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030-033 見えない何かを追う人と

033 俺は見たいものしか見ない

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「ええっ!? 見えてなかったの!?」

 壊したテーブルセットの弁償代を支払う横から叫ばれる。立て続けに「そういうのは早く言うべきじゃない?」と、何故か俺が女騎士に叱られる運びになった。

「あっ、そうだ!」は、彼女が言うなら最悪の予感でしかない。

「良いポーションがあるわよ」

「いや。そういうのはもう大丈夫」

「そんなあなただからよく効くのよ!」

「効く効かないを言っているんじゃないから」

 女騎士とは話が合わない。見ている景色も違うみたいだし。これ以上関わる必要も無いだろうなって俺は思うわけで。

「じゃあ、俺は忙しいんで。猫にはよろしく言っといてくれ。さらばだ」

 ひらひらと手を振って去ろうとした。女騎士は「待って」と言った。もちろん待たない。こちらは聞こえないふりに徹する。

「レイゼドールのほこらって、入るにはちょっとしたコツがいるのを知っている!?」

 しかし後ろからそう叫ばれて俺は足を止めた。周りに人がいるのに、あんまり大きな声で俺の目的を言わないで欲しい。

「きっと私を連れていって損はないと思うけど!! ねえ!!」

「……」

 俺よ、迷うな。

 可愛子かわいこちゃんなら他にもいる。何も不思議なお姉さんに構ってあげる必要は無いんだ。色気も無いし俺得にならないだろう。

 見えないものが見えるから何だ。世の中は見えないものだらけじゃないか。見たくても見えない夜は妄想で補ってきた俺だ。十分満足している。

「さよならだ」

 俺は切り捨てる。そしてひとりでギルドの受付カウンターに立つ。俺が来そうになると受付嬢は引っ込み、馴染みの受付爺がいつでも笑顔で迎えてくれるな。

「やあ、こんにちは。お仲間は見つかりましたか?」

 ちらっと俺の後ろを気に掛けていた。

「いいや。後ろのはただの知り合いで。さっき互いの武運を祈ってきたところだ。それよりレイゼドールの祠に行きたいんだが問題ないか?」

「はい。問題は、ございません。お気をつけて」

 受付爺はわざわざ意味深な強調してくる。さっき女騎士が言った、祠に入るのにコツがいるというのが関わっているのか。謎解き要素があるってわけだな?
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