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013-017 新種族との遭遇。命の危機

013 俺はなんにも悪くない

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 カタクナとお嬢さんの進展はそっちに任せるとして。俺は俺でやることがある。バウンティから他の項目も進めていかなくちゃならない。

 これならいけそうだ。女神の要望は『生乳のソフトクリームが食べたい』実はリストの大半がこんな庶民的な内容だったりする。ああいう過激なものもあるけどな。

 俺はこの任務を達成するために村人の助けがいると考えた。手頃なヤツに頼りたいと探して牧草地でエエマーに目をつけた。

「静かに。おとなしくしろ」

 そして捕らえた。厳密に言えば密輸みたいな感じだな。俺を見た途端の逃げ足が追い付かないので、寝込みを襲って縛り上げてみたんだ。

 エエマーは気絶していたが、目を覚ました場所が野外だってことにまずは戸惑う。そして俺がそばに立っていると気付いた。

「手荒なことして悪かったよ。でもほんのちょっと俺に協力して欲しい。生乳のソフトクリームを作って女神の祭壇に持って行きたいだけなんだ。出来るだろう?」

「ふざけるな! この縄を離せ!」

「なんだお前『ええ、まあ』しか言えないんじゃないのか」

 おどろきだ。けど当たり前か。でもがっかりだよ。二言返事ですぐに何でもしてくれると思ったのに。

 俺が残念がっている間にも、エエマーは地面の砂に縄を擦り付けて切ろうとしていた。それには思いのほか殺気立っていたみたい。

「兄貴は前の転生者に食い殺された! 僕がそのかたきを討つ!! どりゃあああ!!」

 エエマーは発火しそうな勢いで縄を擦り付ける。色んな意味で俺は「おいおい」と声をかけ呆れていた。

「前の転生者は寿司好きだぞ。食肉文化とかいつの時代の話してるんだ。ホモサピエンスでも転生して来たのか? それともあれか! 同じ異世界でもモンスターの方に転生しちゃったっていう……あれ」

 可能性の話をしようとしたら、エエマーの方は何やらぶつぶつ唱えている。俺の足にもかかる大きな魔法陣が発光していたし「ああ、神様」とか聞こえた。

「大女神の災いここにあり。今こそその御力を授けたまえ! 出でよ! 自爆魔法!!」

「じ、自爆はやめとけ!?」

 魔法陣から上空へ円形の光が伸びる。しかしそれはぱったり消えた。演出とは思えなく、急に停電したかのような途切れ方だった。

「くっ……まだまだ……!!」

 詠唱はそれから三回は聞いたが、最終的には魔法陣まで光らなくなる。

 エエマーはその場で泣いていた。女神に見放されたと嘆いていた。俺は声をかけることが出来ない。だってそれはたぶん女神がもう俺の目の前には現れたくないだけだ。

「生乳のソフトクリーム……出来るよな?」

 敗北者として抗う気を失くした男は「ええ、まあ……」と、すすり泣きながらも答えてくれた。なんかほんと。すまん。
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