僕の王子様

くるむ

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第六章

僕の王子様

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ステージ横ではテンパる僕を心配してくれて、担当の上級生が代わりに僕のことを紹介してくれているようだ。
――ようだ、というのは、ほぼ頭の中が真っ白になっている僕には詳細が耳に入ってこれなくなっているからだ。

「それではー、曲流します! どうぞー」

かなりの大声でコールされて、ハッとした。
それとほぼ同時に『もふもふワンダー』の曲が流される。


♪♪もっふ、もっふ、もふもふワンダー♪♪
♪♪もっふ、もっふ、もふもふワンダー♪♪


あ……、ええっと……。
…………。

ど、どうしよう……。
頭が真っ白になって、踊りが思い出せない……!!


真っ青になって狼狽える僕に、周りのざわつく声が聞こえて来た。


「しっかりしろ―! なにやってんだー」

おたおたする僕に浴びせられるようしゃない声。

ううん、もしかしたら激励なのかもしれないけど、今の僕にはそんな風に受け止める余裕は無かった。
手のひらからにじみ出る汗。背中にも、緊張し過ぎて嫌な汗が伝っていく。


『動き小さすぎないか? 2人とも、恥ずかしいのが先に立ってんだろ?』

『こういう時は開き直って踊り切った方が、却って恥ずかしさも吹き飛ぶもんだぞ? 見てる方も一緒に楽しむから可哀そうにって思われることもないし、白けられることもない』

不意に、高橋君と僕にダンスの指導をしてくれた時の礼人さんの言葉が脳裏に浮かんだ。


「…………」

このままじゃいけない、な……、何とか振り切って、何とかしなくちゃ。

強張る体。ギクシャクと動かない腕や足。
必死でそれに叱咤して、腕を伸ばそうとした時――、


「キャアアー―――!」
「ええっ! 嘘! すごっ!!」
「はあっ!? なんだあいつ!」


……え?

突然変わった周りの雰囲気に、なにがなんだか分からなくておたついた。
そして、真っ赤な顔で嬉しそうに壇上を見上げる女子に首を傾げる。

傾げて……、視線の先を追って後ろを振り向くと。


「高橋の代打だ」

そう言って、王子様な圭一の衣装を身に纏ってニヤリと笑う礼人さんが立っていた。
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