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056-061 モンスターハウスでモテている

057 俺に恋をされても嬉しくない

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 俺の使命は女神の要望を叶えてやることだ。女神が訴えた大小さまざまな要望を「女神バウンティ」と勝手に呼び、それらをクリアすることで俺の願いが叶えられる。

 バウンティは忘れないよう箇条書きでメモ帳に綴った。それに目を落とせば、こうある。

『レイゼドール。殺処分希望。ただし殺すな』

 あれれ? とは俺もなった。何故ならそれは、消えていた項目だったからだ。クリアしたはずの要望が何食わぬ顔で再度現れている。

 それは一見、女神の嫌がらせかと思ったが、実は深刻な問題が起こっていたのだ。

「急いで! レイゼドールが処刑されちゃう!」

 俺がいたぶった英雄神は、社会的に殺されたのでは済まされずに、どうやら本当に国によって殺されるみたいなんだ。

「だるいな……。男女問題のいざこざは当事者二人で解決して欲しい……」

「言ってる場合!? 仲間でしょ!?」

 フィーカは仲間思いの良い奴だ。俺もそれなりに仲間は大事にする。でも俺は、友人知人カップルの浮気制裁を担ったんだ。それの尻拭いまでさせられるのは、仲間うんぬんの前に面倒臭さが勝つ。

 急いで向かったのが裁判室。しかし今の時間は誰も居なかった。時計を確認すればちょうど昼時だ。隊長がどこで飯を食っているのかなんて俺が知るかよ。

 バタバタと走り回る俺たちは、廊下の中腹に横道があるのに気付かない。

「きゃっ!?」「わっ!?」またもや人とぶつかった。

 こういう時は食パンをくわえておくに限る。名シーンが再現出来たのに。と、アホな事を思って顔を上げれば、男はパンを食っていたところだ。

「お前が食うのかよ!?」思わず声に出してしまった。ちなみに声は野郎のままなんだ。

 ぶつかった男は知った奴だ。しかし今の俺は見ず知らずの婦人なので、ここではそっと彼に寄り添った。男はパンなんか食べながら歩くから、地面に転がったまま盛大にせ込んで涙目になっている。自業自得だよ。

「あの、大丈夫ですか?」

「う、うん。大丈夫大丈夫」

 野郎が作った不慣れな女声だが、倒れていた男をまんまと騙せる。そして彼はむくりと起き上がった。

 目が合った瞬間、男の瞳孔どうこうはガッと広がった。それは信じられないものを目にした時に現れる生理現象だろう。

 まさか俺の正体がバレたか!? とは考えがたい。なぜなら俺は突風のような速さで手を握られていた。

「失礼ですが、あなたの部署は?」

 恋に落ちた男は分かりやすいな。これは俺が女になったから、そう感じるのだろうか。
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