさんをきょろきょろと見比べ視線を彷徨わせていた。

 ――ふぅ、助かった。

 それにしても似てると思ったが、この二人はやっぱり姉妹だったのか。しかし、性格は真逆、正反対のようだ。
 ほっとして体の力を抜いていると、カリナだけで無く、その後からサラが部屋の中へと入ってきていた。
 戦闘メイドさんは、それを見てぎょっとしている。だが、そんな部屋の中の空気も読まず、サラは思い詰めた表情を浮かべて俺に近付いてくる。

「私に力を貸してくれ。あの……あの薬をまだ持っているなら……分けてもらえないか、頼む」

 いや、空気を読む余裕がないようだ。何故なら、普段は無表情なその顔を歪めて、懇願するように言ってきたからだ。

「……別に、それは構わないが……」

 多分、危篤だと言っていた弟さんに使いたいのだと思う。
 しかし、果たして……。
 確かに、霊薬は最高級の万能回復薬。しかし、それはゲームの中での話。この現実世界で……例えば、死病等といったものに果して効くのだろうか。

 ――もし、効かなかったら……。

 サラはまだ良いとしても、この街の評議委員だという父親は……。
 期待してたのに失敗した時は、その期待の分だけ非難を向けてくるのが人という生き物の常。それが生死に関わる事なら……霊薬が効かなかった時には、俺の事を詐欺師扱いにして罪に問われ兼ねない。

「取り敢えず、一度……その弟さんを見せてもらえるかな」

 だが、もしも助ける事が出来る命なら……助けたいとも思う。

「……分かった。私に付いてきてくれ」

 やはり、俺は甘いのかな。
 俺はそんな事を考えながら、サラに案内されて弟さんの元に向かった。
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