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001-005【第一幕】転生した。経緯は省く

005 俺は殺されない

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「グレイアジルノーツ。我は大変偉い女神である。恐れずに崇めさない」に、対して。

「鼻の穴に数の子詰めてみろよ、なあ!?」の因縁がある女神だった。そうなった経緯は興味ないだろ? だから省くけど。

 民家の中にて村人の面前に現れた女神は、俺を見た途端に神々しさを失った。その聖職業の汚点になるような怪訝な顔を作った。そしたらまた上空へ帰ろうとした。

「グ、グレイアジルノーツ様!!」

 警察官と村の衆が引き止めようとしている。さすがに女神のプロ意識かプライドがあるらしい。呼び声には答えて素足を再び床に付けた。

「大女神様。この男は異世界から現れた我々の厄災です」

「もちろん……我にとっても同じ」

「では死刑の焼却魔法を」

「それはいけない」

「なぜです!」

 とは言うものの、女神は理由を探して苦しんでいた。まさか俺との因縁を赤裸々に語ったりは出来ないはずだ。自分の株を下げることになるからな。

「この男を裁くことは出来ない。我はこの男と賭けをしている」

 くそっ。上手く言い逃れやがった。実際はそんな綺麗な話じゃ無かっただろうが。ちなみに女神はその気になれば俺の脳内を見通せる。しかし当人の気を悪くさせるだけと学習したのでもうやって来ない。

 信頼のある女神の命令により俺の手錠は外された。村の厄災だと祭り上げられた俺が自由になるなんて、もちろん喜ぶ人は誰ひとりいるわけなかった。

 さらに女神はこの場を借りてこんなことを言い出した。

「この男には不自由させないよう住む家と食糧を保証すること。その他は好きにさせておくと良い」

 人々は驚くあまりに声を失っている。その隙に女神は逃げるようにして自分の住み処へと天昇した。

 それが異世界生活一日目。殺されかけたが無事だった。やっぱり主人公は何かの力で守られている。こういうのを女神の祝福って呼ぶべきなのか。お祈りとか捧げた方が良いのか。いずれにしてもあの女神は、二度と俺には会いたくないだろう。

 晴れやかな気持ちでいる俺と、周りの温度差はめちゃくちゃあるが。殺そうとした奴らに情をかける必要もないよな。

「おい。聞いただろ? 俺を手厚くもてなせよ」

 警察官の肩を小突いてやっても、再び手錠をかけられるということもない。
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