悪行を重ねた令息は断罪されたくないので生き方を変えました。誰の愛も欲しがらないと決めたのに、様子がなんだか変なんです

くるむ

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第二章

楽しんでる?

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 そろそろ入場する時間ということで、僕らはペア同士、一列に並んで待機した。特に意味はないのだけど、僕とエイドリアンは三番目。エリックとフローラ嬢はそのすぐ後ろ、四番目に並んだ。
 
「エリック、フローラ嬢も。緊張するけど、頑張って楽しもうね」
「はい!」
「はい」

 よし!と気合を入れて前を向いたら、エイドリアンと目が合った。あまりに優しいそれにドキリとする。
 色っぽいとかそういうのとは全く違って、僕らを本当に可愛いと思ってくれているような慈しむ瞳だ。

「入場します。温かい拍手でお迎えください」
 司会を務める上級生の、入場を促す声が聞こえてきた。

 ドキドキしながらも、僕の手を握ってくれるエイドリアンの手の温かさに励まされながら入場した。

 このコンテストは二曲踊ることになっている。最初はスローな曲で、二曲目はテンポの良い曲だ。それらの二つを見て、客はどのペアが良かったかを投票する。

 それぞれの組が任意の位置に着いたとき、曲が奏でられた。
 僕の背にまわっているエイドリアンの手のひらに力が加わる。それを合図に、滑らかなステップを繰り出す。フロアを縦横無尽に移動しながら、僕はエイドリアンの凛とした表情に見惚れた。

 そんな表情を見ていて、もしかしたらエイドリアンは僕の道しるべ的存在なのかもしれないなんて思った。
 みんなからはぐれ迷子になり、自分の欲求だけを満たそうとして余計に誰にも相手にされなかったときも、やり直したいと切に願っていた時も、エイドリアンは変わらずそばにいてくれた。

 ……エイドリアンだけだった。

「楽しんでるか?」
「はい」
「それはよかった」

 エイドリアンは視線を合わせ、キスでもできるんじゃないかと思うくらい顔を近づけてきた。
 どこからかキャー、という悲鳴が聞こえてくる。

 恥ずかしいじゃないかという思いからエイドリアンを睨むと、彼は楽しそうに笑うだけだった。そして、タイミングよく(悪く?)ここで曲が終わった。

「もう! エイドリアンったら!」
「ハハハ、わるいわるい。あんまり可愛いからさ」

 30秒ほどしたらまたすぐ曲がかかるということで、僕はその場で待機した状態での文句になっていた。
 その間に、各ペアへの声援も飛び交っている。

「エイドリアン様、ショーン様、素敵です。次も頑張ってください!」

 あまりの大声にそちらを振り返ると、ヨハンとマシューがブンブンと手を振っていた。隣には兄上とレオお兄様。それとキャトリン嬢にタイソンと見知らぬ令嬢がいる。おそらくその彼女がリリーベル嬢なんだろう。
 
「頼もしい声援だな」
「……そうですね」

「エリックー、フローラも可愛いわよ。頑張って!」
 キャトリン嬢の声援に、フローラ嬢はほっとしたように微笑んだ。

 それからまた、曲が流れてきたので僕らはまたステップを踏み出す。
 先ほどよりも緊張がほぐれたせいか、今度はさっきよりも積極的に楽しむことができた。軽快にエイドリアンにリードされながらフロア中を駆け巡る。
 時折視界に入る観客の楽しそうな顔も、力強いエイドリアンの腕も何もかもが僕の気持ちを躍らせた。


 そして投票の結果、一位は上級生のシュパルツ、サイモンペア、僕らは二位で、エリックたちは四位という結果に終わった。
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