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プロローグ

こわいものは

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なんだか、寒い。


…暗い。


あたりを見渡すが、暗いからか当たり前に何も見えない。
暗いというより闇の中、と言ったほうが正しい気がする。


…ここは…どこだ。


キール、キールはどこだろう。


手を伸ばし、左右に振ったり何かに触れないか、何かないかと探るが、空を切るばかり。


「きーる、…キール?」


つい、口から出るのは弱弱しい自分の声。
ふと闇の中をおよいでいた自分の手の先に、何か触れたのがわかる。

人間独特の、その感触。
それに少し安心して、口元が緩む。


「キール?真っ暗で何も見えないんだ…どうなってるかわかる?」

『キールって、誰?』


体がビクンとはねた。
腕らしきところに体を寄せようとしていたが、つい離れる。

聞こえた声は、キールとは違う声。
聞いたことのある、声。
懐かしくて、でも、


『今度は、誰を不幸にするの?』


この、声は…


『生まれた瞬間から、喜ばれたことなんてなかったでしょう?』


昔は、大好きだった声。


『みんなさ、口にはしなかったけど、気付いてたでしょう?気味悪い、怖いって』


昔は一緒にいられるだけで嬉しかった。名前を呼びながら後ろを着いてきて、幸せだった。


『悪魔の子。異端児。…かあさまも、とうさまも、どうして』


やめて、もう、その声は聴きたくない。


『……ラン…』


その声で、俺の名を呼ばないで。
暗いはずなのに、その顔は少しずつ浮かび上がるように、視界に映し出される。


『…セラン……』


やめろ。
…やめて、やめてくれ。

俺を、その声で、呼ばないで。


『…セラン…お兄ちゃん?』

「…っ呼ぶなああああぁあぁ!!!!」




視界が一気に明るく開ける。
大きく見開かれた瞳、それに映ったのは……キールの寝顔。


「………ゆめ……はぁっ、…夢…だよなぁ」


確認するように、口に出す。
つい浅い呼吸になっていたため、未だ胸が早く脈打つのを抑えようと深呼吸を繰り返す。

いつもなら寝起きに一発ひっぱたくレベルである、キールが布団に潜りこんできている行為だが、まず置いておいて。
というか、夢が夢だったからか、人肌に少し安心していることもある。


「今日は、許そう…」


ポツリと、起こさない程度の声量で呟いた。

キールはまだ夢の中のようで、反応はもちろんない。
声に出ていたのか出ていないのか気になるところではあるが、この感じだと多分大丈夫な方、と解釈。

セランは少しずつ体を動かし、キールを起こさないようにとその体に触れた。
顔を方に寄せると、なんだか落ち着いてまた瞼が重くなるのを感じる。

―よかった、キールが居て…

絶対普段なら口にしないような言葉を心の中で呟いて、また目を閉じた。


「……まだ、消えないか……消えるはずないだろうけどさぁ…」


その声が小さく聞こえたのは、セランの寝息が聞こえた頃だった。
そして、その小さい体をそっと自分の方へ寄せた。
あわよくば、今度はいい夢を見られますように。

『言われなくてもわかってたでしょう?気味悪い、怖いって思われてるの』



『……ラン…』


前は、呼ばれたらうれしいはずだったのに。
もう、その声で、俺の名を呼ばないで。
暗いはずなのに、その顔は少しずつ浮かび上がるように、視界に映し出される。


『…セラン……』


やめろ。
…やめて、やめてくれ。

俺を、その声で、呼ばないで。


『…セラン…お兄ちゃん?』

「…っ呼ぶなああああぁあぁ!!!!」




視界が一気に明るく開ける。
大きく見開かれた瞳、それに映ったのは……キールの寝顔。


「………ゆめ……はぁっ、…夢…だよなぁ」


確認するように、口に出す。
つい浅い呼吸になっていたため、未だ胸が早く脈打つのを抑えようと深呼吸を繰り返す。

いつもなら寝起きに一発ひっぱたくレベルである、キールが布団に潜りこんできている行為だが、まず置いておいて。
というか、夢が夢だったからか、人肌に少し安心していることもある。


「今日は、許そう…」


ポツリと、起こさない程度の声量で呟いた。

キールはまだ夢の中のようで、反応はもちろんない。
声に出ていたのか出ていないのか気になるところではあるが、飛び起きたわけではない。この感じだと多分大丈夫な方、と解釈。

セランは少しずつ体を動かし、キールを起こさないようにとその体に触れた。
手の平に感じる温もりになんだか落ち着いてまた瞼が重くなるのを感じる。

―よかった、キールが居て…

絶対普段なら口にしないような言葉を心の中で呟いて、また目を閉じた。




「……まだ、消えないか……消えるはずないだろうけどさぁ…」


その声が小さく聞こえたのは、セランの寝息が聞こえた頃だった。
そして、その小さい体をそっと自分の方へ寄せた。


できれば、今度はいい夢を見られますように。
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