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082-085 最後の大仕事を終わらせよう

084 俺に同情はいらない

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 良い具合に出来上がった神はよくよく語る。

「シャドーエンペラーはな、宝石の闇取引に積極的な貴族だったのだ。宝石とは実に綺麗な石だが、それでしか価値がない。魔石のように自ら発光する代物でなく、太陽の光を反射して光るのだと研究がされてからは、彼らは躍起になった。何故だか分かるかね?」

 分からない。

「彼らは魔法を使えんのだよ。一族のDNAというやつかな。魔力に無縁であると、この世界で生きるのは非常に不利だ。魔石を見極めることも出来ないのであれば、就ける職業も無いのと等しい。なので作戦としては、太陽の力を得てから、宝石という商品に付加価値を付けようとした。それで彼らは真昼に襲撃をかけた」

 ……はあ。なんだよ。大した話じゃないか。犬派猫派の問題と全然レベルが違った。

 そこで太陽神はひとりでハッハッハ。と、急に笑い出していた。この話題に笑いどころが見付けられない俺は、ポカンとしたまま再び太陽神が話し出すのを待った。

「……いやはや。実に愉快な一族だろう。神の力を手に入れようと、剣のみで刃向はむかったそうだ。もちろん、ただの剣でな。ギルドで買った一番高い剣だったらしい。そんなもので神殺しなど出来ると思うか? 自殺行為に他ならないぞ。魔力にものを言わせる我ら神には、どんな攻撃もチクリと痒いものだっただろう」

 ハッハッハ!!

 魔神のように巨大な神。その笑い声は、礼拝堂に広く響き渡っている。俺の乾いた笑い声など、上から覆い被さって無しにした。

「で、お前はそんな話を聞いて、我にどう仕掛けてくるつもりか」

 酔っ払った太陽神は、俺が神殺しに来たことを忘れていない。とろんとした目付きで俺のことをじっと見つめてくる。少し間違えばそのまま俺をまみ上げて、酒のさかなにペロッと口の中に入れられてしまいそうだ。

「お、俺は魔法が使えるからな」

 少し盛った。

「あの魔炎魔法か」

 さすが相手は神だった。俺の唯一の力を知っている。少々鼻で笑った言い方をするのが気に障るが。神にとっては微力なんだろうな。「どうかな……」とは、神が俺を見つめて呟いている。

「シャドーエンペラーのために死ぬのは惜しい勇気ではあるが……」

 殺すにあたいするか査定をしたようだ。結果、俺をこの場で食うという処置を取らずに、食い掛けのブランデーケーキを向けるという手法になる。

 それを俺は無骨に断る。情でも要らん。

「命が惜しいと思ったことは無い」

 別の箱からジュースを見つけて勝手に飲んだ。レグネグドも特に怒ったりは出来なかったようだ。

「辛い人生であったな。だがお前は大したことを成し遂げた男だ」

「分かった風に言うな」

 レグネグドは押し黙ってしまう。しかし神というのは、俺が知っている以上に、色々なことを分かっているんだな。と、思った。
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