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006-008 転生の目的は寿司を食ってから

008 俺は熱意を惜しまない

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「溜まっている……性欲か?」

「素直に言うな。もう少し勿体ぶらせろよ」

 生真面目過ぎるカタクナとのやり取りは事務的で嫌いだ。だが、あの時の「えっ」だけは同志だと感じた。やはりどんな身分で教養が違っていても、しもの部分で俺たちは繋がり合える。しかしこれは俺が悪い。

「期待を持たせてごめん。実は違う。女神が溜めているのはストレスの方。会社でもあるだろ? 中堅社員のうつ病は実は少なくないんだぞ? お前らの神頼みが過ぎるから女神が参ってんだよ。崇拝ハラスメント。スウハラ」

「ハラスメント? スウハラ? それもお前の国の食事なのか?」

 うーん。そういう名詞はそもそもこっちの世界に入ってきていないんだな。

 具体例を説明してやるのも良いが、ちょうど俺は以前の件で言っておきたいことがあった。それを説教代わりにさせてもらう。俺の死刑に唱えた焼却魔法のことだ。

「この前の魔法は長すぎる。あんな詠唱いちいち唱えてんのはまれだぞ。他所なら『ファイヤー!』でボンだ。『フレイム!』でボカンだ。『エク◯プロージョン!』でドッカンなんだ」

「何の話だ?」

「いいか。詠唱は長くても二文まで。神に感謝するのは無し。そういうの心の中だけで良い。聞いてる人間が恥ずかしくなるだろう。単純に飽きるし。読者が逃げるもとだしやめろ。あと神のお時間なんて気にすんな。時短だ。タイパを意識しろ。あと技命はもう少し工夫して愛着を持って欲しい。これは異世界やファンタジーに憧れる少年少女の思いだから必ずなんだ。出来ればビシッと一言で済ませられるやつな? 分かるよなあ?」

 返事を待つ間に俺はガリをガリガリ食っていた。カタクナは話に置いてけぼりだった。まったく、人の話を聞くときはメモを取りながらって、小学校の地域インタビューでやって来なかったのかよ。

 たぶんあまり理解していないと思うが、カタクナはとりあえず頷いていた。ならば良しとする。俺は優しいから、あとで一度言ったことを聞かれても、自分で考えろなんては言わない。

「つまりな? 俺は、お前らが大事大事だいじだいじしている女神の悲痛な訴えによって転生させられた。これから俺は女神の要望を叶えていかなきゃならないわけさ。じゃないと数の子がな」

「数の子?」

「あっ……賭けってのは女神なりの気遣った言い方だから真に受けんなよ。それよりお前らは、女神を過剰に崇拝するのをやめるのを頑張れ」

 俺の言いたいことは以上だ。スッキリした。喋り疲れたことだし俺は家に帰って昼寝をすることにする。また何か用が出来たら寿司を食べに来よう。
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