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第一章
止められない思い
「南くん?」
どうやったら先生ともっと近づけるのか、自分のモノに出来るのかと邪な考えについつい浸っていると、先生が心配そうに俺の顔を覗き込んで来た。
「……っ」
間近にある紫藤先生の顔。
く、唇が……っ! 俺のすぐ近くに!
「あ、や。何でもない! そろそろ授業始まるから教室戻らないとっ」
危うく紫藤先生の唇に吸い寄せられそうになるところを、ギリギリすんでのところで俺は踏みとどまった。おかげで普段以上に大声になって、先生をびっくりさせてしまった。
「南く……」
「じ、じゃあなっ」
ピシッと片手を上げて慌てて準備室を飛び出した。そしてすぐに扉を閉めてその場にしゃがみ込む。
……やべぇ。
俺このままだと、いつか無意識に先生の唇奪いそうだ。
ハアッと思いっきりため息を吐いてガシガシと乱暴に頭を掻いた。
そしてゆらりと立ち上がり、熱くなった頬にパタパタと風を送りながら、俺は教室へと戻った。
「なっげぇ便所だな」
「なわけねぇだろ。ちょっと寄り道してた」
「何? 可愛い子でもいたか?」
「……まあなー」
きっともう、どんなに可愛い子が傍に居ても、先生への気持ちを止めることは出来ないような気がする。
それなら――、
先生への気持ちを止められないのなら、先生に思いを伝えてみようかな……。
紫藤先生なら、気持ち悪がらないで俺の気持ち、ちゃんと聞いてくれるような気がするし。
帰宅部の俺は、利一と別れて家に帰ろうと思い、ふと思い立つ。
もしかしたら準備室に紫藤先生がいるかもしれない。
そう思ったら、もうそこをスルーすることも出来なくて俺の足は自然と先生の準備室に向かっていた。2年の教室を通り抜けて、先に進む。物理の準備室が見えてきたところで、廊下の向こうから紫藤先生が歩いてくるのが見えた。
途端にドキドキと心臓が早鐘を鳴らせ始める。
と、ほぼ同時に、先生が後ろを振り返った。どうやら誰かに呼び止められたみたいだ。俺の位置からは、俺と紫藤先生の間に行きかう数人に阻まれて、先生が誰に呼び止められたのかが見えなかった。
俺は体をずらして、先生の背後にいる人物を覗き込んだ。
あいつ……!
浜中じゃん!!
俺がビックリして凝視しているのに、紫藤先生は相変わらず柔らかな表情で浜中に対応している。
何? どういう事?
こないだ、あんなセクハラ紛いなことをされていたのに先生の頭の中では無かったことになっちゃってんの?
……ありえねぇ。
ムカついて、腹の底から沸き上がる苛立ちのような気持ちがどうしても抑えられなくて、俺は気が付いたら先生らが話しているところまでスタスタと近寄って浜中を睨みつけた。
「何してんだよ」
背後からの俺の声に紫藤先生が振り返る。そして俺の怒った顔を見て一瞬目を丸くしたけれど、すぐに困ったように微笑んだ。
「浜中先生のクラスの子の話をしていたんだよ」
「え?」
……本当に?
あの時の浜中の姿が脳裏から離れない俺は、疑念の詰まった目で浜中を見上げた。浜中は、一瞬苦い顔をしたが「業務連絡だ。同じ学年を教えているんだから情報の共有や相談とか必要なんだよ」と、偉そうに腰に手を当てて面倒くさそうに答えた。
「じゃあ、待っててやるからさっさと済ませろよ」
まあ、確かに。
こんな人の多い廊下では、いくら浜中でも先生をどうにかしようだなんて思わないだろう。だけど浜中が先生に邪な思いを抱いているのは間違いないから、俺も俺に出来る目いっぱいなふてぶてしさで浜中に対抗した。
「待っててやるって、なんだお前」
眉を寄せて怪訝な顔をする浜中。
知った事か!
「物理、教えてもらうんだよ。生徒のやる気、潰すな」
「お前……っ」
悔しそうな顔をする浜中に溜飲が下がる。心の中で舌を出していると、隣から柔らかな声が降って来た。
「嬉しいな。南君は勉強熱心なんだね」
「うん、俺勉強熱心なんだ」
そう言って笑うと、紫藤先生も嬉しそうに笑い返してくれた。
どうやったら先生ともっと近づけるのか、自分のモノに出来るのかと邪な考えについつい浸っていると、先生が心配そうに俺の顔を覗き込んで来た。
「……っ」
間近にある紫藤先生の顔。
く、唇が……っ! 俺のすぐ近くに!
