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009-012 ヒロインも恋愛も恐すぎる

009 俺は女が分からない

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「さーてと。今日は何すっかなー」

 我が家の抜けた空を見上げながら言う。孤独だからわざわざ声に出しても恥ずかしくない。

 俺はメモ帳を取り出した。空間収納魔法。ほんと便利だよな。でもどうせなら空中ディスプレイも体験してみたかった。それも女神にお願いしとけば良かったな。

 無念を抱きつつ表紙をめくる。そこに箇条書きにしてあるのは女神のお願い事だった。俺がじかに聞いて書き留めておいたものだ。

「……」

 少し訂正ラインを引き、書き換えた。「女神の要望」を取り消して「バウンティ」に。そうしたら断然テンションが違う。なんだかやる気がみなぎってきたぞ! 冒険の香りだ!

「あ、あの」

 ガッツポーズを掲げているところに人の声が掛けられた。よく鈴を鳴らしたようだと比喩ひゆされるように、か弱くて落ち着いた女の子の声だった。

「娘さん。おひとりで。どうしました?」

 オタサーの姫だとか冷めたとか言ってもヒロイン格はやっぱり継続。清楚で爆弾乳房はやっぱり良い。とにかく年頃のお嬢さんとの対話は何より大事にしなくてはなるまい。

「少し、良いですか? 転生者様……」

「ああ、良いとも」というか「様」にキュン。

 彼女の元気が無いなというのは様子で分かる。俺に助けを求めたいのだなというのも遺伝子で分かる。答えはオッケーだ。火の海にでも飛び込んであげるぞ。彼女のため息を吸って俺の鼻息になる、奇妙な効果が生まれている。

「カタクナ様からお話を聞いたのですが。私たちが神様へ崇拝をし過ぎだというのは、転生者様が本当にそう思っているのですか?」

 潤ませた瞳が俺を見上げた。身長差的にもちょうど良い……じゃなくて、何だ? 娘さんは俺を説得しに来たのか?

「お……思って……たとしたら?」

「嫌いになりそうです」

「えっ」

 嫌いになり……そう? 嫌いになりますならまだしも、嫌いになりそうですって何。どういうこと?

「俺のこと好きなの?」

「……はい。一目惚れです」

 しかし間もなく俺は彼女にビンタされていた。真っ赤になった娘さんの顔を愛でる時間も与えてくれずに。

 そのまま走り去って行かれるのも謎を残すという意味で一興だが、娘さんはまだここに居残っている。それもまた謎が深い。

 ははーん。ツンデレかぁ。

 俺は強がった。彼女のやり方があまりに理不尽で、持ち上げといて落とすのテクニックが強引過ぎると内心では引いているけど。できる限り強い心を持ち続けた。

 そうだ! 恥ずかしさのあまり主人公をフルボッコしちゃうヤツが物語の上では存在する。娘さんの清楚さとヒロイン格を考慮すれば、ギャップ的にもそっち系な可能性ありだ。

「ビンタは痛かったですか?」

「い、痛かったよ?」

「じゃあ。もう一発良いですか?」

「いや、良くないな」

 分からない。娘さんが分からない。二回目のもう一発って何なんだよ。デレも無しにツンはただの暴力だろ!? 娘さんは俺に愛を伝えに来たのか。神の崇拝を巡って戦争でも起こしに来たのか。やっぱり俺は強がってなんかいられない。逃げないと!
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