幼児化した闇魔術士は聖騎士に溺愛される

くるむ

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第四章

イアンが足りない

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 ほっぺをさわられる感触で目が覚めた。重い瞼を開けると、きらめく青い瞳がじっとこちらを見ている。目が合うと、とろけるような甘い表情に変わった。

「おはよう」
「お、おはよう」
 ウィルに、嬉しそうに俺の顔を見続けられてさすがに恥ずかしくなったので、俺の方から視線を外した。

「うわっ!」
 視線を外した途端、急に抱き寄せられてびっくりした。

「び、びっくりさせんな」
「イアンが足りない」
「は?」
 ふざけたことを言いながらぎゅうぎゅうと抱きしめてくるものだから、ちょっと息苦しい。
 パンパンと、ウィルの腕を強めに叩いて放せと訴えた。

「つれないな」
 腕の角度を変えたことで息苦しさは少し減ったが、それでもまだ苦しいのに変わりはなかった。ぎゅぎゅぎゅと全力でウィルの体を押して離した。

「苦しいんだよ、馬鹿力」
 えっ? と驚いた表情をした後、俺をじっと見て、「すまん、つい」と謝り、ウィルは腕の力を抜いた。

「……昨日は久々に長時間のデスクワークで疲れたから、イアンの笑顔を見たかったんだよ。『お帰り』って迎えてもらいたかったんだ。だから、……癒しが足りなくてだな。でもそれも、私の身勝手だった。すまん」

 癒しって……。
 本当にこいつ変わってる。俺のどこにそんな要素があるんだか。ちっこいってだけなら、どこのガキでも一緒なのに。でも、
 悪くないと思っちゃってるんだよな、俺も。

「い、一応世話にもなってるんだし……力加減考えてくれるんなら、別に構わないぞ」
「本当か?」
 目をキラキラさせて、顔をパッと明るくするものだから、だんだん恥ずかしくなってきた。だけどウィルが期待に満ちた目で俺を見るから、こくんと頷いて手を広げてみた。

 一瞬目を大きく見開いたウィルは、じわじわとまなじりを下げてそれから大きく手を広げた。俺の要望通りに力を抜こうと思ったんだろう。ゆっくりとゆっくりとその両腕を俺の体に回して、包み込むような暖かさで俺を抱きしめた。

 ウィルの体温が、硬く鍛え上げられた筋肉が、俺をすっぽりと包む。
 とても気持ちがよくて、無意識にウィルの肩に頬をすり寄せていた。ピクッとウィルの肩が揺れて、はっと我に返った。

「ち、ちが……今のは……っ」
 離れようとする俺を、ウィルがきゅっと腕に力を込めて止めた。

「いいからもうちょっと堪能させてくれ。今日は一日気の張る任務が待っているんだ。イアンがまだ足りない」
「足りないって……あとどんくらいだよ」
「うん、もう少し」

「なあ、」
「うん、もう少し」

「おい」
「もうすこ……」
 コンコン。
 ドキッとして離れようとしたのだけど、ウィルの腕は緩まなかった。

「失礼します。ウィルフレッド様、起きてらっしゃいますか?」
 マーサの声だった。

「大丈夫だ、すぐ起きる」
 一瞬キュッと俺を抱く腕の力を強くした後、パッと体を離した。そしてふうと息を吐き出す。

「今日はいつもより早く出ないといけないんだった。――まだ早いから、ルアンはもう少しのんびりしてていいぞ」
「えっ、……うん」

 ウィルは俺の頭を軽く撫でてからベッドを下り、ドアに向かった。

「パレード見に行くからな!」
 思わず声をかけた俺に、ウィルは一瞬立ち止まって振り返った。

「約束、ちゃんと守れよ」
「わかってる……! メガネちゃんとかけて、2人に引率してもらう」

 真面目にそう返すと、ウィルは笑ってサムズアップをして部屋を出て行った。
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