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006-008 転生の目的は寿司を食ってから

006 俺は寿司を諦めない

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 それから月日は過ぎて、俺はこの村にも馴染んできた。とか言いたいが、さすがにな。

 空き家を一軒もらった。ただし屋根があるのはほんの一角だけだった。雨ざらしになるところは床板が腐り、壁も朽ちている。むき出しの地面は雑草の寝床だ。俺はこの我が家をリビングから中庭が見えるモダンな家だってことにした。

 食糧も貰えている。村人は神という存在をひたむきに崇拝しているから、ぴったり時間通りに三食の配膳が届けられた。しかしそれが毎食同じもので俺は飽きた。

「寿司が食いたい。あと、このミルクは腐ってるだろ」

 手抜きの飯は村人による軽い嫌がらせだった。それは可愛いものとしてもミルクの方は許せない。俺はもう何回も汚物を土の奥底に埋めたもんだ。

「今度また腐ったもん運んできたら、村中に撒き散らすからな!」

 食糧を運ぶのはエエマー。息を吹き掛けただけで一人で転びながら走って逃げていく。そんなに転生者の俺が怖いのか。まるで魔獣と遭遇したみたいに青ざめてたぞ。

 寿司を思い浮かべながらパンをかじっていると、誰も恐れて寄り付かないこの家についに客が来た。「いるか?」と色気の無い声が掛かるから娘さんじゃない。だったら居留守で過ごしたいが、あいにく大体の壁が崩壊していた。

「転生者、話を聞かせてもらいたい」

 あの警察官だ。本業はこの村に配属された護衛兵士らしい。呼び名はカタクナ。他の兵士から中佐と呼ばれているところも見た。

「ミルクの酸味でも語ればいいか?」

「いいや、お前の目的の話だ。大女神様と何の賭けをしているのかが知りたい」

「ああー。そっちの話の方か。だがな、それだけは言えない」

「何故だ」

「お前らの失望を買うからだ。あの女神にどんな理想像を抱いているかは知らんが、きっと俺が話すひとつふたつのエピソードで後悔するぞ?」

 カタクナは静かに唸っていた。俺の言うことなんて素直に聞きやしないが、それより俺と女神の間に何か出来事があるって事実がヤツを悩ませるのだろう。

「……しかと聞こう」

「いーや、まだそう簡単には話せない。俺は寿司が食いたい。酢飯の上に魚が乗った料理だ。用意してくれるって言うなら、とっておきを話してやろう」

 他にも色々叶えたいことがあるが、ひとまず最初は難易度の低い要望で試してやる。
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