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034-035 英雄レイゼドールとは神である

034 俺は尾行を気にしない

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 旅路は楽チンだ。レイゼドールのほこらは、ギルド会館と同じ街の中にあるからな。

 しかしものすごく驚いたことがある。なんとこの街の名前は「レイゼドール」であることが分かったのだ。通貨のコインも札も、レイゼドールの顔だった。レイゼドールという料理名もこの街では定番らしい。

 俺はレイゼドールでレイゼドールを食べてレイゼドールで支払いをしたわけだ。店を出るときは「レイゼドールの後に続け!」と言われた。良い事ありますように的な言葉なんだろう。

 いやー、まじかよ。勇者って本物なんだな。多分めちゃくちゃ活躍したんだろう。こんなに慕われているなんて思わなかったぞ。俺は感激が止まらず鳥肌が立ちっぱなしだ。

「……お客さん。転生者って言ったかい?」

「ああ、言ったとも」

 街中にある綺麗めの宿。そのチェックインカウンターで俺と店主は向き合っていた。俺たちのやり取りを偶然耳にした人は、旅行に浮かれる顔を強張こわばらせた。店主と同じ顔をしたことになる。

「あんたに案内できる部屋は無いんで、引き返しておくれ」

 物を投げたり罵倒したりは無かったが、静かめな声で店主はそう告げた。あんまり騒ぎにしないで欲しいという意図が伝わる態度だった。

 俺は諦めてこの宿を出た。その時すれ違った若者が「ギルドに寝床があるだろ」と、連れとの会話で言っていた。

 おかしいなと思うか。それとも、そうだよなと思うか。俺にとっては、なかなか難しい問題のように思える。てっきりこの街は転生者を歓迎してくれるものだと信じて疑わなかった。しかし実際は村での嫌がられ様と変わらない。ギルドではぞんざいな扱いなど受けなかったんだが。

 仕方がないからギルドの仮宿から再出発だ。ちゃんと日中に行動できるよう日の出前から出発した。

 早朝の街は霧が広がっていた。雨上がりみたいに湿りっ気がある。石畳の舗装道をずっと歩いて行くと、足音がカタンッタンッと微妙にずれて響くようだ。

 カタンッタンッ……カタンッ、タンッ……カタンッ、カ、タタンッ。

 異世界の足音はまるで二人の人間が歩いているみたいに、妙なずれ方をするんだな。
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