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056-061 モンスターハウスでモテている

056 俺は会話が頭に入ってこない

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 窓から光が入る一室。インテリアのことを俺は詳しくないが、素人の目でも高貴な部屋なんじゃないかと思える。特に頭上のシャンデリアがそう魅せているのか。

 その部屋の中に初老がひとり。それから若めの娘がひとりだ。初老の方がくらいが高いので、彼は椅子に座って受け答えをする。女はきっと訪問者だろう。机を挟んで立っていた。

 やり取りの様子を俺とフィーカは覗き見している。ドリルみたいなもので開けた壁の穴からだ。さすがフィーカはやる事がぶっ飛んでいるなと感じた。

 それより以下は中の二人の会話だ。俺たちの潜入にとって重要な話がされているんだ。

 緊張感のある空気が、壁の穴を伝って俺にも届いてきた。第一声は女の方から「残念ながら」と始まった。

「レギンス様のお考えには添えません。お言葉は嬉しく思います。ですが私はまだ、特待偵察チームの副隊長のままで任務に参加したいです」

「ううむ。今日も私の気持ちは受け取れないと言うか。しかしそう恥ずかしがることはない。そんなところも君は可愛らしいんだからね。さあ、こっちにおいで」

「い、いけません。レギンス様」

 うん? 違う違う。

 身の上話に目も耳も蓋をして数分後……。

「そうだ。レイゼドールが神の領域を降りるという話なんだけどね」

 そうそう。これだよ。

「新しい街の名前がそろそろ決まりそうだ。もちろん君の持ち込み案件も、会議室の机に並んである。今日の夜には言い結果が耳に入るだろう」

 そう聞くと、女は初老の膝の上から降りた。

「では、隊長の名がついに!」

「ああ。彼は新しい英雄として支持される。私からの推薦だ」

 女は分かりやすく明るい顔になった。相手の続きの言葉「君のお願い事ならなーんでも叶えちゃうよぉっ」を聞き逃すくらい。希望だけを見つめて喜んでいる。

 その間、俺はというと「へえー」と感心した。

 人目を盗んで昼間っから? 何だかイヤらしいことをしているじゃないか。特待偵察チームの副隊長っていうのは、ああいう取り引きもする玉だったのか。

 洞窟では機転の利く頭脳派だったと思っていた。中性的な見た目とクールな態度が、俺のセンサーには引っ掛からずノータッチだったんだが。しかしそれも侮れない……。

「レギンス様ぁ」

「なにかな?」

 一度は離れた副隊長が、そっとまたレギンスに寄り添う。不必要なほどに体を密着させながら、そっと男に短く耳打ちをしていた。

 もちろん何を言ったか俺には聞こえない。された側の反応で察するしかないが、おおむね「大好き」とかを言われたんだろうな。

 若い子に鼻の下を伸ばしちゃって。お触りの手も伸ばしちゃって。これ以上は見てられない。胃もたれを起こしている。

 壁から離れると、俺はオエーっと舌を出していた。横からもオエーと聞こえた。珍しくフィーカにも毒気の強いシーンだったらしい。
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