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009-012 ヒロインも恋愛も恐すぎる

011 俺はパンツを見逃さない

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「村人たちよ! 今日から女神に変わって俺がこの村を指揮する! 質素な食事と腐ったミルクを渡してくれたことは水に流してやろう! 全員いさぎよく俺に従うように!」

 村の広間で俺は石を投げられた。罵声と腐ったミルクも浴びせられた。しばらくは広間の悪臭を消すため、俺には清掃を課された。こんな屈辱が許せるわけがない。転生者を舐めるなよ……。

「転生者。ちょっと聞いてもらいたい」

 モップをへし折る俺にカタクナが声を掛けた。娘さんも連れていた。俺はこれから吊し上げに遭うのだと思った。宙吊りでビンタを永遠に食らわされるサンドバッグになるのだと思った。

 俺は二人によって村の外れに連れていかれる。「よし。ここなら人目につかない。始めようか」俺の被害者妄想だったら良いんだけど、現実でカタクナと娘さんはそう話し合っていたんだ。

「ここで見ていてくれ」

「分かったけど……」

 カタクナがひとりで草原に立つ。俺と娘さんはその男らしく広い背中を見守った。いったい何が始まるんだ。ただならぬ予感に怯えているのか、風が上空で荒れている。

「んんっ!! ファイヤーボン!!」

 突如、俺の背中側から突風が吹き抜けた。風はカタクナの方へ向かったが、それよりふわりと煽られた娘さんのスカートが大変だ。顔を上げたら草原の一部に円形の焦げあとが出来ている。

「どうだった?」

「えーっと、悪い。急なんで見れなかった」

「そうか……。だが安心しろ。次のもある」

 またカタクナが俺たちに背を向ける。今度はちゃんと見ておくぞ。たぶん火の魔法を使ったんだよな。

「んんんっ!! フレイムボカン!!」

 突風が来た。見えた。ちゃんと見れたぞ。顔を上げたら草原の大半が火の海になっている。

「どうだ。もう一段階上もあるんだが」

「いや、十分わかった。結構だ」

 爆炎魔法は俺のオリジナルじゃないから素人に唱えさせるのは危険すぎる。

 それにしても、女神の降臨いらずで魔法が使えたみたいだ。借り物の力だと思ってたけど、実はコイツらの誤解だっただけで、全員魔法スキル持ってたんじゃないの?

「でもこれでバウンティひとつクリアか。なーんだ結構簡単じゃん。俺なんにもしてないけど。あっ説得したっけ。じゃあ優秀、優秀」

 俺はウキウキでメモ帳を開いてみる。バウンティページ。その項目のひとつ。『大女神様崇拝がマジでえぐいww大女神とか煽ってるとしか思えんww詠唱クソ長えww自立しろやww』が、解消されたはずだ。

「されてねえのかよっ!!」

 メモ帳を地面に叩きつけてから拾い、俺はカタクナに詳しく話を聞くことにした。
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