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082-085 最後の大仕事を終わらせよう

085 俺の力では勝てない

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「さあ、勝負しろ!」

 酔っぱらい相手に俺は剣を向ける。さっきレグネグドが嫌みのように言って聞かせた、ギルドで一番高かった鉄の剣だ。こいつに魔力があるのかなんて俺には分からない。俺は魔力に無縁な劣性人で命知らずだよ。

 レグネグドは困っていた。俺の事情を知っていると、ずいぶん同情してくれているようだった。

「ここでお前が死ぬとなれば、生前にあるお前の使命は果たされないぞ」

「ああ、分かっている。だが俺はどっちも救いたい!」

 奮い立つ俺にレグネグドは観念した。

「いくら救世主でも全ては救えない」

 そう告げるのを皮切りに、四本の腕に光を集めていたのだ。

 それは極大の力である。特待偵察チームが恐れを成していた俺の魔炎魔法など、本当に比にならないくらいの……。

 …………

 俺は異世界に転生した。その経緯はもはやひた隠しに出来ないところまで来たな。

 俺の命は今、繋がれた状態にある。だいたい死んでから転生してくるのが普通だろうが、俺の場合は、あっちの世界で生死をさ迷った状態で転生しているんだ。

「俺って死んだの?」

「いや、まだ。でも早いうち死ぬよ」

 初めてした女神との会話。真っ白な世界に椅子がポツンとある、よく見たシーンに感動するよりも。

「なんとしても俺を生かしてくれよ!!」

 泣きすがってでも俺は取り繕った。いわゆる未練があったからだ。その中で「何でもするから!」を、女神が拾い上げたことで、転生するきっかけになるんだが。それでも良いと俺は必死だった。

 男の懇願に対し、女神の要望が幼稚過ぎて俺たちは掴み合いの喧嘩をした。しかしそのことで、女神とは普通とは違う信頼関係を築けたと良い意味では思えてある。

 身勝手で適当な女神なんだが、この世界の神という存在がそんなものだと分かったら、別にあれも異常じゃなかったんだ。むしろ要望を叶えれば、交換条件で俺のことも何とかしてくれると言ったわけだからな。

 実は優しい女神なのかもしれない。愛の女神っていうのも的外れじゃないのか……。

 俺はラッキーだったな……。

 …………

「エク○プロージョン・どっかーん!!」

 激しい爆風と業火。それを太陽神レグネグドは蝋燭ろうそくを吹き消すかのようにしずめた。

 こっちは神が作り出した極大の光玉を身に受けて重症だ。でも死んではいない。

「手加減してんじゃねえ!!」

 持っていた少量の回復薬を全て使ってから、俺は再び剣を握った。

 これが最後。太陽神は再び光を集めて魔力を圧縮させている。この時、奴は集中しており動けない。その隙を狙うしかなかった。

 俺は巨大な壁に飛びかかる。神の魔力が放たれる前に、太陽神の腹で鉄の剣が真っ二つに砕けたところまでは見えた……。
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