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098-100 エピローグ「天罰を下す」

099 俺に発言権はない

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 なんかの時に女神に助けてもらったっけ。俺はその時たしか死んでしまったんだけど、女神がなんとかしてくれて生きれたんだっけ?

「我の願いはまだまだあるのじゃ」

「どうせ下らない願いばっかじゃねえか。レイゼドールにパシらせろよ」

「……」

 俺の言い分はもっともだったんだろうか。女神がぱったり黙ってしまった。

 しかし俺はいつまでここに居るんだ。女神と二人きりで間が持たないんだけど。……まさか。貸しを使って俺をここで飼うとか言わないよな!?

「それはない。我は人間など飼わん」

「……お前、俺の心を読んだのか」

 女神は寝返りをした。露出の高い背中を見せられても、横たわった石像と変わらないと思った。それに対して「失礼だぞ」と、女神は謎の呟きを聞かせてきたりしている。

「我との別れは惜しまんのか」

「は?」

「もういい。行け」

 女神の腰の影から手首が出てくる。人差し指で俺を突くような動きをしたら、俺はたちまち二日酔いのような心地になり、ぐらりと視界が揺れた……。


 …………


「……和彦かずひこさん、お兄さんが来られましたよ」

 変な気分のまま。声に誘われるように意識が目覚める。

 しかし俺が見た景色には、病室ベッドで眠る俺の姿があった。だったら俺は何なんだ。おそらく死んだ魂じゃないだろうか。漫画みたいに上へ昇っていくやつ。

 俺は、長らく会っていない兄の姿を見つけて驚いた。あいつ、メガネやめてコンタクトにしてんだけど。見違えったな。横に連れてんのは……恵梨香えりか。俺の元カノじゃん。どゆこと?

 神視点でいる俺の思考が届くわけないが、母親が眠った俺に教えてくれている。

「和彦。恵梨香ちゃんが来てくれたわよ。あんた、円満に別れたって言ってたけど、恵梨香ちゃん、あんたに嘘つかれたこと相当怒ってんだからね?」

 その通りに、恵梨香は泣きながら俺をけちょんけちょんに叱咤しったした。いよいよ涙が嗚咽おえつに変わったら、兄貴に包容ほうようされている。だからお前ら、なに出来上がってんだよ。達也か和也か死んだ方の気持ちだ。俺の南を返せよ。

 病室へ主治医が入ってきた。他にも数人の変わった服装の看護師を連れている。

「和彦さん、行きましょうか」

 そしてベッドごと運ばれる。俺はもう酸素マスクを付けていなかった。点滴も導尿カテーテルも繋がっていない、楽そうな俺は健やかな表情で運ばれた。

 これで俺はやっと眠れるんだな。

 ……だよな?


 次話、最終回です。
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