「あ、や。何でもない! そろそろ授業始まるから教室戻らないとっ」
危うく紫藤先生の唇に吸い寄せられそうになるところを、ギリギリすんでのところで俺は踏みとどまった。おかげで普段以上に大声になって、先生をびっくりさせてしまった。
「南く……」
「じ、じゃあなっ」
ピシッと片手を上げて慌てて準備室を飛び出した。そしてすぐに扉を閉めてその場にしゃがみ込む。
……やべぇ。
俺このままだと、いつか無意識に先生の唇奪いそうだ。
ハアッと思いっきりため息を吐いてガシガシと乱暴に頭を掻いた。
そしてゆらりと立ち上がり、熱くなった頬にパタパタと風を送りながら、俺は教室へと戻った。
「なっげぇ便所だな」
「なわけねぇだろ。ちょっと寄り道してた」
「何? 可愛い子でもいたか?」
「……まあなー」
きっともう、どんなに可愛い子が傍に居ても、先生への気持ちを止めることは出来ないような気がする。
それなら――、
先生への気持ちを止められないのなら、先生に思いを伝えてみようかな……。
紫藤先生なら、気持ち悪がらないで俺の気持ち、ちゃんと聞いてくれるような気がするし。
帰宅部の俺は、利一と別れて家に帰ろうと思い、ふと思い立つ。
もしかしたら準備室に紫藤先生がいるかもしれない。
そう思ったら、もうそこをスルーすることも出来なくて俺の足は自然と先生の準備室に向かっていた。2年の教室を通り抜けて、先に進む。物理の準備室が見えてきたところで、廊下の向こうから紫藤先生が歩いてくるのが見えた。
途端にドキドキと心臓が早鐘を鳴らせ始める。
と、ほぼ同時に、先生が後ろを振り返った。どうやら誰かに呼び止められたみたいだ。俺の位置からは、俺と紫藤先生の間に行きかう数人に阻まれて、先生が誰に呼び止められたのかが見えなかった。
俺は体をずらして、先生の背後にいる人物を覗き込んだ。
あいつ……!
浜中じゃん!!
俺がビックリして凝視しているのに、紫藤先生は相変わらず柔らかな表情で浜中に対応している。
何? どういう事?
こないだ、あんなセクハラ紛いなことをされていたのに先生の頭の中では無かったことになっちゃってんの?
……ありえねぇ。
ムカついて、腹の底から沸き上がる苛立ちのような気持ちがどうしても抑えられなくて、俺は気が付いたら先生らが話しているところまでスタスタと近寄って浜中を睨みつけた。
「何してんだよ」
背後からの俺の声に紫藤先生が振り返る。そして俺の怒った顔を見て一瞬目を丸くしたけれど、すぐに困ったように微笑んだ。
「浜中先生のクラスの子の話をしていたんだよ」
「え?」
……本当に?
あの時の浜中の姿が脳裏から離れない俺は、疑念の詰まった目で浜中を見上げた。浜中は、一瞬苦い顔をしたが「業務連絡だ。同じ学年を教えているんだから情報の共有や相談とか必要なんだよ」と、偉そうに腰に手を当てて面倒くさそうに答えた。
「じゃあ、待っててやるからさっさと済ませろよ」
まあ、確かに。
こんな人の多い廊下では、いくら浜中でも先生をどうにかしようだなんて思わないだろう。だけど浜中が先生に邪な思いを抱いているのは間違いないから、俺も俺に出来る目いっぱいなふてぶてしさで浜中に対抗した。
「待っててやるって、なんだお前」
眉を寄せて怪訝な顔をする浜中。
知った事か!
「物理、教えてもらうんだよ。生徒のやる気、潰すな」
「お前……っ」
悔しそうな顔をする浜中に溜飲が下がる。心の中で舌を出していると、隣から柔らかな声が降って来た。
「嬉しいな。南君は勉強熱心なんだね」
「うん、俺勉強熱心なんだ」
そう言って笑うと、紫藤先生も嬉しそうに笑い返してくれた。
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