自分の存在

アイザワ

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人面獣心 ~真実と記憶~

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 物凄い激痛が身体中に走り回っているのか、大声を出してその痛みを殺そうとしている。腹部には刺された痕があり、大量出血しているのが窺える。そして彼は救急車に運ばれた。
 
 あれから2ヶ月が経った今日、俺は残酷な真実を知ることとなった…。
 警察官の方に呼ばれ、俺は机と椅子しかない殺風景な個室に招き入れてもらった。
 「今から言うことを冷静に聞いてほしい。」
 1人の警察官からそう言われた。
 
 山極拓哉、彼は真面目で先輩からも後輩からも慕われていた。また、彼には美紀子という妻が居り、相太という子供も居る。そんなある日の事である。韓国に短期出張することになった。彼の本音としては妻と子供に会えなくなるので行きたくはなかったらしい。最初は断ったのだが、尊敬するお人好しの田部部長が珍しく引けを取らず、どうしてもと頼まれ、仕方なく受け入れた。
 
 「気をつけてね。」
 妻からそんな優しい声をかけられ、うなずいた。そしてキスを交わし飛行場へと向かった。
 仕事場はとても大変だった。周りは殆どモノにならなかったし、そのくせたくさんの愚痴を吐く。それでも彼は真摯に対応して、2週間を乗り越えた。
 
 そして彼はクタクタになりながら家に帰ってきた。真っ昼間だった。俺は友達の家に遊びに行っていたからお父さんの帰宅には立ち会えなかった。たしか夕方の6時くらいだろうか、俺が家に帰ったら彼はこちらに笑顔を向けて
 「おかえりなさい。」
 と言ってきた。2週間とはいえ俺にとっては久々の再開だった。だからとても嬉しかった。だが、それ以降彼は何も話すことはなかった。
 
 次の日、俺はいつも通り高校に行っては授業を淡々とこなし、部活をして家に帰った。リビングに行くと俺よりも先にお父さん帰ってきていた。
 俺は驚いき、さらにその後の出来事に違和感を感じた。
 「めっちゃ仕事疲れたわ~。」
 と何度も言っていた。しかも洗面所にある洗濯機の中には普段あるはずの仕事着がなかった。
 だが彼はいつも通りの様子だったのであまり首を突っ込まないようにした。
 ところが、その出来事は次の日もその次の日も何日も続いた。俺は流石に不思議と思い、お母さんに聞いてみたがしっかり仕事に行っていると答えた。
 
 警察官の方はそんな事は無いはずだ、ちゃんと仕事場に行っていた証拠もあると応えた。
 
 警察官の話と俺の記憶の照らし合わせは続いた。
 
 また週末がやってきた。だから俺は友達と約束をしてデパートに行くことにした。俺はいつにも増してお洒落をして。昨日からずっとソワソワしてた。夜も眠れなかった。集合場所の時計台の下に行くと、もう既に友達が立っていた。
 レストランで食事をしたり、買い物をしたりとても幸せな時間を過ごした。
 時間が経つのは早かった。そしてもう18時30分を過ぎていた
 俺はこの時を待っていた。自然体に振る舞っていたつもりだが友達にはどう思われていたのだろう。
 友達が帰ろうと後ろを向いた瞬間、俺は友達の腕を掴み、
 「もっと一緒にいたい。だから俺と付き合ってください。」
 5秒くらいの沈黙が続いた。ただ立っているだけなのに鼓動がとても速くなっているのを感じた。
 彼女のこたえはYESだった。俺の心の中は花が一面に広がっている草原だった。
 そして彼女に「またね」と告げ、家へ帰った。
 
 「その途中だった。」
 俺は必死に過去を思い出した。
 
 既に周りは暗くなっていた。ドラマとかでよく出てきそうな一本道を歩いていた。
 すると、何かオトが聞こえた。少し距離が遠いのかあまりうまく聞き取れなかった。普段の俺なら怖がって足早に家に帰ろうとするだろうが、この日の俺は違った。
 自然と足がオトのする方へ向かっていった。
 徐々にそのオトが音へと変わっていった。そして、
 「がぁぁぁぁ‼︎」
 という罵声のような悲鳴のような声がはっきりと聞こえるようになった。
 俺はT字路を右に曲がった。
 息を呑んだ。
 俺の手足は震えていた。
 そして、心の中は赤と黒の地獄へと変化した。
 そこにはお父さんが血だらけで倒れていた。
 俺は走ってお父さんのそばに行き、震える手で腹を抑えた。
 「大丈夫?ねぇ、大丈夫‼︎」
 涙を流しながら声を出し続けた。
 
 「そのあと、通りがかりの男性が気付き、救急車を呼んでくれたってわけだね。」
 山極拓哉は今はもう目を覚めている。(だから今真実を知ることが出来ている。)だが、今は安定しているがいつ急変してもおかしくないと加藤医師が言っていた。
 「犯人って誰なんですか?」
 1番気になっていた部分を警察官に問いた。
 警察官はモゴモゴしながら何かを決心したように大袈裟にため息を吐いた。
 
 「山極美紀子だ。」
 
 目を丸くした。予想外の名前が出てきた。俺は呆然とした。
 冷静になるには少し時間が必要だった。警察官の方もそれを理解し、ずっと待ち続けてくれた。
 話を聞くと、お母さんとお父さんの尊敬する部長である田部智は不倫関係にあったらしく、お父さんが帰ってきた日にその2人が部屋にいるのを発見したのがきっかけらしい。
 お父さんは別れを切り出したが美紀子は猛反対。だが彼は意見を変えるつもりはもっぱらなかった。その為、その日以来ずっと別れの話を持ちかけていたらしい。しかも多額の不倫慰謝料を要求するだの、あーだの言い続けた。
 その結果、美紀子は勝てない、払えないと確信し、不倫相手の田部智に協力してもらい殺害を決行した。
 
 「そーですか……。」
 俺は曖昧な返事をした。
 その後、これからの生活について色々話を聞かされた。そして個室を出て、自由の身になった。
 
 今考えるとお父さんのおかしな行動はたくさんあった。だけどその時はあまり疑わなかった。てかそもそもお母さんのこともお父さんのことも全然知らなかった。知らないことだらけだ。
 俺ってなんなんだ。
 1番近くにいるはずの存在である俺はお父さんを救えなかった。思えば思うほど悔しく皮肉なものだった。俺ってこの世に存在する必要があるのか。
 ん?何か変だぞ。
 そうだ。お父さんが仕事場に行っていたのかという事だ。あれは明らかに曖昧で不明なままだ。
 しかも、警察官が言っていた。
 「まだ山極美紀子容疑者と田部智容疑者は行方不明のままだ。家にも仕事場にも何処にもいない。」
 と。
 
 まだ全てが解決されたわけじゃない。まだ真実が隠されている!
 
 
 俺の心は妬みと憎悪に満ち溢れた。そして…殺意も芽生えてきた——
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