上 下
38 / 100
036-038 一人では到底辿り着けない

038 俺はオッサンを狩らない

しおりを挟む
 おかしなことになっている。女騎士がカタクナに恋愛していた事がもとより最もおかしなことなんだが、それよりもっと上をいくぞ。

 俺と女騎士とは腕を組んで歩いていた。それも俺の提案からでそうした。温もりのある方を見れば女騎士である。女騎士の方から俺は、カタクナに見えているんだろう。

「離れようとするなよ」

「えっ、あ。うん……」

 あんまり色のある声を出さないで欲しいんだが。

 日当たりの良い開けた場所になった。そこではレイゼドールの使者とかいうオッサンらが徘徊していた。

 オッサンは俺のことを見るなり驚いた顔になる。「ミリィ!」「アリス?」「リリアン……」様々な名前で、様々な反応があった。ただし次には全員が同じことを言う。

「いや……。そんなはずがない。すまない。人違いだ」

 オッサンらは甘酸っぱい思いを胸に仕舞っていた。俺は将来ああなりたくないが。なるんだろうな。なんだか虚しい。

「ねえ。そろそろ離れたいんだけど……」

「入るまでなんだろう?」

「そ、そうだけど。暑いし……」

 確かに日差しが暑い。でも、こんな時でも、女子高生は女の子同士でくっつき合ってるぞ多分。それにオッサン避けにもなる。

 俺たちはこのままレイゼドールの祠に入った。地下への階段になった途端、季節が逆転するほど寒くなる。しかし構わず俺たちは離れた。驚くことに俺は、一切もドキドキしなかった。

「お前はすぐにもとの姿に戻ったよな」

「言ったでしょう? 何回か使えば有効時間が少なくなるって」

 ほーん。だとしたら女騎士は何度か使用していたと。鏡に映る愛しい人の顔を見ながら、涙でも流していたってことか。

「な、なによ。じろじろ見ないでよ……」

 多めの瞬きをしながら視線が逃げる。そうして恥じらう彼女の奥では、研磨された鉄の柱に俺の見慣れた顔が映っていた。

 俺は女騎士にデコピンする。

「色のある声を出すな」

 痛がってよろける女を見捨てて、俺は先へと歩みを進めた。後から追っかけて来た女騎士だが、相当怒ってゴチャゴチャと言っていた。

 あまりにもうるさいので、口が無くなる薬は持っていないのかと聞いた。するとますます煩くなった。

 この女の扱いはめんどくさい。でもなんだか理由を付けて、しばらく付きまとわれそうな気配がある。
しおりを挟む

処理中です...